第百六十話 食べ過ぎ飲みすぎに注意

「うー、頭痛い……」

「当たり前だ。儂より飲んでいたではないか」

「スラタロウが、お酒に合うつまみを作ってくれたからだよ」


 エステル殿下が机の上で潰れていた。

 軍務卿よりもお酒を飲んでいるって事は、どれだけ飲んでいたんだよ。

 ちゃっかりスラタロウの責任にしているけど、流石に自業自得だ。

 今日一日、飲み過ぎを反省してほしい。


「サトー、回復魔法をかけて」

「一緒に大量の書類をやるのなら」

「うー、我慢する……」


 おい、どんだけ書類整理が嫌なんだよ。

 エステル殿下の事は放置して、ダニエル様と書類整理を頑張ろう。

 ちなみに、今日も家の補修とペンキ塗りは獣人部隊とお手伝いの人がやることに。

 昨日に引き続きお願いします。


「今日は午後から面接を行う予定です」

「リストが出たんですね。どれどれ、中々良さそうですね」

「はい。良い人がいれば、早ければ明日からでも働いてもらおうかと」

「ブルーノ侯爵領でも良い人が見つかったので、ギース伯爵領でも見つかればいいですね」


 そう言えばトムさんは元気かな?

 今度ブルーノ侯爵領に行ったときに、トムさんの様子を見に行こう。


「面接には俺も参加しますか?」

「いえ、僕とヘレーネと執事にメイド長と騎士団長で行います。ヘレーネがちょっと張り切っているので」


 ヘレーネ様も調子が随分と良くなったんだ。

 ギース伯爵領の事だし、ここはヘレーネ様に面接官をお任せしよう。


「うー、気持ち悪い……」


 お昼になったので皆で昼食だけど、未だにエステル殿下はグダグダだった。

 二日酔いの状態で荷物運びをしていたら、気持ち悪くなったらしい。

 どうも、昨夜は飲み過ぎただけでなく更に食べ過ぎたらしい。

 当然周りの同情も一切なく、子ども達からもお酒臭いと散々だった。

 食事を摂ることなく、水だけ飲んで救護テントに向かっていった。

 そんなエステル殿下を見送っていたところ、ビアンカ殿下に声をかけられた。


「サトー、フローラお母様が渡したい物があると連絡があった。悪いが妾と共に王城に向かってくれぬかのう」

「大丈夫ですよ。場所の指定はありますか?」

「この間の応接室で良いそうじゃ」

「ではちゃっちゃと行きますか」


 渡したい物は何だろう? っと思いつつ、王城の応接室にワープした。


「おう、早かったのう」


 相変わらず食べてばっかりの陛下が迎えてくれた。

 今日はアイスクリームか。


「突然で悪いわね」

「いえ、ちょうどタイミングが良かったので」


 陛下の横には、何やら荷物をもっているフローラ様がいた。

 一体何の荷物だろう?


「ほら、ギース伯爵のノアちゃんとゴレス侯爵の所の男の子がいるでしょ? お古で申し訳ないけど、服を見繕ったの。オムツも入っているわよ」

「ありがとうございます。非常に助かります」


 これは非常に助かる。

 流石は母親というだけあって、どういうものが必用かというのがわかっている。

 横でアイスを頬につけた陛下もウンウンと頷いている。

 フローラ様は、娘のエステル殿下の事を質問してきた。


「そう言えば、エステルは元気にやっている?」

「えーっと、元気といえばどうかな……」

「何? エステルに何かあったの?」


 しまった、今朝やさっきの事を思い出してしまった。

 不安そうなフローラ様に、ビアンカ殿下がため息をつきながら説明した。


「どうせ直ぐにばれるのじゃ。お姉様は昨晩食べ過ぎ飲みすぎて、今は救護テントにおる」

「……サトーさん、私をギース伯爵領に連れて行ってくれますか?」

「イエス、マム!」


 うわあ、ビアンカ殿下が正直に伝えたら、フローラ様の目つきが鋭くなった。

 これは逆らう事はできないな。

 陛下もアイスクリームで体が冷えていないのに、フローラ様を見てガクガクブルブルしている。

 俺達は急いでギース伯爵領に戻った。


「サトー様お帰りなさい。フローラ様もようこそいらっしゃいました」

「ちょうど良かった、子ども達の服を見繕ったの。お古でごめんなさいね」

「いえ、わざわざ申し訳ありません」


 ワープしたら直ぐ側にヘレーネ様がいたので、フローラ様はにこやかに笑って服を渡していた。

 流石はフローラ様、変わり身がスゲー。

 そのまま救護テントにフローラ様を案内したところ、エステル殿下が醜態を晒していた。


「ウゲー、気持ち悪い……」

「「「……」」」


 食べ過ぎ飲みすぎで、ついに吐いていた。

 それを冷たい視線で見つめるフローラ様。

 何だろう、周囲の気温が下がった気がする。

 ビアンカ殿下も顔色が良くないぞ。


「ふー、吐いたらだいぶ楽になった」

「それは良かったね、エステル」

「本当に地獄だったよ。サトーは回復魔法かけてくれないし。って、お母さん?」


 娘の醜態を見て、般若の顔になっているフローラ様。

 それに今更気がついたエステル殿下。

 あ、エステル殿下の顔が真っ青になっている。

 

 がし。


 フローラ様がエステル殿下の襟首を掴んだ。

 俺とビアンカ殿下は、即座にエステル殿下から目を逸らした。


「サトーさん。申し訳ありませんが、また王城に行って貰えますか?」

「はい、今すぐ行きます!」


 有無を言わさないと言わんばかりのフローラ様のオーラ。

 俺は逆らうことはできない。

 直ぐに王城の応接室にワープした。

 あ、アイスクリームの器だけあった。

 陛下は逃げたようだ。


「サトーさん。申し訳ないけど、エステルの迎えは明日朝にして貰えますか。ちょっと親子のスキンシップをしたいので」

「分かりました!」


 エステル殿下は目で何かを訴えていたけど、俺にはどうすることもできなかった。

 エステル殿下がフローラ様にずりずりと引きずられて応接室から出たのを見送って、俺はギース伯爵領に戻った。

 ビアンカ殿下が待っていたので、俺は黙って首を横に振った。

 ビアンカ殿下は全てを理解してくれた。


「ビアンカ殿下、迎えは明日朝で良いそうです」

「そうか、妾からは何もいえぬ。ましては目の前で粗相をしたからのう」

「現行犯ですから、言い逃れはできないですね」


 俺はそっとエステル殿下が粗相をしたあとを生活魔法で綺麗にして、ビアンカ殿下と共に仕事に戻った。


 夕食時、誰もエステル殿下がいないことに突っ込む事はなかった。

 救護テントでの事を目撃した人が多く、何があったかを理解していた。

 その夜、軍も酒は出ることはなく大人しくしていたという。

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