対 藤枝中央女学園 Last
綺羅がマウンドに立ち、投球練習を行う。
『初めての硬式野球の試合、投球はいつものように安定しているね』
『ブルペンで肩が温まっているし、いつでも投げられるよっ!』
マウンドを地固めして足場を確認し、準備が整う。
『私が高校野球でどこまで通用するのかな?』
中学野球では、それなりに打ち取って来た投手だと自負している。
硬球に触れてから、以前より速球は回転が掛かり、変化球も強化された。
『私が導いて、セイちゃんの球を通用させるっ! それが私の役割』
アナウンスが鳴り、打順5番の九条が左打席に立つ。
この試合の火付け役である、九条は真っすぐと綺羅を見つめていた。
「投球練習を見ていたけれどぉ~、速球が速い投手の印象~」
相変わらずのおっとりとした様子で、投手を観察する。
『七草さんが打たれた時、私はレフトに居たから近くで見れなかったけど。 芝井先輩が言うにはどのコースにも対応していたらしいから攻略は厳しいよね……。 まずはインコースの上にツーシームで様子を見よ』
『オッケー! 初球ツーシームね』
麗菜は星奈にサインを出し、首を縦に振る。
前回の打席では、下の球をアッパースイングによって打ち上げられホームランにされたことにより、下方向のコースを警戒してしまう。
そのため、高めで攻めようとサインを出した。
『ナナちゃんの仇を取ってやるっ!』
「出来るだけ粘ってあげるわぁ」
一球目のツーシーム。
ほぼ真っすぐで、途中から徐々に右下方向に変化する。
球速は凡そ110キロ後半。
九条はその球を軽々とバットを振り、打つが打球が後ろに飛びファールとなった。
「さっきの子といい、星彩っていい投手揃ってるよねぇ~。 打ち甲斐があるわぁ」
あともう少し、球が変化していたら打球は下に飛んでいき打ち取れていた。
それから二球、コースが厳しい箇所を狙うが、ギリギリゾーンに入らずボールカウントを稼がれた。
『くっ……! 中々厳しいところに入らない!?』
『ボールでもゾーンに近くだよ、振らないってこの打者は選球眼でも持ってるのかな? これが全国レベルの打者なの……』
「真ん中に投げられないからって、勝手に自滅してるよぉ~」
九条は、捕手の水瀬に聞こえるように煽り球をゾーンに来るよう誘導してくる。
『セイちゃんならこの打者をねじ伏せることが出来るはず、私がちゃんとリードしなきゃっ!』
カウントは一ストライク二ボールで次の球でチャンスかピンチのどちらかの状況になってしまう。
それに相手は打撃力がある打者だ、とても厳しい状況である。
『そろそろセイちゃんの球に慣れてきたと思うから、ここから緩急をつけようねっ!』
『うんっ!』
『少しコースが甘くてもいいから、ちゃんとゾーンに入れてね』
『分かってる、よっ!』
四球目はインコースに球を投げる。
「ゾーンにストレート、打つ!」
おっとりとしていた九条が一瞬で獲物を狙ったような目つきに変貌した。
そして、場外に球を飛ばすように力強いスイングを行う。
だが、球はバットのタイミングから外れて、右下後ろに構えていたキャッチャーミットに収まる。
「チェンジアップっ!?」
チェンジアップは、ストレートを投げる動作と酷似させ、ストレートとの球速差を開けて空振りを誘う変化球。
綺羅のストレートは最大球速124キロで平均が120キロほど出るが、チェンジアップは凡そ100キロの球速でその20キロの差を付いたことにより九条にバットを振らせた。
「びっくりしたぁ~、まんまとやられたわぁ」
九条は一気に集中力が切れ、おっとりモードへと戻っていく。
だが、目だけ鋭く投手を見つめていた。
『レイちゃんもう一度、チェンジアップでいく?』
『定石ならストレートだけど、2連チェンジアップも悪い手じゃない。 ただ、相手は目が良い選手。 下手にチェンジアップを使ったら、確実に打たれると思う』
『レイちゃんが珍しく、悩んでサインを渋ってる……。 私も案を考えないとね、……あの球使ってもいい?』
『別にいいけど、セイちゃんの情報をあまり晒したくないけど……。 仕様がない、スプリットでいこう!』
『うんっ!』
『ただし、いつもより浅く握ること』
『分かったっ! そっちの方が制球力があるもんね!』
五球目。
水瀬のサイン通りに、いつもより指先を気にして球を投げる。
「アウトコース寄りのストレート!」
またしても、九条は集中モードに入り口調が変わる。
そして、打席で足を踏ん張りバットをスイングする。
バットに球が当たるが、その軌道は通常のストレートよりも球一個分低く、打球が下に方向に転がる。
「うそっ、引っかけちゃった」
打球に力がなく、素早く綺羅は球を捕球して、一塁手に送球をする。
『やったね!セイちゃん!』
『よしっ!!!! ありがとう、レイちゃんっ!』
綺羅はこんな場面を乗り越えた事により、小さくガッツポーズを取る。
その後、お互いに拳を合わせるように前に向けて笑顔で応えた。
これにより、初の九条打者との勝負は綺羅と水瀬が勝った。
それからは、無失点でこの回を抑える。
さらに試合が進み、星彩の攻撃はクリーンナップの出番が来るまで走者は出たもののホームベースにたどり着けられなかった。
最終回、7回の表は4番打者の芝井からだ。
フォークを狙い球として、バットをスイングして打球が中堅手を超えてツーベースヒットとなる。
そして、5番の高橋が左打席となり、白滝投手との勝負が始まった。
一球目はフォークを投げ、その球はゾーンギリギリに入り、高橋はバットを振らずフォークの軌道を観察して見送った。
二球目は縦スライダーを投げられ、それを打つが打球が上に上がってファールとなった。
次は三球目となった。
『スライダーに合わせてバットを振ったのか? タイミングを捉えているな、この打者は……!』
「この投手、色んな下方向に変化する球を自在投げてくるの厄介デス……っ!」
『この打者は目も良く、打球はよく飛ぶ。 まるで九条みたいだな。 次はこの球で仕留めてやるっ! この球を打てる、かなっ!』
三球目。
白滝がストレートのような動作で投げ、球はインコースに向かう。
それを高橋はバットを強く握り、フルスイングをする。
結果は、バットが空気を切った振動しか響かなかった。
「遅いフォーク……っ!? こんな球、見たことがない……デス……」
『今のは、私のチェンジアップさ』
確かにチェンジアップは下方向に球が沈むが、白滝が投げたのはそれ以上に変化したのだ。
それから点を取れずに星彩側の攻撃が終わり、試合が成立した。
この試合は4対0で藤枝側の勝利となった。
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あとがき
もっと長く試合を書いたほうがよかったですか?
それとも、もう少し短めに描写にしたほうがよかったですか?
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