第二百九話 ブレンド伯爵領救出作戦

 チュンチュン。

 お、朝日が登ってきたぞ。

 俺の周りでは、子ども達が集まって寝ている。

 昨日は夜通し治療をしたから疲れたが、気が昂ぶっているのか眠気は余り襲ってこなかった。


「それでも少しは休んで下さい」

「それは、フローレンスも一緒だろう」


 夜中も救出された人が運ばれてきたので、俺とフローレンスは起きて対応していた。

 今日からは、昼夜二交替で体制を分けたほうがいいかも。

 リンが早めに起きてきたので、日差しが出てきて眩しいので、テントを屋敷の庭に出して仮眠を取るようにした。

 勿論フローレンスとテントは分けたよ。


「思っていたよりも酷い有様じゃな」


 仮眠から起きると、陛下と閣僚が視察に来ていた。

 スラタロウも寝ていたから、ショコラが連れてきた様だ。

 主人のエステルはまだ寝ているが。


「すみません陛下、迎えに行けず」

「サトーはもう少し休んでおれ。夜通し治療をしていたと聞いたぞ」


 それでも現地の様子が知りたくて、臨時の対策本部に陛下と向かった。


「飛行可能な従魔に指示をして、がけ崩れ等で通行不可能な街道を探しておる」

「一つ心配なのは、ニール子爵領とブレンド伯爵領に繋がる街道が全て通行不可になっているということだ。領民が脱出できない可能性もあるな」


 流石はビアンカ殿下、街道の調査まで頭が回らなかった。

 ブレンド伯爵領に通じる街道が全滅だと、ブレンド伯爵領は陸の孤島になっている可能性がある。

 

「ニール子爵、ニール子爵領側で起きている通行止め区域はあるか?」

「ブレンド伯爵領とは少し離れていますが、この街道は我が領内です」

「ふむ、ここなら山沿いではなく他の地域へも向かうことができる。サトーにビアンカよ、悪いが人の手配を頼む」

「スラタロウが起きたら、馬と共に向かいます」

「サトー達のお陰で、災害の割に被害を最小限にとどめる事ができた。壊れた住宅の解体などがあるが、引き続き宜しく頼む」

「はっ」

「ニール子爵、復興に向けては特別予算を編成する。復興官も派遣するので、引き続き頼む」

「承りました」


 陛下達を王城に送り届け、俺はスラタロウと共に馬に乗って通行止め区域に向かう。


「お、これなら直ぐに直りそうだ」


 ここは通行止めといっても、地割れと倒木がメインだ。

 俺は道を塞いでいる木を空間切断剣で切りながら、どんどんアイテムボックスにしまっていく。

 街道にできた地割れは、スラタロウが土魔法で補修していく。

 周りの様子も確認したけど、他に通れない所はなさそうだし一時間で作業は完了。

 

「あのー、この先のニール子爵領へ向かえますか?」

「はい、今通れる様にしましたよ」


 少しすると、ブレンド伯爵領の領民がこちらの様子を伺いながらやってきた。

 どう見ても、ブレンド伯爵領から避難したい人の様だ。


「ブレンド伯爵領の様子は分かりますか?」

「それが、殆どの街道が潰れていてどこにもいけないです。ただ、ブレンド伯爵邸も潰れて領主様も死んでしまったと専らの噂です」

「え、それでは現場はどうなっているんだ?」

「いや、それがさっぱり分からず。何せ街に入ることすらできないのです」


 おいおい、本当にブレンド伯爵領が壊滅状態かもしれないぞ。

 領民もどうしていいかわからないようだ。


「ニール子爵領の街に、別口で難民キャンプを作ってある。そこに向かうことは可能か?」

「それは有り難い事です。いつもニール子爵に行ってますので、道順は大丈夫です。皆を連れていきます」


 ブレンド伯爵領の領民は、直ぐに元来た道に戻っていった。

 俺も直ぐにニール子爵領に戻った。


「成程、しかし道が使えぬ以上は現地に向かえぬ。しかも下手に手出しもできぬ」

「中々に難しいですね」


 屋敷にいるビアンカ殿下と話をしたが、貴族主義の連中が自分でどうにかすると言っている以上、こちらはどうにもできない。

 ブレンド伯爵領から難民が到着しているが、人数も少数でさっきの話以上の事は分からなかった。


「幸いにして、ニール子爵領は少し落ち着きました。崩れた建物も半分以上は撤去できましたし、仮設テントがありますので当分は大丈夫です」


 エスメが報告してくれたが、思ったよりもニール子爵領の状態は悪くなかった。

 建物が崩れて圧死してしまった人も二桁を超えていたが、それで済んだのもある。

 獣人部隊による建物の補修も始まり、ゴレス領からも建築用の木材の運搬も始まったという。

 木材の到着まで十日はかかるが、それまでには建物の解体も完了する予定だ。

 おまけにバルガス様が、地震に強い建物を作る設計士を派遣してくれるという。

 本当に有り難いことだ。


「お、父上からの連絡だ。急ぎ王城に来てくれとあるぞ」

「直ぐに行きましょう」

「私もお供します」


 ここでビアンカ殿下に緊急の連絡が入った。

 俺はとっても嫌な予感しかしない。


「ビアンカにサトーにエスメ、結論から言うと、今すぐにブレンド伯爵領に向かってもらう」


 陛下がだいぶすまなそうな顔をしていた。

 何となく想像ができたけど、やっぱりこの流れか。


「貴族主義の連中は、救助隊の結成すらしてなかった。王都の揺れを真に受けて、現地がそんな状況だとは思ってもいなかったようだ」

「アホ過ぎる……」


 もしかしたらと思っていたけど、やっぱりそうかよ。

 本当に貴族主義の連中は駄目だよ。


「そして、ニール子爵領の現状と先程陛下に連絡した状況を伝えたら、早々に白旗を上げたと」

「まるで現場にいた様だな」

「そのくらい、妾でも目に浮かぶのじゃ」

「私も想像できました」


 何ともアホな奴らだよ。

 しかし、そのアホのせいで人命の救出が遅れている。


「こうなったら、空から現地に入るしかないな。ドラコとシラユキの両親に頼むか」

「飛龍よりも早いので、それしか選択肢がないですね」


 ということで、ニール子爵領に戻り部隊を分けることに。


「正直な話、凄惨な光景になっている可能性が高いので、できれば子ども達は連れて行きたくないですね」

「それはどうしょうもない。だが、建物を解体する手も必要じゃ」

「うーん、先ずは俺達で先乗りして判断を決めましょう」

「そうじゃな。妾はいくぞ」

「本当はビアンカ殿下も控えてほしいのですが」

「そこは王族の宿命じゃ」


 先ずは俺とビアンカ殿下にエステルとリンで、ブレンド伯爵領に向かうことになる。

 というのをドラコの実家にいき、ドラコとシラユキの母親に説明した。


「そのくらい任せなさい。というか、私達をもう少し頼っていいんだよ」

「そうですよ。娘もお世話になっているんだから」


 ドラコとシラユキの母親は、呆気なくオッケーを出してくれた。


「土砂崩れの箇所は、うちの若いのに任せな」

「鉱石採掘で、岩盤破壊は必須なんですよ。練習の意味合いもありますが」

「すみません、有難うございます」


 土砂崩れの対応もついでにできたので、赤龍の若者とも一緒にニール子爵領へ。

 ニール子爵領に到着すると、直ぐに赤龍の皆様の顔が険しくなった。

 視線の先には、遠くブレンド伯爵領の火山がある。


「サトーさん。あの火山は活動期に入っています。恐らくは今回の地震も、火山の影響で間違いないと」

「えっ? 本当ですか?」

「はい、私達赤龍の大人は火山に対して敏感に反応します。娘達にはまだ無理かと思いますが」


 シラユキの母親が答えてくれたけど、赤龍が皆反応するのだから間違いないだろう。

 ビアンカ殿下も急いで陛下に連絡した。


 赤龍の若者はエスメの指示で、土砂崩れの現場に向かった。

 俺等は龍の姿になったドラコとシラユキの母親の背中に乗り、急いでブレンド伯爵領に向かった。

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