第百九十一話 ドワーフ総督との会談
固まっていたドワーフの総督が何とか動き始めたので、先に陛下からの手紙を渡した。
総督は手紙を見て、書かれてある内容にびっくりしていた。
「いやあ、噂では聞いていましたが、まさかこんな事になっているとは思っていませんでした」
「ここは自治領だから、中々王都の話とかは入りにくいからのう」
「貴族主義の連中は、我々にもちょっかいを出してきました。何故王国にドワーフの自治領があるのかと」
「困ったものじゃよ。今や奴らこそ異分子に成り下がっておる」
そりゃ貴族主義の連中にとって、ドワーフが治める自治領なんて格好の攻撃対象だろう。
奴らは、ある意味人間主義でもあるのだから。
「実は貴族主義の連中は、我々が作る武器も要求してきました。しかも支払いは後払いでと無茶な要求です。勿論断りましたが」
「奴らは最初から金など払う気はないじゃろう。しかし、それ程の武器をなぜ購入しようとしたのか」
「しかも貴族主義のトップであったロンバード侯爵ではなく、別の貴族なのです」
おやあ、これはきな臭いぞ。やはりタヌキ侯爵とは別の勢力が、この国で何かをするつもりだ。
「購入要求をしてきたのは、ダンビル伯爵とその一味です。購入要求では何も罪に問えませんが、ここのところ怪しい動きをしているのは間違いないです」
「確かタヌキ侯爵亡き後、貴族主義のトップに立ったやつじゃな。これは、至急父上に報告せねばならぬ」
ビアンカ殿下は、直ぐに陛下に連絡を取った。
「ちなみにですが、その要求があったのはいつですか?」
「要求自体は数ヶ月前からあります。最近特に要求回数が増えてきています」
「となると、奴らはタヌキ侯爵の自爆前から何かしらの計画を立てていることになりますね」
「明日にでもミケ達に調査を依頼する。何かしらの情報が掴めるかもしれん」
調査はしておくことに越したことはない。
タラちゃん達の探索能力は凄いからな。
「お、父上から連絡があった。説明するから迎えに来いと言っておる」
最近タクシー代わりに使われている気がしてならないが、王城まで陛下を迎えに行こう。
「というわけで、これは正式な書類だ。今まで各地の防衛のために各領で独自に武器の購入を認めていたが、これからは軍と国境に接しているなどの理由がある貴族のみ購入を認める。購入の必要性がある時は、国に申請をすることにする」
「陛下、随分と手回しが良いですね」
「今回の貴族主義の連中の件で検討しておった。ビアンカからの連絡は、まさに渡りに船だ」
「他にも色々と考えてそうですね」
「レイアの意見もあるが、まだ整理中だ。ちなみにサトーには武器の購入は認めるぞ。何せ王都の巡回の一部を任せているからな」
「いや、うちも流石にそこまで武器は入りませんよ」
目の前に現れた陛下にびっくりしている総督だけど、この書類の効果は大きい。
軍とかは確実に購入にくると言うわけだし、逆にそれ以外には売らなくて良いという。
まあ自分達の領地で武器を作ったらそれでおしまいだけど、生産できる量には限りがある。
「陛下、この書類はいつから発行になりますか?」
「今からだ。既に閣僚会議で決まっているし、軍にも通達が言っている。各貴族にも近日中に通達が出される」
「ありがとうございます。もし購入要求があってもこれを元に断ります」
総督は心から安堵していた。
貴族主義の連中に対して余計な心配をかけなくて済むということに。
「陛下が来ておりますので、もう一つ報告があります」
「何だ?」
「我々の鍛冶場では、赤龍の方より提供されている鉱石を使っております。ただ、最近は供給量が減り、生産が滞っています」
「何と、原因は分かっているのか?」
おおい、結構な問題だぞ。
赤龍の所で何かあったのか?
「実は、その、赤龍王様が、娘が家から出ていったと気落ちしていて。その娘様がドラコ様です」
「は? ドラコ、父親に冒険者になると言っていなかったのか?」
「言ったよ。お父さんにもお母さんにも。お母さんなんて頑張ってって言っていたし」
「はい、姫様の言うことは正しいです。赤龍王妃様にも確認が取れています。ただ単に、姫様がいないのが寂しいのかと」
予想外の原因に、皆あ然としている。
娘が家を出て寂しくて、父親が仕事に手が付かないとは。
「サトー、儂はこの件には何も言えぬ。赤龍王をどうにかしてくれ」
「丁度この後、ドラコの実家に行くので、話を聞いてみます」
陛下も思わずため息をついていたが、気持ちは分かる。
とりあえず陛下を王城に届けて、俺達はドラコの実家を目指すべく総督府を後にした。
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