第二百六十四話 事前授業開始
「「「「おはようございます!」」」」
翌朝、うちの前には二十人の入園希望者の姿があった。
毎年百名入園するらしいので、既に二割の入園希望者が来ていることに。
大半が一般市民の子だけど、中には下級貴族の子もいる。
いや、俺が懸念しているのはこの人数を教える事ができるかということだ。
「全く問題ありません」
「まだ大丈夫ですよ」
剣技担当のガルフとオリガからの、有り難いお言葉。
「軍では、百人二百人当たり前だよー」
「ハハハ、二十人なら楽勝だぞ」
既に軍で大人数を教えているリーフとシルは、少ないくらいだと豪語する。
「パーティールームを使えば大丈夫です」
「人に教えるのは、自分の為にもなりますよ」
フローレンスもリンも、勉強を教えるのも全く問題ないという。
マリリさんとマルクは既にタオルや飲み物の用意をしているし、スラタロウとタコヤキも差し入れの準備をしている。
もしかして、俺が心配しすぎだった?
皆仕事があるので、当面は朝七時から九時までの二時間で行うことに。
ちょっとやってみて、効果を試す事になった。
「その数だと、一般市民は殆ど来た計算になるな」
「毎年このくらいの割合なんですか? もう少し多かった気がします」
「それは、今年はサトーのところが入るのが大きいのだろう。目立った学生が入園する時は、一般市民も多めに入園している」
仕事中に宰相と話をしていたけど、一般市民の入園希望者は二割よりももう少しいた。
今年は王族もいるしうちの子もいるから、目立つ世代なのだろう。
「一人、気になる子がいました。ド派手な服を着て偉そうなのですが、とにかく何をやっても駄目で。しかもエステルとかがアドバイスをしようとしても、全く話を聞かないんですよ」
「ああ、ビンドン伯爵の所だな。父親もプライドの塊で、貴族主義の取りまとめを狙っている」
「あ、納得しました。母親も物凄かったので、何かあるなと思いました」
「他にも貴族主義の連中の子が入園するが、どちらかというと大人し目だ。一人だけ目立つかもしれない」
こればっかりはしょうがないな。
どんな人が入ってくるか分からないし、入園を制限するわけにもいかない。
トラブルを起こさないように、俺も気をつけないと。
「特にカリキュラムについては問題ないと思います。紹介された教員も、良い人が多いと」
「この前の贈収賄事件以降、学園も色々と改革しているそうだ。組織改革の真っ最中だよ」
「徐々に良くなっていけばいいですね」
単位を巡る、教員と保護者間での贈収賄事件。
成績偽造もあったから、より一層コンプライアンス遵守が求められている。
そのお陰で、やる気のある若い教員が目立っているらしい。
チナさんもその中の一人だ。
「しかし、うちで事前授業やるのは聞いてませんでしたよ」
「ハハハ、どうもレイアと陛下で色々やっていて、それに王妃様と軍務卿が乗っかったわけだ。どうせなら、優秀な者を沢山だそうとしたわけだ」
「ドッキリ成功」
「いやいや、ドッキリじゃないから」
優秀な者を出す手伝いなら歓迎するけど、せめて一言教えて欲しかったな。
帰ったら、今日の成果を教えて貰おう。
「本当に基礎の基礎からなので、全然大丈夫でしたよ」
「魔法も、魔力循環とかの基礎からだねー」
「人に教えるってちゃんと理解していないと出来ないので、良い機会です」
オリガとリーフとリンに今日の様子を聞いたが、何も問題ないという。
うちに来た子はやる気があるので、教える方も楽だったらしい。
ドラコ達も一緒に混ざって教えたり訓練していたので、いい刺激になった様だ。
「「「「おはようございます!」」」」
それもあってうちにきた子が他の子にも声をかけたのか、次の日は三十人に増えていた。
一般市民の子も、貴族の子も増えている。
保護者と思わしき人もチラホラ来ている。
「多分こうなると思っていましたよ」
「子ども達が、他の子にも教えたいと言っていましたね」
オリガとガルフが、さも当然の様に話して準備している。
子ども達も、ストレッチとかをして準備中だ。
そこに、意外な人が現れた。
「やーやー子ども達よ。今日もきているね」
「え! エステルが起きている!」
「失礼ね。何かある時は、ちゃんと起きるわよ」
この時間は、いつもグースカ寝ているエステルが起きてきた。
これだけでも奇跡だと思いたい。
「それに、早朝の運動はダイエットにいいんだ」
ニヤリとして、エステルが胸を張っている。
その一言がなければ、色々と決まっていたのに。
とりあえず、今日の訓練も開始だ。
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