第五十話 オリガさんとマリリさんの婚約者

「サトーさん、おはようございます」

「サトー様、おはようございます」

「おはようございます、リンさん、オリガさん。朝早いですね」


 夜中に雨が降っていたのか、お屋敷の裏庭は地面が濡れていて草木に雫が垂れていた。

 朝の訓練の前に型の練習をしようと思って向かっていたら、リンさんとオリガさんが既に練習していた。

 手には木剣が握られていたので、どうやら自分と同じ型の訓練の様だ。

 

「オリガさんと訓練前に剣の練習をしていたのですわ」

「昨日サトー様が早くから練習していたので、今日は早く練習するとリン様も張り切っていて」

「もう、オリガさん。それは内緒ですよ」


 なるほど、昨日たまたま早く起きて練習していたのに刺激を受けた様だ。

 でも昨日はミケに蹴っ飛ばされて、早く起きただけですよ。


「ははは、じゃあ俺も型の練習を始めます。腕輪をつけているのでどうもまだ慣れなくて」

「良くわかります。私もまだうまく剣が振れないです」

「いざという時に上手く使えないと、仲間を守れないですね」


 と言うことで、各自型の訓練を開始する。

 体の動きが腕輪で制御されているので、暫くは意識して木刀を振らないと正しい動きで出来ない。

 辺りは暫くの間、それぞれの息遣いと木刀や木剣を振る音だけになった。

 

「サトーよ、朝からご苦労な事じゃ」

「お兄ちゃんおはよう!」


 暫く素振りをしていると、ビアンカ殿下とミケの声が聞こえた。

 ルキアさんやマリリさんも一緒にいる。そして追加の人物が三名。


「おはよう、サトー殿。朝から練習とは関心するぞ」


 一人目はテリー様。

 この領の領主だけど、見た目筋肉ムキムキで見るからに軍人といえる。

 フル装備で来ているあたり、やる気が溢れ出ている。


「皆さん、おはようございます」


 二人目はガルフさん。

 何回か一緒に行動しているけど、爽やかな騎士って感じだ。

 こちらもフル装備で来ている。


「お嬢様、サトー様、オリガさん。タオルをどうぞ」


 三人目はマルクさん。

 何回か接しているけど、確かお屋敷の執事さんのはず。

 今日もビシッと執事服を来て、早朝練習組にタオルと飲み物を差し出してくる。


「テリー様、ガルフさんとマルクさんが本日の参加者ですか?」

「ああ、いきなり知らない騎士を寄越すよりかは知っている人の方がいいだろう」

「確かに知らない人より良いですね」


 いきなり知らない人を寄越すよりはこちらもやりやすい。

 その辺はテリー様が上手くこちらの気を使ってくれたのだろう。

 しかしさらに衝撃的な情報がテリー様からもたらされた。


「ガルフとマルクはオリガとマリリの婚約者だ。互いの事も良く知っているし問題ないだろう」

「……えーっと、誰と誰が婚約者同士何ですか?」

「ガルフがオリガと、マルクがマリリとだ。何だ、知らなかったのか?」

「テリー様、俺は初めて聞きました」

「ふむ、ビアンカ殿下とミケ君も知っていたので、サトー殿もてっきり知っているかと思ったのだが」


 ガルフさんがオリガさん、マルクさんがマリリさんの婚約者なんて初めて聞いた。

 テリー様も俺が婚約者の事を知らないのには驚いていた。

 ミケとビアンカ殿下を見たが、ミケは不思議そうな表情をしていたがビアンカ殿下はニマニマしていた。

 

「ビアンカ殿下、わざと黙っていましたね」

「ほほ、何の事かえ?」

「何かビアンカお姉ちゃんとサーシャさんがコソコソ話していたよ」

「あ、こら。黙っていろと言っておいたのに」

「つまりビアンカ殿下とサーシャさんが犯人ですか」

「犯人とは人聞きの悪い。妾とサーシャの連携プレイと言ってほしいのじゃ」


 くそう、俺以外全員知っているとは。

 脳裏で企みを計画しているビアンカ殿下とサーシャさんが浮かんでくるぞ。


「サトー様、あたらめまして宜しくお願いします。いつもオリガがお世話になっております。」

「サトー様の事はマリリから色々伺っております」

「ははは……ガルフさんにマルクさん。改めてよろしく……」


 改めてガルフさんとマルクから挨拶があったけど、どんな情報が伝わっているか不安だ……


「主人よ、このメンバーなら全ての訓練を見せても良いんだぞ」

「そうだね、下手に隠すよりも良いだろう」

「一緒に訓練しても大丈夫かもねー」

「それは今日の練習を見てもらってからにしよう」


 といことで、シルと訓練内容を相談したけど、今日は何も隠さないで良いとの判断になった。

 テリー様にオリガさんとマリリさんの婚約者なら、隠す必要はないだろう。

 周囲に漏らすリスクも少ないし。

 ただ、リーフが言う一緒に訓練は今日は早いだろう。


 先ずは魔力の循環訓練。

 魔導具組と使わない組に分かれて開始する。


「テリー、ガルフ、マルク。主人達の腕についているのが魔力と体力を制限する魔導具だぞ。体に制限をかけた状態で訓練を行うのだぞ」

「それでミケ達が持っているのが魔法剣の柄だよー。上手く魔力の制御が出来ないと魔法剣が発動出来ないんだよー」

「制御をかけた状態で魔力の循環とは。中々面白い訓練をしておる」

「この魔法剣を使いこなせればかなりの戦力となりますね」

「しかしながら、かなりの魔力制御が求められます。その為の訓練なのですね」


 シルとリーフがテリー様とガルフさんとマルクさんに訓練の説明をしている。

 テリー様は制御かけた訓練に興味を持ったようだ。

 ガルフさんはミケの発動した魔法剣の威力に驚いていたけど、マルクさんは冷静に訓練を分析していた。

 しかしシルよ。またいつの間にか話せる人を増やしていたのかい。


 うーん、上手く魔力循環が出来ないなあ。

 何だろう、魔力は感じるのに循環している魔力の量が少ないっていうか。


「うーん、後はサトーだけだねー」

「魔力は感じるんだけど上手く循環できないんだよね」

「今日はここまでにして、明日見てみよー」


 うー、俺だけまだ循環訓練が継続だ。明日魔法使い組に聞いてみよう。

 そしてこの後は例の地獄の魔法避け訓練。

 今日はスラタロウにタコヤキにホワイトが魔法を放つ役だ。

 タコヤキはスラタロウの推薦で急遽参加となった。

 ホワイトは昨日の時点で参加となっていたのだが……


「あれー? ホワイトどうしたの?」


 ミケがホワイトの異変に気がついた様だ。下を向いて元気がない。

 

「チュー……」

「お兄ちゃん、ホワイトが魔法を当てちゃいそうで怖いんだって」

「チュー……」


 こちらをクリクリの目で見上げて、不安げに俺とミケを見つめていた。

 俺はホワイトの頭を撫でてやった。


「当たってもルキアさんとかいるし大丈夫だよ」

「チュー……」

「それにしっかり狙ってもらった方がいいんだよ。中途半端に狙うと逆に当たっちゃうし。頑張ったらご褒美をあげるね」

「スラタロウ、念の為に補助しておいてね」


 ホワイトの頭をもう一回撫でてやって送り出してやった。

 スラタロウに補助を頼んだから、問題はないだろう。


「うむ、あの様な小さな従魔にも気を配るとは。やはり指揮官として欲しい人材だ」

「サトーは、気を使い過ぎの所もあるのじゃがな」


 後ろの方で、テリー様とビアンカ殿下の評価がまた上がったような雰囲気がする。

 この位普通ですよ。普通。


「まさかこれほどとは……」

「凄まじい訓練ですね」

「魔法の方も相当の制御が必要です」


 テリー様、ガルフさんにマルクさんが唖然としていた。

 魔法の雨霰をひたすら回避する訓練。しかも制御の腕輪付きだ。

 横ではルキアさん達がバレット系魔法の訓練をしている。

 マルクさんの言う通り、魔法使いも魔法の制御する力が求められるのだ。

 

「うむ、三人での魔法回避は大丈夫の様だな。明日も三人で続けてみるぞ」

「もう一人増やすのは少し後かなー、魔法使いの方がかかりそうー」


 シルにリーフよ。俺達を殺す気か。

 四人の魔法なんで前衛陣が本当に死んでしまう。


「はあはあはあ」

「ふうふうふう」

「はーはーはー」

「ふうふう、流石にきついのう」

「えー、もう終わりー?」


 魔法を避ける訓練終了……今日も死屍累々です。

 ミケだけはまたしても終わった事に不満を言っていた。

 昨日と同じくミケ以外の前衛陣は地面に横たわっている。


「皆様、水とタオルです」

「ありがとうございます、マルクさん……」


 マルクさんが水とタオルを人数分用意してくれたので、リンさんが代表して受け取ってくれた。

 こういう心配りが流石執事さんと言ったところか。


「シル殿にリーフ殿。この訓練を考案したのはどなたか?」

「主に我だぞ。魔法の所はリーフも手を入れている」

「そうか。流石にこの訓練をそのまま騎士や守備兵の訓練に当てはめるのは難しい」

「そうだねー。サトー達もまだまだだけど実力があるからねー」


 テリー様が、この訓練はそのまま騎士や守備兵の訓練には使えないと言った。

 個人の能力を上げるのには適しているが、集団戦を主に行う騎士と守備兵には適さないだろう。


「そこでだ。シル殿とリーフ殿に訓練内容を検討してもらいたい」

「我とリーフに?」

「これだけ個人の能力を上げても、サトー殿がいれば集団戦も問題ないだろう。だが我々はそうはいかぬ」

「確かにねー。リンにルキアもいるし、サトーに何かあっても指揮官は問題ないねー」

「これから起きる事を考えるに、騎士と守備兵の力を上げないといけない。個人と集団戦の両方の訓練をお願いしたいのだ」


 なるほどね。ブルーノ侯爵領とランドルフ伯爵領に接しているから、何かしらの事は起こる可能性がある。その訓練メニューをシルとリーフに頼むと言うわけか。

 ……無理させなければいいけど。


「主人、どうだ?」

「シルとリーフがいいなら問題ないよ」

「と言う事だよー。シルとリーフは大丈夫だよー」

「サトー殿、感謝する。代わりと言っては何だが、ガルフとマルクをつけよう。二人とも冒険者登録を行なっておる」


 と言うことで、シルとリーフはテリー様と一緒に訓練の作戦会議。

 今日の依頼はガルフさんとマルクさんがついてくる。後で改めてメンバーを紹介しないとな。


「サトー、お土産よろしくねー」

「我は焼き肉がいいんだぞ」


 お二人は相変わらずちゃっかりしてますね。

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