ライスもどき

 でも残念だけど、今の私は護衛中なわけで。


「護衛の皆様! 夕食ができました! どうぞ!」


 晩ご飯が優先だよね依頼人さんが呼んでるからね!


『うきうきで向かうの草なんだ』

『星より団子』

『まあリタちゃんだしw』


 お昼ご飯のあれはともかく、晩ご飯はちょっと楽しみにしてた。何が出てくるのかな。

 エリーゼさんに手招きされて、その隣に座る。そして私に渡されたお椀の中には、なんだかちょっとどろっとした何かが入ってる。一緒に渡されたのはスプーンだから、これで食べるのかな。


「いただきます」


 手を合わせてそう言ったら、隣に座るエリーゼさんに不思議そうな顔をされた。いつものくせでやったけど、ここにはない文化だよね。私も師匠から教わってやってるだけだし。


『完全に日本の文化だからな』

『そっちだと食べる前に何かやってる?』


 ん。どうだろう。周囲を見てみると、人それぞれみたい。手を組んで祈ってる人もいれば、何もせずに食べ始めてる人もいる。


『宗教の違いかな?』

『こればっかりはリタちゃんも分からなさそう』


 ん。分からないし、あまり興味もない。宗教は信じたい人が信じればいいと思う。私には精霊様がいるからね。

 それよりも、晩ご飯だ。

 スプーンでお椀の中身を見てみると、これは、えっと……。お米……?


『え、うそ、マジで?』

『米!? 森の外にも米があんの!?』

『マジかよお米あるのかよすげえ!』

『絶対ないと思ってた……!』


 うん。私も驚いた。みかんもどきみたいにお米とはちょっと違うんだろうけど、見た目はお米そのものだ。すごい。


「エリーゼさん」

「はい! どうしましたか!」

「近い」

「ごめんなさい」


 声をかけたらすごい勢いで顔を近づけてきたので、少し離れておく。ショックを受けたような顔をしてるけど、自業自得だと思ってほしい。


「これ、なに? このつぶつぶ」

「ライスもどきですよ?」

「ライスもどき」


『ライスもどき』

『もwwwどwwwきwww』

『なあこのネーミングセンスってまさか……』


 ん。私もそんな気がする。

 エリーゼさんに視線で先を促すと、嬉しそうに語ってくれた。


「これは賢者様が学園に持ち込んだ作物なんです! 育て方さえ分かれば、強く育つ魔法のような作物なんです! 今では魔法学園から他の都市に販売されているほどですよ!」

「そ、そうなんだ……」


『ライスもどきすげえ……』

『さすがお米、でも明らかに何かがおかしいw』

『育てるのがすごく簡単みたいな言い方だったな……』

『異世界の米ってそうなんか……』

『素直に羨ましい』


 ん。多分、精霊の森で育てられてるのと同じものだと思う。師匠が持ち出して広めたんだろうね。師匠、お米好きだったみたいだから、外でも食べられるようにって。


「そんな苦労するぐらいなら食べに帰ってきてよ……」

「え? 何か言いました?」

「ん。なんでもない」


 弟子の顔ぐらい見に来てもいいのに、なんて思ってないよ。ほんとだよ。


『リタちゃん……』

『ほんとあのバカ、ほんとバカ』

『努力の方向性が行方不明』

『まあ落ち着こう。あいつだって、まさか死ぬなんて思ってなかっただろうから』


 ん。それは分かってる。分かってるよ。分かってるけど……。ん。何でもない。

 それはともかく、この晩ご飯だ。エリーゼさんに続きを聞いたら。お米と水、そしてとろみが出てくる野菜を入れて煮込んで、塩とかで味付けしたものらしい。お米を知ってる人は、旅のご飯としてよく食べてるんだって。

 とろみが出る野菜っていうのはよく分からなかった。地球にはない野菜かも。

 とりあえず、食べてみる。スプーンで一口。


「んー……」


 うん。悪くない。日本の料理と比べると微妙だとは思うけど、調味料が少ないこの世界で考えると美味しい方だと思う。これが旅の間に食べられるなら、十分価値があるかも。


「ところでリタさん! 魔女様について詳しく……!」

「ん。やだ。ごちそうさま」


 さっと食べてお椀を置いて、定位置に戻った。幌馬車の屋根の上。お話は面倒だったから。


『妹さんもすごいなw』

『諦める気配がないw』

『何があの子をそこまで駆り立てるんや……』


 ほんとにね。巻き込まれる私はいい迷惑だよ。まったく。

 その後は特に変わったこともなく。エリーゼさんとミリオさんは馬車の中で休んで、他の人はテントの中。護衛の人は念のため交代で見張り。ちなみに私はフランクさんと二人で見張りをしたよ。あまり会話はしなかったけど、知ってる人だから気が楽だった。

 護衛の一日目はそうして終わった。

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