第二百十話 住民移送作戦開始

「これは酷いですね」

「そこら中で道が寸断されておる。地方の村が孤立しているぞ」


 ドラコの母親の背中に乗って上空から見ると、地震被害の凄まじさがわかる。

 そして、火山の麓に大きな街が見えてきた。

 というか、街がこんなに火山に近いってやばいのでは?


 街の近くに着陸して貰うと、人型に戻ったドラコとシラユキの母親は、街の近くの火山を改めて見つめていた。


「まずいわね。このままでは、火山が噴火したら街を直撃するわ」

「山も熱くなっているみたいだし、急がないと」


 深刻そうに見つめる先で、山頂で噴煙があがった。

 おい、いきなり噴火かよ。

 

「大丈夫。一日、二日で大噴火はしないわ」

「その間に何とか避難させればね」


 その言い方だと、一週間以内に大噴火すると言っているようなものですよ。

 とにかく俺達は街の中に入ったが、辺りは瓦礫の山で悲惨な事になっていた。


「あっ、誰か来た!」

「助けてくれ!」


 俺達に気がついた街の人が近づいてきた。

 怪我をしているので、治療しながら話を聞いた。


「領主はどうした? 救出部隊は?」

「領主と有力者は、馬車に乗って逃げたよ」

「街を見捨てたんだ! 俺等は捨てられたんだ!」


 え、予想以上の事になっているぞ。

 これは一刻も早く、街の人を助けないと。


「ふざけた領主だね。私が捕まえてやるよ!」

「「ひいい」」


 と、ここで領主に激怒したドラコの母親が龍に姿を変えて飛び立った。

 なんでも悪人は匂いで分かると言うので、すぐに捕まえるという。

 そして目の前に龍が現れたので、街の人を驚かせてしまったようだ。

 大変申し訳無い。


 ここからは手分けしての作業なんだが、ニール子爵領に比べてブレンド伯爵領の街はもっと広い。

 できるだけの救出班を呼び寄せて、治療してはニール子爵領に転移させることを繰り返すことになった。

 ミケとドラコには悪いが、遺体があることを前提として瓦礫の処理を手伝ってもらうことにした。

 幸いにも生きている人でできる限りの人を搬出していたので、作業はスムーズだった。

 ドラコの母親が追加の赤龍も呼んでくれて、俺とスラタロウとショコラと併せて街の人を運んでいく。


 ズドーン、ズドーン。


「わあ!」

「きゃあ」


 その間も火山は噴火を繰り返し、街の人を恐怖に陥れた。

 そんな中、倒壊している領主邸に人の反応があった。

 心情的に嫌だけど、亡くなっている人はビアンカ殿下の冷凍魔法で氷漬けにしてアイテムボックスにしまっていく。


「ミケ、この壁の先だ。二人の小さな反応があるぞ」

「任せて!」


 ミケがバトルハンマーを振りかざして外壁を破壊し、できた穴に入り込む。

 えーっと、いた!

 本棚とベットの隙間に、子どもとメイドさんがいる!

 気絶しているようだが、命に別状はなさそうだ。

 何とか二人を引っ張り出し、外に出す。

 回復魔法をかけると、まだ意識は戻らないが呼吸は正しいものになった。

 この二人を、ニール子爵領のお屋敷に連れて行く。

 きっと貴族関係の人だと思う。


「カロリーナ! 無事だったの!」

「あ、やっぱり貴族関係だったか」


 エスメがメイドの顔を見て、直ぐに誰だか気がついたようだ。

 なんとエスメと同じクラスの実習生だという。

 実家に帰って侍従の実習中だったか。

 赤ちゃんは流石に誰がわからないけど、そこは万能メイドのマリリさんにお願いをしたら、あっという間に対応してくれていた。

 こっちはエスメとマリリさんにお願いしよう。


「ニール子爵様、死者も多いのですが生存者も結構おります。すみませんが、できるだけ連れてくる様にします」

「それは大丈夫だ。陛下からも申し付けられている。逆に火山が噴火しそうな状況で、色々頼んで申し訳ない」


 ニール子爵にこちらのことを任せっきりにしているけど、追加の文官もいるので何とかなっている。

 後はひたすら人を運ぶだけだ。

 俺は崩壊したブレンド伯爵邸に戻った。


「くそ、離しやがれ!」

「我々を誰だと思っているんだ!」

「今直ぐに解放しなさい」


 戻ると、豪華だったであろう馬車とその前に喚き散らしている三人の大人がいた。

 執事っぽい人もいるけど、この人は完全に観念しているのか大人しかった。

 豪華そうな馬車はドラコの母親に掴まれたのだろうか、くっきりと大きい爪の跡がついていた。

 因みに馬は無理な行軍をしたために怪我したという。

 この馬も保護されて、治療してニール子爵領に送られたという。

 そしてドラコの母親は、呆れた顔で三人を見ていた。


「最初は頭にきて勇んで行ったけど、コイツラの余りのクズぶりに呆れたよ」


 俺もその気持ちはよく分かる。

 タヌキ侯爵以来のクズっぷりだもん。


「儂ら親子が生きておれば、ブレンド伯爵領はどうにでもなるのだ」

「部外者は引っ込んでいろ!」

「さっさと縄を解きなさい」


 なおもグタグタ言い続けるタヌキ三匹に、とりあえず質問をする。

 因みにドラコの母親は三人に呆れたので、住民を運び出す作業をやるためにこの場を離れた。

 

「さっき領主邸から、カロリーナと小さい子どもを救出した」

「ふん、それがどうした。カロリーナは死んだ側室の子どもだし、ガキはメイドを孕ませた子だ。正妻の子ではない」

「嫡男の私がいれば、全て済むことだ」

「正妻のわたしでない子どもなんて、道具にすぎないわ」


 駄目だ、コイツラと話をしていると、脳みそが腐りそうだ。

 ちょっと話をしただけで、こんな事を言ってくるなんて。

 ドラコの母親の気持ちがよく分かる。

 ということで、タヌキ三匹は退場してもらいましょう。

 

「ふむ、中々の事を言っていたそうだな」

「え、は、え?」

「領地を放棄して逃げるとは、前代未聞……ゴレス領の件があったか」

「何れにせよ、職務放棄だな」


 王城大会議室の対策本部にご案内。

 すると陛下や閣僚が、ブレンド伯爵を早速囲んでいる。

 皆さん青筋をたてているな。


「すみません、住民の避難対応に戻ってもいいですか?」

「こちらは任せておけ。住民は頼むぞ」


 陛下からの有り難い言葉を頂いたので、俺はブレンド伯爵領に戻る。

 因みにニール子爵領とブレンド伯爵領を往復している若い赤龍からの報告で、街の直ぐ側の谷底に豪華な馬車が落ちていたそうだ。

 直ぐに引き上げたが生存者はおらず、逃げ出した街の有力者だと言うことが分かった。

 コイツラも検分しないといけないから、氷漬けにしてアイテムボックスにしまうことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る