第二百六十五話 逸材発見
事前授業が始まって一ヶ月。
参加者は、大体四十人位で収まっている。
いやいや、人数は多いですから。
毎回来ている子と、たまに来ている子に分かれている。
地方の貴族の子は王都に来たタイミングで参加していて、既に家庭教師を雇っている上位貴族は家庭教師が休みの日に来ている。
この辺は各々の裁量なので、来る来ないは自由だ。
「事前に入園希望者とコミュニケーションが取れるので、親としても助かっている」
庭に出されたテーブルで朝食と紅茶をもぐもぐと食べながら、財務卿が子ども達を見ていた。
どうやら財務卿の孫息子も、たまにうちに来ているという。
今日は休みの日なので、ビアンカ殿下とヴィル様も練習に参加していた。
二人は勿論上級者なので、参加者に教える方にまわっている。
「はーい、今日の訓練は終了ね」
「「「ありがとうございます」」」
そして奇跡が起きている。
なんとエステルが寝坊していない。
どうやら何かある時は起きるというのは本当らしく、子ども達にカッコいい所を見せようとしているという。
動機は不純だが、このまま朝起きる様になってもらいたい。
「エステル先輩は強いの分かったのですが、サトーさんって強いのですか?」
「ありゃ反則的に強いよ。攻撃は全部避けられるし、魔法障壁は超硬い。空間切断剣出されたら、防御関係ないし」
「特に防御力はピカ一じゃな。あの魔法障壁は、妾でも攻略できぬ」
「すげー!」
おっと、ここで俺が強いのかという質問がエステルに出されたぞ。
でもビアンカ殿下にまで褒められると、絶対に実演させられそう。
「まあ、あの防御力は反則ですね」
「ビアンカが言いたい事もわかりますわ」
「物理にも魔法にも強いですわ」
「ぶっちゃけ、あの魔法障壁を壊すのは無理だろう」
「ミミでも無理」
ビアンカ殿下とヴィル様も参加しているので、王妃様達と軍務卿にミミも来ていた。
大人のセリフに、子ども達は更にワクワクしている。
「ということで、遠慮なく魔法を放ってみましょう!」
「「「おー!」」」
そして、やはりというか実演タイムとなった。
俺が魔法障壁を張って、子ども達が魔法を放つ事に。
ちゅどーん、ちゅどーん。
「ほら、遠慮なくやっちゃいなさい」
「くそー、本当に硬いよ」
「全然効果ないよ」
エステルが発破をかけるが、まだまだ子どもの魔法だ。
ビアンカ殿下とかも混じっているけど、このくらいなら全然大丈夫だ。
「はあはあはあ」
「何で破れないのだろう」
「くそー」
しまいにはエステルも参加して総攻撃を仕掛けてきたけど、全然大丈夫だった。
そして、子ども達とエステルはへたり込んでしまった。
ここの所ワープとかを使いまくっていたから、魔力制御が上がったのかも。
と、ここで小さな女の子がトコトコとやってきた。
確か入園説明会にもいた子だな。
中々珍しい、きつね耳の子だ。
金色のふさふさの耳と尻尾を、他の子によく触られている。
「魔法試してみて良い?」
「大丈夫だよ」
何か試したい魔法があるという。
俺はもう一度、魔法障壁を張ってみた。
念の為に厚めに張っておこう。
「えーい」
バリン。
え?
いとも簡単に、魔法障壁が破壊された。
周りの子も大人達もまさか魔法障壁が破壊されるとは思ってもみなく、皆あ然としている。
「も、もう一回良いかな?」
「うん」
もう一回試してみて貰ったけど、今度もあっさりと魔法障壁が破壊された。
しかも、さっきと別の魔法だ。
「「「すげー!」」」
「「「カッコいい!」」」
「あう……」
子ども達が一斉に女の子を取り囲む。
皆女の子の事を凄い凄いと言っているので、女の子はあたふたしている。
俺も女の子と話をしてみる。
「凄いな、ここまでの魔法制御は。マジックブレイクとデスペルだね」
「うん。でも、何故か上手く魔法使えないの」
おや、これだけの制御ができるのに魔法が上手く使えないなんて。
もしかしてだ。
「ちょっと、両手を出して貰っていい?」
「うん」
女の子の手を握って魔力を流してみた。
あ、やっぱり魔力詰まりを起こしている。
というか、魔力が詰まった状態で、マジックブレイクやデスペルを使ったのか。
これは、とんでもない逸材だそ。
「ミケ、ララとリリもレイアもだな。この子が魔力詰まりを起こしているから、詰まりをとってくれる?」
「「「「はーい」」」」
ミケ達に、この女の子の魔力詰まりをとって貰うように頼んだ。
エステルとリンとフローレンスは、他の子が魔力詰まりを起こしていないか確認し始めた。
俺は保護者席に戻っていく。
席には、未だにあ然としている王妃様達や軍務卿に財務卿がいる。
「サトーの魔法障壁を破った人、初めて見ましたわ」
「俺も破られたのはルキアさん以来ですよ。それでいて魔力詰まりを起こしています」
「これは、とんでもない掘り出し物を見つけたかも」
「既にルキアクラスの魔法制御を行えるということですわ」
皆が紅茶を一口飲んでようやく落ち着いた所に、ミケ達がさっきの女の子を連れてこちらに来た。
「魔力詰まり治ったよ!」
「凄い魔力持っているよ」
「リリと同じ位かも」
「レイアと同じ」
口々に女の子の魔力が凄いと言っているが、この子達と一緒のレベルだととんでもない事だぞ。
「あなた、お名前は?」
「ドリー」
「そう、良い名前ね。お家はどこなの?」
「教会の孤児院なの」
「そう、教会なのね」
「うん」
女の子もといドリーは、話しかけてきた王妃様に住んでいる場所とかを聞いていた。
それを聞いた王妃様が、そばにいた侍従に教会の関係者を連れてくるように指示した。
「いやはや、王妃様からの呼び出しとあったので急いできてみたら、この子の事でしたか」
十分後にやってきたのは枢機卿。
どうやら、ドリーには何か事情がありそうだ。
「実はこの子は、とある領で保護された違法奴隷だったんです。どうも魔法が上手く使えないと、虐待されていた様ですね」
「そう、そんな過去があったのですね」
「中々孤児院でも馴染めずにいたので、ちょうど入園の年でもあったので何かキッカケにと入園を勧めてみたのです」
「それで、サトーのうちに通っていた訳なのですね」
「この子が、他の子と話をしているのを初めて見ました。サトー殿の環境が良いのでしょうね」
うちでは一言二言だけど他の子とも話をしているし、エステルやリンとも普通に話をしているぞ。
俺も話をしたし口数が少ないだけだと思ったから、普段話さないなんて信じられないな。
「じゃあ、うちに来る?」
「いいの?」
「うん! ミケが養ってあげるよ!」
「違う、レイアが養う」
「えー! ララだよ」
「リリが養うの!」
そして、案の定ミケの一言によってうちの子になることがほぼ決定した。
ドリーも嬉しそうな感情を出しているし、もう否定ができない。
「この子も喜んでいますし、サトー殿が良ければ教会としてもお願いしたいです」
「普通の教え方では駄目ね。それだけこの子の魔力が強いですし」
「サトーの所で、専門的な教育をしたほうが良いですね」
「将来は大魔法使い確定ですわ」
「いやあ、これだけの戦力だと軍としても有り難いな」
「国にとっても、有能な人材が増えるのは好ましいですな」
お偉方からも言われてしまったので、ドリーはうちで養うことが決定。
ミケ達がドリーの手を引いて、エステルの所に戻っていった。
お屋敷では、話を聞いたマリリさんが既に動き始めている。
ちょうど差し入れを持ってきたスラタロウは、さっそく歓迎会の料理の内容を考えているみたいだ。
ちなみに聖女様の魔法障壁を破った凄い逸材がいると、今日うちに来た偉い人経由で王城内に噂が広がっていった。
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