第四十八話 ギルドマスターとギルドへの協力依頼

「リン様、ギルドマスターのお部屋にご案内いたします」

「ありがとうございます。皆さん行きましょう」

「はーい!」


 ギルドの受付のお姉さん、ギルドマスターから面会の準備が出来たと呼びにきた。

 応対したリンさんが俺達に声をかけたので、ミケが元気よく手を上げた。

 そんなミケの様子を、受付のお姉さん含めて微笑ましくみている。

 受付のお姉さんを先頭に、皆で二階に上がっていく。


 こんこん。


「ギルドマスター、リン様をお連れいたしました」

「入ってくれ」


 連れられたのは二階の奥の部屋。

 ぱっと見どの部屋も扉が一緒なので、名札がないとギルドマスターの部屋とは分からなかった。

 受付のお姉さんが声をかけると中から男性の声がした。


「失礼します。ギルドマスター、お久しぶりです」

「リン様、こちらこそご足労頂き感謝します。どうぞ座ってください」


 中にいたのは中肉中背のいかにも普通なおじさん。

 前世の市役所の窓口にいそうな人だった。

 若干頭皮が後退気味だ。きっとお疲れなのだろう。

 その人に勧められて、ソファーに座る。

 受付のお姉さんがお茶を入れてくれて、そのまま退室した。


「皆さん、この街のギルドマスターのノームさんです」

「初めまして、この街のギルドマスターをしておりますノームです。よろしくお願いします」

「ノームさんはこう見えて格闘術の天才なのですよ」

「いやはや、これはお恥ずかしい。私はどうも筋肉が付きにくいので色々工夫しているだけですよ」


 リンさんがノームさんの紹介をしてくれたが、まさかの格闘術の使い手だった。

 これには俺もびっくりしたが、ビアンカ殿下とミケも興味津々だ。

 ビアンカ殿下は小さく「ほぅ」と呟き、ミケに至っては目が爛々だ。

 そしてこちらも順番に紹介していくが……


「ビアンカ殿下! これは失礼致しました。何卒平にご容赦願います」

「妾は冒険者としてやってきておる。問題ないぞ」


 と、どこかであった同じやりとりがされていた。

 ビアンカ殿下はすっかり外向きの対応になっている。


「ノームさん、父より書状を預かっております」

「拝見致します……ふむ、より詳しい情報が記載されており大変助かります」

「既にこの件で連絡があったのですか?」

「昨日王都のグランドマスターより指名手配の連絡がありましたので、大まかには情報を掴んでおりました」

「そうですか……私達もその方に初心者講習を受けましたので、複雑な気分です」


 リンさんはノームさんにテリー様からの書状を渡した。

 中身は昨日の事件のあらましとかの様だ。

 既に各ギルドにはビルゴの指名手配の通知が行っており、リンさんも複雑な表情を浮かべていた。

 しかしながら、ノームさんの回答はこちらの予想したものとは全く別だった。


「いや、実はビルゴは前々から怪しいと各ギルドマスターの間では噂になっておりました。それが今回の件で確信に変わりました」

「え? そうなのですか?」

「確かに冒険者として実績もあり、特に初心者にも優しいし面倒見も良い。だが、ビルゴが初心者の教官を担当した一定数初心者の冒険者が行方不明になっている。これが怪しいと、前々から我々も調べていたのです」

「そんな……でもどうして初心者を?」

「決まっておろう。闇ギルドへの勧誘じゃろう」

「はい、ビアンカ殿下の仰る通りにございます」


 以前よりビルゴが担当した初心者冒険者が行方不明になっている。

 今まではその理由が不明だったが、ここにきてその理由が分かったのだ。


「俺もビアンカ殿下が言われた通りかと思います。ある程度経験を積んだ冒険者ではなく、何も知らない初心者の冒険者を選び、組織に都合の良い様に育てるのではないでしょうか」

「うむ。教官なら信頼も得やすいし、ある程度冒険者の性質も把握出来のじゃ」

「ビアンカ殿下。俺とリンさんの他に、もう一組一緒に初心者講習を受けた冒険者がおります。しかもビルゴと一緒に薬草採取もしております」

「うむ、これは急ぎお兄様に知らせるべき情報じゃろう」

「サトーさん、それってまさか」

「はい、ガイさんたちのグループです」

「という事だ。ノームよ、急ぎアルスお兄様に連絡を取りたいのじゃが構わんか?」

「勿論でございます。事が事なだけに急ぎでしょう」

「うむ」


 リンさんもあの時言い争いし、さらに同じ初心者講習を受けた冒険者グループが、まさかそんな時事に巻き込まれている可能性があるなんて信じられない様だ。

 だが、あのグループは田舎から出てきているし野心もある。闇ギルドが目をつけるのにうってつけだろう。

 ビアンカ殿下は念の為ノームさんに許可を取り、急ぎアルス王子に事の次第を連絡した。

 今朝連絡した分も含めて、どの様な反応が返ってくるのか。


「ノームさん。受付を訪ねる前に依頼を見ましたけど、随分と護衛の依頼が多いのですわね。その他の依頼は大丈夫なのでしょうか」

「リン様、最近街道で魔物の襲撃が増えております。このバスク領は交通の要所の為に、特に商会からの護衛依頼が増えております。その為、薬草採取や魔物が増えているその物の調査が行えておりません」

「確かに商会からの護衛依頼は依頼金が高い物も多いでしたわ」

「冒険者の数も無限にある訳ではありませんので、どうしても金額で釣るしかないのです。今は難民も多く、また魔物に襲われて怪我をする人も多いので特に薬草が足りません」


 商売は命懸けだから、その分安全をお金に変えているのは理解出来る。

 しかし、元を立たないといたちごっこだぞ。


「サトーさん……」


 リンさんが何かを言いたげに俺を見つめている。

 言いたいことは分かってる。


「今は難民の状況がひと段落したし、薬草採取と魔物討伐をメインに行おう。怪我人も街で治療を行なっても一時凌ぎしかならない。なら元からどうにかしないと」

「おー、ミケ一杯薬草取るよ!」

「サトー様、私もお手伝いします」

「それに突然魔物が増えるなどありえん。背後関係を調べないとじゃ」


 当面の方針を決める。

 魔物退治なら良い修行になるし、薬草取りも大事な仕事だ。

 ミケもやる気十分で、ルキアさんも賛同してくれた。

 ビアンカ殿下は、この件の背後で動いている事が気になっているようだ。


「サトーさん、皆さん。我が領の難題解決にご協力頂き有難うございます」

「私からもお礼を言わせてください。サトー様有難うございます」

「私たちも勿論手伝います……タコヤキの活躍の場が増える」


 リンさん、オリガさん、マリリさんからお礼を言われた。

 最も、マリリさんはタコヤキの活躍の場が増えるのが嬉しいようだ。


「リン様、皆様。ギルドを代表して私からもお礼を申し上げます。我々も可能な限り、皆様にご協力致します」

「うむ。それなら頼みがあるのじゃ」

「ビアンカ殿下、どの様な依頼でしょうか?」

「一つはこの護衛依頼の背景を調べる為、どの商会が多く護衛を頼んでいるか集めてくれ」

「なるほど、独占的に依頼を出している可能性があると」

「恐らく中小の商会を潰す目的もあるじゃろう。普段なら商人の世界なので口出しはせぬが、偏りがあるとなると動かねばならない」

「流石ビアンカ殿下、受けたまわりました」

「もう一つは冒険者の噂を集めてくれ。もしかしたら何か手がかりがあるかもしれん」

「なるほど、これは受付に言っておきましょう。噂を分析すれば何かが見えるかもしれない。これは面白いですね」

「ギルドの負担になってすまぬのう」

「いや、これは大した手間でもありません。早速取り掛かります」


 ビアンカ殿下がギルドに依頼したのは、いわゆるビックデータの解析みたいなものだ。

 普段何気ない依頼や噂の背後を調べれば、何か見えるかもしれない。

 本当に頭が切れる八歳児だ。見た目は子ども、頭脳は大人だよ。

 ノームさんもこういう分析する事が好きなのか、笑顔になっている。

 

 ギルドマスターとの面会も終わり、一旦一階に戻る。

 この街に来るまでの間に採取した薬草や魔物を、ギルドの解体所に出すためだ。

 依頼を受けていないので受付のお姉さんに聞いたところ、薬草採取やオーク討伐などは常時依頼なので特に問題ないとの事。

 逆に薬草と魔物肉の流通が滞っているのでありがたいと言われてしまった。


「これはまた、凄い量ですね」

「えっへん」

「でも、これでもまだまだ足りないのです」

「任せて! ミケが一杯取ってくるよ!」


 解体所に色々な物を出したが、あまりの量に解体所のお兄さんがびっくりしていた。

 それにドヤ顔で答えるミケ。腰に手まで当てている。

 オークも群れで討伐したし、薬草は種類も量も豊富だからなあ。

 それでも領内全体を考えると全然足りない様なので、明日から頑張って色々集めないと。

 

 再度受付をみると、護衛依頼を受ける人が相変わらず多い。

 ここはやはり初心者ではなく、中級以上が集まるギルドの様だ。

 それだけ冒険者が集まるのなら色々情報が集まるかもしれない。

 喧騒に包まれているギルドを見回しながら、そう感じていた。

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