リポーターさん
「ちなみにさっきのはグレープフルーツだよ。次はこっち、甘夏」
「あまなつ……」
名前から甘そうな果物だね。これもやっぱりみかんみたいな果物だけど、さっきよりも香りはすっぱくない。むしろ少し甘い香りもある、かも?
これも切ってくれたので、食べてみる。んー……。
「少しすっぱい気もするけど、甘いね。少しだけある苦みも、ちょうどいいかも。食感もみかんより少し固めで、なんだか不思議な感じ。ん……。美味しい」
こっちは好き。たくさん食べたくなるけど、これも精霊様とミトさんへのお土産にしよう。
『甘夏美味しいよね』
『この時期だとみかんがないからなあ。みかんの代わりにちょうどいい』
『でもグレープフルーツはいらなかったのでは……w』
『言うなw』
グレープフルーツを食べてたからこそ、甘みを強く感じたかもしれないけどね。
「気に入ってもらえて嬉しいよ。よければ次は買いに来てね」
「ん。考えておく」
これなら買いに来てもいいかも。その時はたくさん買っていこう。
店員さんに手を振って、お店を離れる。それじゃあ、次はどこに……。
「あ!」
今度はそんな驚いた声。次は何かな。
「リタさんです! リタさんがいました!」
「ん……?」
あれ、なんだろう。呼ばれたわけじゃないみたい。むしろ、誰かに報告するような、そんな声だ。
見てみると、私の周りに集まってる人とは別の集まりがあった。その中心にいるのは、テレビカメラとかそんなたくさんの機械と、お姉さん。
うん。とりあえず言いたい。
「また?」
『テレビによく遭遇するなあw』
『なお今回は築地提案者が知ってて提案してました』
『あの微妙な間はそういうことかよw』
テレビに出たくないってわけじゃないからいいんだけどね。ただ、少しだけあっち側に申し訳ないと思うだけで。あっちからしたらいきなりだろうからね。
女の人がこちらに駆け寄ってきた。同時に、周囲のカメラの人たちも。ここの取材か何かだったのかな。邪魔しちゃったかな。
女の人は少しかがんで私と視線を合わせると、言った。
「こんにちは、リタさん。リタさんは何か買いに来たんですか?」
「ん。美味しいものを探しにきただけ」
「美味しいものですか!」
後ろを向いて何かを確認してる。すぐにそれが終わったのか、女の人は私に向き直ってきた。
「よろしければ一緒に行きませんか? これから海鮮丼を食べに行きますよ」
「海鮮丼……」
海鮮丼ってあれだよね。ご飯の上にたっぷりとお魚とかそういうものを入れる料理。それは、美味しそう。お寿司は食べたけど、海鮮丼は初めてだ。
「ん。行く」
『即落ち二コマかな?』
『リポーターさんも驚いて固まってるしw』
『まあまさか受けるとは思わなかっただろうからなあw』
そうなのかな? 悪い人相手じゃなかったら、問題ない限りはついていくけど。
我に返ったリポーターさん、て言えばいいのかな。海鮮丼をごちそうしてもらえることになった。すごく楽しみだね。
テレビの人たちに連れて行ってもらったのは、人が多いわりに少し狭いお店だった。カウンター席が十席と、テーブル席がいくつか。そんなお店だ。
テレビの取材だから今日はお昼から貸し切りになってたみたいですぐにお店に入れたけど、本来はそれなりに行列があるんだって。
「ん。らっきー?」
「ふふ。ええ、ラッキーですね!」
『なんだろう、ちょっと微笑ましい』
『でも実際、本当にラッキーだよ。このあたりのお店って早くに予定数になっちゃう店も多いから』
『このお店も普段なら昼に行っても間に合わないはず』
ん。それなら、一緒に来て良かったね。新鮮なお魚が食べられそう。
私たちが店に入ると、カウンターの奥にいた二人が顔を上げた。中年ぐらいのおじさんと、青年ぐらいのお兄さん。
「いらっしゃい、お待ちしておりました」
「いらっしゃ……っ!」
おじさんの方は笑顔で挨拶をし終えたけど、お兄さんの方は途中で止まってしまった。私の顔を凝視して、固まってる。いつものやつだね。
お兄さんが固まったままでいると、おじさんがそのお兄さんの頭を思い切り殴った。
「いてえ!」
「バカヤロウ、お客様を待たせてぼけっとすんな!」
「でも親父! 親父だってあの子知ってるだろ!」
二人は親子なのかな。親子二人できりもりしてるのかも。ちょっとだけ感心してると、おじさんが私をちらりと一瞥して、言った。
「魔女だろうが総理大臣だろうが、ここに来たってことは料理を食べに来たお客様だろうが! あの子のファンならそれこそ失望させるようなことすんな!」
「あ……、わ、わかった!」
わあ……。なんだかちょっと、いつもと違う。おじさんも私を知ってるみたいだけど、それでも一人のお客として最後まで接してくれるみたい。ちょっと嬉しい。
『かっこいいおっちゃんやな』
『素敵。抱いて!』
『リタちゃんに変なコメント見せてんじゃねえ!』
なんだか変なコメントが流れてきた気がするけど、気にしないようにしておこう。
お兄さんが席に案内してくれたので、リポーターさんと一緒にカウンター席に向かう。リポーターさんの隣に腰掛けると、お兄さんはすぐにお茶を出してくれた。熱いお茶だ。
「申し訳ありません、お伝えしているとは思いますが、二人分でも大丈夫でしょうか?」
「もちろんです。すぐにご用意しますのでお待ちを」
リポーターさんが、というよりテレビの誰かが連絡してくれたらしい。私もちゃんと食べられそうだ。
リポーターさんが言うまですっかり忘れてた。昼から貸し切りにしてたってことは、もともと人数分で予約してたってことだよね。次は気をつけよう。
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