焼きそばと星空

「それじゃ、私は護衛の方に戻るから。ちゃんと休むように」

「はい!」


 元気な声の返事はいいけど、本を持ったままになってるのはどうしてだろうね。気付いてるよ? 気付いてるからね? だからミトさん、私が本を一瞥したからってそんな目をそらさなくていいんだよ?

 んー……。あとで様子を見に来ようかな。


 お家を出て、分身の魔力をたどって転移する。転移先では馬車がまだゆっくり走ってるところだった。特に変わったこともなく、順調な旅路みたいだね。

 分身を解除して、分身が座っていた場所に腰掛ける。んー……。いい加減飛んでるのも面倒だし、座る場所に保護魔法をかけておこう。そうしたら壊れないだろうし。

 さて、と……。


「暇だね」


『ちょwww』

『まだ再開したところじゃないかw』

『もうちょっとがんばって!』


「えー」


 いやだって、さっきまでわりと楽しかったからね。私の記事とか新鮮だったし、真美から焼きそばももらったし。

 ああ、そうだった。先に焼きそば食べよう。温かいうちに食べたい。

 焼きそばを取り出して、フタを開ける。とってもいい香り。


「ん。匂いが他の人のところにいかないように、ちょっと結界張るね」


『結界を使う目的がなんかおかしい……w』

『防御用の魔法だと思ってたんだけどなあ……w』

『他の人を香りから守ってるじゃないか!』


 うんうん。そういうことにしておこう。

 割り箸で焼きそばをすする。結構濃いめの味のソースだね。甘みと辛さがちょうどいい感じだ。美味しい。

 あ、そういえばミトさんはお箸使えるかな……。フォークぐらい持ってそうだし、大丈夫かな?


「んー……。やっぱり真美って料理上手だよね……。すごく美味しい」


『そう言ってもらえると嬉しいけど、それ市販のソースをブレンドしただけだからね?』

『推定真美さんがなんか頭おかしいこと言ってる……』

『大多数の人はソースのブレンドなんてしないんだよなあ……』

『え? リタちゃんの味覚に合わせて少し混ぜてるだけだよ』

『やばいマジでやばいこと言ってるこの子やばいw』


 ん。すごいよね。何がどうすごいのかは、私はそこまで分からないけど。

 焼きそばを食べ終えて、ゴミをアイテムボックスに突っ込んだところで、馬車がようやく止まった。気付けば日が傾いて、周囲が赤く染まり始めてる。今日はここで野営かな?

 周囲は、変わらず草原。見晴らしはいいけど、その分魔獣たちからも見つけられやすいってことになる。こういう時ってどうするのかな。

 同行者さんたちがてきぱきと野営の準備を始める。テントを張って、夕食の用意をして……。私も何かした方がいいのかな。


「リタちゃん!」


 少し考えていたら、フランクさんのパーティメンバーの魔法使い、パールさんに呼ばれた。私が腰掛けてる馬車の側で手を振ってる。


「どうしたの?」


 馬車から降りてパールさんに聞くと、


「今から馬車を囲む結界を張るわね。この魔道具を使うけど、定期的に魔力を補給しないといけないの」


 パールさんが見せてくれたのは、赤くて丸い石だ。大きさはこぶし大ぐらい。これが結界の魔道具らしい。パールさんが言うには、この魔道具に魔力を込めると、馬車三台ぐらいなら包める結界を張れるんだとか。

 すごいね。こんな魔道具があるんだ。結界の強度は多分自分で使った方が強いだろうけど、ある程度魔力を扱えれば誰でも使えるっていうのは大きいと思う。


「だいたい二時間に一回補給をしないといけないから、私が前半を、リタさんは後半で補給を頼めるかしら。その逆でももちろんいいけど……」

「ん。必要ない」

「え?」


 とても便利な魔道具で興味があるけど、途中で補給なんてめんどくさいからね。それだったら結界ぐらいは私が張っておく。日中とか遊びに出かけてたから、その分ということで。

 杖で地面を叩いて、術式を展開。結界を張っておく。突然張られた結界にパールさんは困惑していたけど、すぐに私の魔法だと気付いて胡乱げな目で私を見てきた。


「リタさん、本当に魔女の弟子なの? 一人前じゃないの……?」

「弟子です」


 誰がなんと言おうと、私は弟子です。その設定を変えたりしないよ。


『弟子設定、かなり無茶が出てきてないかこれw』

『隠遁の魔女、どれだけ厳しいんだよw』

『大丈夫かこれ。まだ一日目だぞ……?』


 正直、私も不安になってくるよ。やめるつもりはもちろんないけど。


「この結界はいつまでもつの?」

「ん。明日の朝までなら大丈夫」

「そう……。それなら、そうね。任せるわ」


 そう言って、パールさんはフランクさんの方へと歩いて行ってしまった。なんだかちょっと、ごめんなさい。

 みんなが野営の準備をするのを、私はのんびりと眺めてる。手伝おうかなと思ったけど、フランクさんも手を出していないから私も待機だ。フランクさんたちは周囲を警戒してる。


 結界は張ったけど、フランクさんのお仕事も護衛だからね。もしも結界が破られたら、なんて考えたら、結界に任せっきりもできないんだと思う。

 そうして待っていたら、日もすっかり沈んでしまった。たき火があるから真っ暗ではないけど。


『リタちゃん。お願いがあるんだけど』

「ん?」

『空見たい』


 ん。空ね。昔からたまに言われるけど、なんだろうね。

 光球を空へと向ける。空にはたくさんの星が輝いてる。あの星のどれかが太陽だったりするのかな。そう考えたら、なんだかすごいと思ってしまう。


「でもあそこに太陽があっても、その光は今の太陽のものとは違うんだよね。すごい」


『それはそう』

『リタちゃんが見てる太陽の側の地球に俺らはいないんだよな……』

『そう思うと配信魔法やっぱやべーわ』


 光の速度をこえてやり取りしてるからね。すごいと思う。


『すっげえ星空。森だと木が邪魔だったからこれはこれで新鮮だわ』


「ん……。それもそうだね」


 ここには木も建物もない。星の観察で言えば、今が一番かもしれない。

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