第10章〜どらドラ!〜⑦
彼女は、鳳花部長からマイクを譲り受けて、観衆に呼びかける。
「みんな、あらためて、今日のライブとパレードは、どうだった〜!?」
「「「最高で〜〜〜〜〜す!!!!」」」
パレード終了直後のMCが始まったときより、さらに、大きなレスポンスを確認した寿先輩は、
「だよね? だったら、パレードで素敵なボーカルを披露してくれた彼も紹介しておかないと!」
と言って、オレの腕を掴んできた。
その突然の行動に面食らっていると、寿先輩とは反対の側から、シロ(やはり、自分には、この呼び方がシックリくる)が、
「そうですよね、センパイ! やっぱり、『Twist and Shout』を歌いきった彼のことは、みんなにキチンと紹介しておかないと!」
と、まるで、上級生に対抗するように、オレに腕を絡ませてきた。
「お、おいおい、二人とも……」
困惑しながら両脇の女子二名に返答すると、
「自己紹介が苦手なら、わたしたちが盛り上げるから……」
と、ニコニコ笑いながら、シロが言い、寿先輩も、その言葉に同調した。
「そうそう! 私たちに任せときなさい」
彼女たちのやや強引な進行ぶりに苦笑しつつ、「では、二人にお任せします」と返答すると、マイクを握ったままの上級生が、高らかに声を上げた。
「それでは、あらためてご紹介します! 本日のパレード舞台の主役、コーラス部の厳しい特訓に耐え、見事に『ツイスト・アンド・シャウト』を歌い上げる大役をやり遂げた広報部の次期エース・二年生の黒田くんで〜す!」
隣では、シロが、
「イェ〜〜〜〜イ!」
と、古典的なレスポンスで応じながら、ステージ前の観衆を煽る。
ノリの良い会場からは、
「「「おお〜〜〜〜!!!!」」」
という声が上がった。
予定外の進行に戸惑いはあったものの、寿先輩とシロの気遣い、そして、ステージ前に集まってくれた人たちの温かい反応に胸が熱くなる。
今回の『Twist and Shout』に合わせたパレードは、半分くらいは、子供の頃から憧れていたことを実現したいという、オレ自身の願望で考えた企画だった――――――。
それでも、広報部の活動の関係上、これまで関係してきた学内の多くの生徒のみんなとともに、
(少しでも、オープン・キャンパスの盛り上げに役立つことができれば……)
という強い想いを持って、この日に備えてきたのだが――――――。
こんなにも、たくさんの人が笑顔をみせてくれるということに、大きな喜びを感じる。
いま、ステージ前や舞台上の反響を目の当たりにして、オレは、自分が立案した企画を認めてもらえた、という充足感に包まれていた。
想定外の展開ではあったが、寿先輩が代わりの進行役をかって出てくれたおかげで、心に余裕を持って話すことができるようになった。
(この流れなら、あの時、伝えられなかった自分の本当の気持ちを彼女に伝えられる――――――)
そんな想いを胸に、
「ありがとうございます。それじゃ、少しだけ時間をもらって、話しをさせてもらって良いですか?」
そう言って、あらためてマイクのチェックを行いながら、これまでのことを振り返る。
(シロは、オレが紅野に告白し直すため色々なアドバイスをしてくれたが……)
(今にして思えばシロの助言には、シロ自身がオレに対して行ったことも多い)
(再会後の距離の取り方や、二人での会話を楽しいと言ってくれたことも……)
(何より、さり気ないボディタッチや二人で出掛ける機会を作ろうとして……)
そして、この一週間ほど悩んだ末に、こんな結論に達した。
(もしかして、彼女は、オレの告白を待っているんじゃないか――――――?)
ついに、この日のために用意してきた言葉を告げる時がきた。
今日、オレは、情けなく、不甲斐ないままで、シロと離れることになってしまった過去の自分自身を乗り越え、復讐するのだ。
「
※
「ステージは、盛り上がってるな〜」
放送室で、ライブ中継のモニターを続ける壮馬は、つぶやきつつ、
(これが、最初の企画通りの進行だったら、これ以上ないくらい喜ばしいことなんだけど……ハァ……)
と、ため息をつきながら、成り行きを見守っている。
「でも、これで告白が成功したとしても、竜司と白草さん二人は、みんなに受け入れてもらえるんだろうか?」
壮馬は、また独り言を口にする。
見方によっては、自分たちの都合で校内の大勢の生徒を巻き込んだ二人に対して、今後、校内全体から反発が起きないか、ということを懸念していた。
「それに、このままじゃ、紅野さんの立場が……」
特に、四葉と竜司、それぞれの思惑に翻弄されたと言って良い、紅野アザミに対しては、同情する気持ちが湧いてくる。
この二人のイチャつきぶりを間近で見せつけられていた壮馬からすれば、親友の《告白の行方》は、もはや、結果が見えていると言って良かった。
それよりも、二人の独断専行に対する全校生徒へのフォローと、紅野アザミに対するケアをどのように行うべきか、ということに頭を切り替えるべきだ――――――。
そう考えた彼は、オープン・スクール終了後、無断で計画を変更した親友に落とし前を付けさせる方法と、全校生徒に対するアフター・フォロー(と言う名の情報操作)の方策についてプランを練り始めた。
※
保健室では、ベッドに横たわってから、体調の変化に落ち着きが見られた佐倉桃華に対して、天竹葵が上級らしく気を利かせ、会話を試みていた。
「佐倉さん。一年生から見て、今日のステージは、どうだった?最後まで、みられなかったのは、残念だったかも知れないけど……」
葵がたずねると、桃華は即答する。
「そうですね、舞台の設営も音響も、しっかりしてましたね。さすが、くろセンパイ&きいセンパイのいる広報部です」
「くろセンパイ、きいセンパイって、黒田くんと黄瀬くんのこと?佐倉さんは、二人と知り合いなの?」
意外そうな表情で問いかける上級生に、
「はい! お二人とは、中学校の放送部で一緒に活動していました!」
これまでになく、弾むような声で、桃華は答える。
竜司と壮馬の二人について、嬉しそうに語る下級生に、葵は若干の戸惑いを覚えながら、
「そ、それじゃあ、舞台を最後まで見れなくて残念じゃない? 黒田くんは、このあと、サプライズの企画を用意してるみたいだよ?」
と、問い返すと、桃華は、最後の言葉を、ややトーンダウンさせながら返答した。
「いえ、もう今日の目的は果たせましたから……ワタシとしては、紅野センパイが、とても優しくて良いセンパイだということが、少々、複雑な想いが残るとこではあるんですけど……」
(ノアが、なにか、このコと関係あるの?)
葵が、そんな疑問を抱きつつ、
「そうなんだ。じゃあ、あとは、保健室で、一緒にステージで行われるイベントの成り行きを見守ろうか? 私としては、不本意な展開なんだけど、このあと、驚きの《告白イベント》が起きるみたいだから……」
と、下級生に語ると、それまで、穏やかな口調で上級生と語り合っていた桃華は、ベッドから、ガバリと起き上がり、声を張り上げた。
「えっ!? どういうことですか!?」
これまで、体調に問題があると思っていた目の前の下級生が、突如、声のトーンを上げ、自分に対して詰問するかのような表情で問いかけてくる姿に困惑した葵が、
「あの……これは、私と黄瀬くんの勝手な推測なんだけど……黒田くんは、これから、ステージ上で、白草さんに《愛の告白》をするんじゃないかって……」
そう答えると、桃華は、
「ハァ!?」
と、再び声のボリュームを上げ、
「そんな! くろセンパイが告白する相手は、紅野センパイじゃなかったんですか!?」
上級生である葵の制服の襟元をつかまんばかりの勢いで問い返し、
「く……くろセンパイの裏切り者!」
という一言を残し、羽織っていた布団を押しのけてベッドから降り、駆け出した。
「ちょ、ちょっと佐倉さん? いったい、どうしたの?」
声を上げる葵に、カーテンで仕切られた事務机で作業をしていた遠山教諭も、異変を察知し、「ん?どうしたの、天竹?」と反応する。
「佐倉さんが、急にベッドから降りて、保健室を飛び出して行きました」
葵が答えると、養護教諭は、ぼやきながら、生徒に依頼する。
「はぁ? もう、なにやってんのあの一年生は……天竹、悪いけど、あの子を追いかけてくれない?」
「わかりました!」
唐突な展開に困惑しながらも、日頃、世話になることの多い保健室の
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