16.元勇者、マッチポンプを憂う
ひと段落した所で、ヘイロンはニアとイェイラを連れて村に入る。
村長へ依頼の完了を告げると泣いて感謝された。
「本当になんといっていいか……ありがとうございます」
「あー、うん。良いんだ。頼まれたことだし気にしないでくれ」
「これは少しばかりの気持ちです。どうか受け取ってくだされ」
村長が渡してきたのは銀貨十枚。小さな村でこの報酬はかなりの価値がある。
ヘイロンの後ろに控えているイェイラをちらりと見遣って、それを懐にしまった。
「そういうんならもらっていくよ」
「ロバステ村にはこちらから知らせますので、後のことはお任せください」
「ああ、よろしく」
村長宅を出た三人は、その足で食事をすることにした。
村の食事処に向かう道すがら、ヘイロンはぽつりと呟く。
「なんだかいけない事をしたような気分だなあ」
「なんで? よろこんでたよ?」
「だって、元はといえばイェイラが原因だろ」
ヘイロンの手を握って隣を歩くニアはイェイラを見上げる。
無垢な眼差しに本人はごほんと咳払いをして大仰に反論しだした。
「か、勘違いしているようだから言うけど、今回の騒動はすべて私のせいではないからね」
「そうなの?」
「私がここにたどり着いたのは一か月前なのよ」
「確か、ロバステの村長は二か月前から商隊が来なくなったって言ってたな」
「私が来た時この村、悪党どもに睨まれててね。そのせいで彼ら、外に出られなかったの」
事の経緯を話すイェイラ。彼女の証言は今のところ嘘とは思えない。
「その人たち、どうなったの?」
「邪魔だったからお帰り頂いたわ。少し痛い目見てもらったけどね」
してやったりと胸を張る彼女に、ヘイロンは呆れたように溜息を吐いた。
「悪党退治した輩が悪党の仲間入りってやつか?」
「……まあ、良いじゃない。無事解決したんだし。謝礼金も貰えたんだから!」
終わりよければすべて良し、というのはヘイロンも同意するところである。
まあいいか、と落着をつけてヘイロンはあることに気づいた。
「というか、お前……普通に村の中歩いてるけど大丈夫なのか? ほら、さっきの……ハイドがいきなり出てきたりしたら追い出されるぞ」
「それなら大丈夫よ。あの子は私が呼んだ時と気を抜いた時にしか出てこないから」
「気を抜いたとき……」
気を抜いた時、つまりリラックスしている時ともいえる。
それが分かったところで、この村に滞在中は気が気ではない。せめて大人しくしていてくれ、とヘイロンが胸中で念じていると、目の前に目的の店が見えた。
「とりあえず飯だ。腹が減ってちゃ何もできん」
「ええ、それには賛成」
「おなかすいた」
店に入るとおすすめを注文する。
食事が来るまでのつなぎ、イェイラは聞きたいことがあったとヘイロンに問いかける。
「聞き忘れていたけど、あなたたちどこに向かうつもりなの?」
「ああ、言ってなかったな」
ごくりと水を飲み干して、ヘイロンはこの旅の目的地を告げる。
「魔王城だ」
「まっ、魔王城ぅ!?」
目をひんむいて、イェイラは驚愕する。
そんなに驚くことでもないのに、なんてヘイロンが思っていると次の質問が飛んできた。
「な、え? なんで??」
「なぜと言われても……落ち着いて暮らせる場所がそこしか思い浮かばなかったんだ」
「あ、あなた人間よね? それがどうして魔王城に住もう! って考えになるのかまったく理解できないんだけど!?」
「さっき言っただろ。訳アリだって」
「わぅ、訳アリって言ってもね……こんなの前代未聞よ!」
頭を抱えたイェイラは熱にうなされたように、うんうん唸っている。
隣からニアの視線を感じて、ヘイロンは肩を竦めてみせた。
「ニアはいいの? こんなのに着いていっても」
「うん。ハイロ、ついてきてもいいよって言ってくれた」
「来たくなければ別にいいんだぞ」
「い、行きたくないとは言ってないわよ。ただびっくりしただけ……」
深いため息を吐いたイェイラは、観念したように一度頷いた。
「わかった。私も着いていくことにするわ」
「その割には嫌そうに見える」
「むりしなくていいよ」
「無理だなんて言ってない! 着いて行くったら行くんだから!」
どうやらイェイラの決意は固いようだ。
本人がああ言っているのだからこれ以上の押し問答は不要だろう。
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