第百六十三話 出発に向けての準備

 朝食前、ニードルラットと遊んでいるマシュー君を見つめているアメリア様達がいた。

 何だかため息をついているが、何かあったのかな?


「ため息なんてついてどうしたんですか?」

「サトー様。私達はあの子の為に何とかならないかと、無い知恵を振り絞って生きないといけないと思ってました」

「それがサトー様の保護下になる事ができ、身の安全が確保されました」

「全財産の没収となると思っている所に、昨日の薬草取りで得た大金。更にあの子達は指名手配を捕まえた懸賞金が入りました。私達はこんなに幸せでいいのか、ふと考えてしまいました」


 実家の大不祥事で一族連座で死刑になってもおかしくない所を、陛下や王妃の配慮で救われた。

 しかも一文無しになるところだったのに、当面の資金も手に入ってしまったのだ。

 まだ八歳の少女には、多くの事がありすぎて考えが追いついていないのだろう。


「今は俺達大人に頼っていいんですよ。成人になるにはまだまだですし、一人で抱え込まないでいいんです」

「そうでしょうか?」

「そういうものですよ。せっかく弟を守って生きていくって決意したところですけど、もう少し大人を頼って子どもらしくしてもいいと思いますよ」


 アメリア様達は考えていた。

 俺としては、アメリア様達ももう少し子どもでいても問題ないと思うな。


「よーし、ボール投げるよ」

「エーちゃん投げて!」


 マシュー様に混じってボール投げをしているエステル殿下は、もう少し大人になってもらいたいが。


「サトーよ、軍の引き継ぎも終わったので儂を王都に送ってくれるか?」

 

 新しく国境に配置された軍も問題なく稼働したので、軍務卿も王都に帰るという。

 思えばブルーノ侯爵領からの、ちょっとした付き合いになったな。

 アルス王子のいる国境に孫のヴィル様を迎えに行き、そのまま王城の控室にワープした。

 控室ではまたもや陛下が何かを食べていたが、もう気にしないことにした。


「サトーが王都で一段落ついたら、晩餐会を開こう」

「皆さんで是非きてくださいね」


 軍務卿とヴィル様からお誘いがあったので、王都についたら連絡しよう。

 ちなみにうさぎ獣人のミミは、このまま軍務卿と一緒に過ごすという。

 なんだかんだで、随分と軍務卿に懐いたものだ。

 軍務卿と握手をして、ギース伯爵領に戻った。


 ギース伯爵領に戻って皆で会議。

 というのも、遺体の埋葬も終わり仮の建物もできたので、俺達もゴレス侯爵領に行かないといけない。


「通常の馬車で三日なら、私達なら二日もあれば着きますね」

「ゴレス侯爵領に人を戻すなら手分けしてワープでいいし、内部の調査を行わないといけませんね」

「うむ、場合によっては人道支援を行わないとならん。手分けする必要があるのう」

「となると、フルメンバーで現地に向かうのが良さそうですね」


 ゴレス侯爵領の隣のブラントン子爵領とマルーノ男爵領は、歩いても半日で着くという。

 ならばまずはゴレス侯爵領に向かうことにする。


「俺達は明日にでもブルーノ侯爵領に戻ります。まあ、依頼を受けているので直ぐにきますよ」


 ブルーノ侯爵領騎士団も明日領地に帰るが、その後工兵を依頼されたメンバーは再びギース伯爵領にやってくる。

  

「俺達も、今日は準備にあてて明日朝出発しましょう」

「そうじゃのう。ついでじゃから、散財してギース伯爵領に金を落とすとするか」


 ということで、明日に向けて買い物をすることになったが、メインは新しく加わった人のみ。

 つまり女性陣の買い物になる。

 この話を聞いた瞬間、シルは猛ダッシュで逃げていった。

 もう女性の買い物が、すっかりトラウマになっているよ。

 という俺も苦手なので、ちゃちゃっと買い物を済ませて書類整理に戻った。


「気持ちはわかります。ヘレーネと買い物に行くと、いつも長いですよ」

「男は黙って待つしかないので辛いですよね」

「うちは、最近まだ小さい娘の買い物も長くなってきました」


 書類整理をしつつ、皆で女性の買い物あるあるを話していた。

 男性は皆買い物で苦労しているんだな。

 共通の話題があると皆の会話も盛り上がるが、女性の悪口にもなるので程々にしておく。


「ピィ」


 突然現れたショコラが、手紙を咥えていた。

 何々? 午後も買い物をします。お昼は屋台で食べてきます。

 ショコラは連絡できた事に満足して、女性陣の所に戻っていった。

 危なかった。買い物に参加していたら一日コースだったよ。

 女性にとって買い物はストレス発散だから、この機会に買いだめするつもりだろう。


「ねーね、遅いね」

「遅いね」

「いつ帰ってくるかな?」

「いつだろうね」

「待ちくたびれたよ」

「俺も待ちくたびれた」


 夕方になっても女性陣が帰ってこない。

 マシュー君達は、ニー達に薬草を食べさせながら門の所で待っていた。

 俺も一緒に待っているが、流石に遅いので心配になってくる。


「「「ねーね!」」」


 と、ここでようやく女性陣が戻ってきたので、弟君達は一斉に走り出した。

 あらら、ニー達を置いてきぼりにしているよ。


「やっぱり、お姉ちゃんが一番なのかね?」

「チュー」


 ニーは、そうですよって言っているようだった。

 良くできたネズミだ。

 ニー達を抱えて行くと、弟君がアメリア様達に抱きついていた。

 寂しかったのだろうな。


「随分時間がかかりましたね。心配しましたよ」

「私達も久々の買い物で盛り上がったのよ」

「おかげで、女性陣は皆仲良くなりました」


 荷物はマジックバックに入っているのか手ぶらだったけど、エステル殿下とリンさんの顔はホクホクしている。

 いい買い物ができたんだろうか、皆でワイワイ話をしていた。


「色々話をしていたけど、どうもクロエちゃんは貴族の子どもらしいんだよね」

「え? 貴族が子どもを捨てたと言うことですか?」

「小規模領地の貴族らしいのだけど、間違いない。生きていると分かったら返せと言われると思うから、早めに養子にするとか手を打った方がいいよ」


 道理で、市井の子にしては礼儀正しいと思ったよ。

 陛下や内務卿に相談をしよう。

 ゴレス侯爵領についたら、内務卿をよぶから丁度いいな。


「買い物は楽しくできたよ。当面の生活は大丈夫かな。まあ、王都に住むことになるんだし、今は最低限の物で大丈夫でしょう」


 新たな事実も分かったけど、とりあえずゴレス侯爵領への道中の準備は終わった。

 明日は朝早いし、今日は早めに寝よう。

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