第百七十三話 襲撃者の捕縛と謁見前のおしゃべり

 ペシペシ、ペシペシ。

 ペシペシ、ペシペシ。


「お兄ちゃん、起きて!」

「起きて起きて!」

「パパ起きて!」


 うん? 今日は謁見の日だけどいつにも増してララ達が俺を起こすのが激しいぞ。

 窓の外を見たら、まだ辺りは明るくなったばっかりだ。

 だけど探索をしたら、どうも例のタヌキ侯爵の寄越した襲撃者が行動を開始していた。

 斥候も動いているから、間違いないだろう。


「ふわあ、迷惑な奴らだな。こんなに朝早いとは」


 もぞもぞと着替えをして、いつでも活動できる様にする。

 ちなみに従魔は起きていてミケも気配に気づいていたらしいが、ドラコとベリルは爆睡していた。


「まさか、こんなに朝早いとはのう。迷惑な奴らじゃな」

「うーん、眠いよ。こんな時間にきた奴ら許すまじ」


 ビアンカ殿下とエステル殿下も起きてきたが、流石にまだ眠そうだ。

 他の人も起きてきたが、眠気で目をこすっている。

 ちなみにタラちゃん達は外に出ていて、何時でも捕縛できる様に準備していた。


「オラー!」

「ウラー!」


 あ、本当にこんな時間に襲撃者が暴れだした。

 大きな声を出して、一部は武器で物を壊し始めた。

 慌てて起きた人々が、教会に一斉に逃げ込んでいった。


「とりあえずは、打ち合わせ通りですね」

「しかしこんな時間に迷惑じゃのう。子どもや赤ん坊が泣いておる」

「突然こんな大声や物音をたてられたら、小さい子はたまったもんじゃないてすね」


 もう少し明るくなってから暴れると思っていたけど、本当に迷惑な奴らだな。

 現にお屋敷でもマシュー君達が泣いて起きてきて、ねぼすけなドラコやベリルまで起きてきた。

 あーあ、マシュー君達は大泣きし始めたから、慌ててアメリア様やメイドさんがあやし始めた。

 街中も勿論のこと、こっちまで被害が出ているよ。

 あ、斥候が何やら報告をしているようだ。何かコソコソしているぞ。

 どうやら無事にタヌキ侯爵に連絡は済んだようだ。

 では、皆さん捕まって貰いましょう。


「捕縛しろ!」

「何で急に兵が?」

「警報の鐘も何もなってなかったぞ」


 俺等も外に出ると、既に騒いでいた奴らは兵によって囲まれていた。

 しかし、騒いでいた奴らをノックアウトしていたのは、街のおばちゃん達だった。


「あんたらが騒いだから、子どもが起きちゃったじゃない」

「赤ん坊が泣きやまないよ。どうしてくれるんだ」

「主婦にとって、朝は貴重な時間なんだよ」

「「「うわー!」」」


 フライパンやお玉などを持った主婦軍団によって、騒いでいた奴らはボコボコにされていた。

 慌てて兵が主婦を止めていて、その間にタラちゃん達が糸で騒いでいた奴らをぐるぐる巻きにしていた。

 俺等は主婦軍団の迫力にポカーンとしていた。

 相手はナイフや棍棒を持っていたけど、怒りの叫び声をあげながらフライパンをフルスイングして吹き飛ばしていたし。

 というか、騒いでいた奴ら弱くない?

 もしくは、怒りの主婦軍団が強いのか。


「ビアンカ殿下、母は強しと言うべきでしょうか?」

「正しくそうじゃのう」


 他の皆も後者の意見だった。


「新しい魔道具は役に立った?」

「はい。警報を使う間もなく、兵が集められました。セキュリティリスクとかもありますが、私は有益だと感じました」


 レイアと隊長らしき人が話をしていたが、どうやら新しい魔道具は有効だったらしい。

 ちなみに今回の魔道具は、城門でボタンを押すと本部でランプが光って異常を報告するもの。

 既に通信の魔道具はあるので、その技術を簡略化したものらしい。

 マニュアル整備とか誤報時の対応もあるが、連絡が早く伝わるのでとてもいいという。

 俺達がコイツラを王都に届ける時までに、レポートを纒めてくれるという。

 辺りはようやく日が出てきたけど、ここで二度寝すると起きられない自信しかないから頑張って起きておこう。


「それでそんなに眠そうなのか」

「はい、もう眠くて眠くて。流石に謁見は頑張って起きています」


 襲撃者を王城で引き渡しをし、アルス王子とかをワープで連れてきた。

 控室にはバルカス様とテリー様もいて、別に二人の貴族が座っていた。

 どう見ても、上位貴族であろうオーラが背後にある。


「サトー殿、紹介しよう。北の公爵とも言われるノースランド公爵だ。その隣がサザンレイク侯爵だよ」

「サザンレイク侯爵は、改革派貴族主義派のどちらにも所属していない中立派の纏め役だ」


 バルカス様とテリー様が、隣にいる貴族を紹介してくれた。

 成程、公爵に侯爵だからあんなに凄いオーラが出ているのか。

 ノースランド公爵は壮年のダンディな男性だ。白髪混じりのグレーの髪をビシッと決めている。

 サザンレイク侯爵は少し赤めの金髪で、見た目は温和そうなおっさんだ。


「ノースランド公爵だ。かの有名なサトーに会えるとは」

「サザンレイク侯爵です。聖女サトーに勇者ミケと知の令嬢ですか。中々凄いメンバーですね」


 あれ? 俺ってこんなにも有名になったの?

 ミケはともかくとして、いつの間にかレイアにも二つ名がついているとは。

 しかし俺が有名なのは、やはり女装姿なんだ。


「サトー殿はいい意味でも悪い意味でも、有名になりましたな。王国で知らぬものはおりませんよ」

「バルカス公爵はそんなサトーを見出したとして、先見の眼があると評価がうなぎ登りだ」


 俺のおかげでバルガス様の評価が上がるならとても嬉しい。

 それはミケも同じなのか、とてもニコニコしている。


「しかし、あのタヌキオヤジは先走って自爆したか」

「昔から出来は悪かったですけど、今回は余りにも酷いですね。中立派にも、貴族主義勢力に漏らさないようにしますよ」


 おお、ノースランド公爵もサザンレイク侯爵も、タヌキオヤジとか散々な評価をしている。

 

「バルガス様、そういえば貴族主義勢力の侯爵と伯爵の名前を知りませんでした。教えて頂けますか?」

「ロンバード侯爵にヤザス伯爵だ。一目見れば直ぐにわかる」


 あのバルガス様をして、一目で分かると言い切った。

 どんな人か楽しみだな。


「儂と学園で同期だったが、クラスも違うのに同級生と未だに自慢しておる」

「先代様は、あえて陛下とロンバード侯爵と同じクラスにしない様にしてましたし」

「未だに女に色目を使うのが趣味ですからな。エステル殿下を息子の嫁と言いつつ、実は自分の嫁にしたいとの噂もありますから」


 そしていつの間にかソファーに座っていて、当たり前の様にお菓子を食べるフリーダム三人組。

 というか、どれだけ女好きなんだよ。

 俺の横でエステル殿下が身震いしているぞ。


「それに飽き足らず、今度は孫娘をウィリアム様の正妻にとゴリ押しする始末」

「儂は、王妃様がタヌキを殺さないか心配しておる」

「私達中立派と改革派は、考え方の違いはあるにせよ国をもっと良くしたいと思っている」

「しかし、貴族主義の連中は昔から自分達の事しか考えない」


 うわー、今度は目の前の公爵に侯爵がタヌキ侯爵をけちょんけちょんにけなし始めた。

 まさに国にとって目の上のたんこぶなんだな。


「しかし、奴らは名誉を異常に気にする連中じゃ」

「今回の事が公にバレれば、暫くは大人しくなるはず。ふふふ、私達の婚約にケチをつけたバツを受けるがいいわ」


 おお、今度はビアンカ殿下とエステル殿下が黒い笑みを浮かべている。

 こりゃ、謁見の場が修羅場になりそうだ。


「まあ、そういうことですわよ。ちなみにウィリアムの正妻には、サザンレイク侯爵の所のルーナに昔から決まっていますし」

「良い機会だから、今回併せて公表する予定です」

「これだけ手を打てば、流石にタヌキも大人しくなるはずでしょう」


 そして、これまた当たり前の様に会話に参加してきた王妃様にフローラ様にライラック様。

 そっか、ウィリアム様は既に二歳にして婚約者がいるのか。

 となると、タヌキ侯爵の野望も打ち砕かれたことになる。


「皆様、お時間になります」


 ここで執事さんが部屋の中に入ってきて、時間になると告げてきた。

 それを受けて、皆もゾロゾロ動き出す。

 ここで、陛下が俺の方を向いてニヤリとしてきた。


「あー、これはまた良からぬ事を考えているな」

「間違いないじゃろう。サトーを伯爵にして、婚約発表をするじゃろうな」

「私もそう思う。でないと、タヌキがうるさいし」


 何となく予想はつくけど、ビアンカ殿下の予想通りだろう。

 王族は別入場になるので、纏まって移動していった。

 俺達も、バルガス様達と一緒に移動を始める。

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