第10章〜どらドラ!〜⑤

 インタビューに応じた三人をとらえたWEBカメラを通じて、ネット中継を視ている視聴者からは、


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佐藤くん、素敵!


堂安くん、イケメン!


仲村くん、たくましい!


三人ともカッコイイべ!


やっぱり、男子は体育会系!


運動部の皆さんおつかれさま


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などのコメントが流れる。


 そして、佐藤・堂安・仲村の三人は、目の前の聴衆からの歓声に、手を振って応えながらステージの脇へと移動していった。


 三人のようすを確認しつつ、竜司は、


「はい、三名をはじめ、野球部・サッカー部・ラグビー部の皆さん、本当にありがとうございました。このあとは、スポドリなどで水分補給をして、ゆっくり休んでください」


と、進行を続け、白草四葉と花金鳳花の二名を舞台の中央に呼び寄せる。


「では、僕たちパレード隊のメンバー紹介が終わったところで、今日の舞台の主役である二人の紹介に移りましょう!」


 彼の声に合わせ、マイクを握っていた寿美奈子が、鳳花にマイクを手渡した。

 これまで、ステージ中央から少し離れた場所で、パレード隊の面々に拍手を送っていた四葉と鳳花は、お互いに目を合わせたあと、クスクスと笑いあいながら、竜司の元へと歩み寄る。


「まず、ステージで素晴らしい演奏を見せてくれたのは、我らが広報部部長にして、生徒会副会長! 花金鳳花先輩です!」


 進行役の一言に、上級生はおっとりした口調で答えた。


「ご紹介ありがとう、黒田くん」


「いつも、花金部長は只者ではないと感じてたんですけど、バイオリンの演奏まで達者とは思ってもみませんでした」


 竜司が感想を述べると、鳳花は、


「人前で披露できるほどの自信があったわけではないんだけどーーーーーー」


謙遜を交えつつ、感想を語る。


「でも、こうして、屋外でたくさんの人の前で演奏する機会なんて、これまで無かったから、とっても楽しかったわ!これも、黒田くんたちのアイデアのおかげね」


「いえいえ、協力してくれた皆さんのおかげです」


 そう応じる竜司の言葉に続き、マルチな才能を有する上級生は、これまでになく饒舌にステージを終えた感想を述べた。


「そっか〜。今日は、広報部や生徒会役員の立場を忘れて演奏させてもらうことができたわ。白草さん……いいえヨツバチャンの生歌を一番近くで楽しめる、という特権も堪能できたしね……個人的なお楽しみは今日までにして、また、明日からは、シッカリと校内の仕事に取り組むつもりだから、黒田くんもヨロシク! 秋の学園祭でも、楽しい企画を考えてくれるんでしょう?」


 さらに、彼女は、後輩にキッチリと圧を掛けることを忘れず、言葉を続けて締めくくった。


「ステージの前のみなさんも、今日の企画に興味を持ってくれたら、広報部や生徒会に来てみてくださいね」


「花金先輩、シッカリと後輩にプレッシャーを掛けつつ、素敵なメッセージをいただき、ありがとうございます。いや、ホントに、生徒会はともかく、自分たち広報部は、いつも人手が足りないので、興味を持ってくれる人がいたら、いつでも遊びに来てね」


 竜司は、そう言いながら頭をペコリと下げる。

 彼の大仰ながらも砕けた口調に、ステージの前では笑い声が上がった。

 そんな観衆の反応を確認しながら、司会を務める広報部部員は、進行を続ける。

 ステージ上から中庭全体を見渡した彼は、ゆったりと間を取りながら、


「そして、最後にご紹介するのは――――――」


と、タップリとタメを作り、


「今日は、屋外のこのステージで、素晴らしい歌声とパフォーマンスを見せてくれた白草四葉さん!」


この日の一方の主役であるクラスメートの名前を高らかに告げた。


「「「うおぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」」」


場内から大きな歓声が上がり、ミンスタライブのコメント欄も、一気にヒートアップする。


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四葉チャン、キタ━(゚∀゚)━!


ようやく、四葉チャンの出番


かわいい!!


今日の歌も最高だったべ!


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 彼女を讃える文字列で埋め尽くされた画面を横目で見ながら、放送室の黄瀬壮馬は、中庭ステージのライブカメラを注視する。


(天竹さん、紅野さんに会えたかな?なるべく、ショックの少ない形で、紅野さんに竜司たちの行動を説明できていれば良いけど……)



 一方、親指の爪を歯に押し当てながら、モニターで成り行きを見守ることしかできない壮馬の気掛かりの種である紅野アザミと天竹葵は、養護教諭とともに、保健室で下級生の介抱を行っていた。


 養護担当の指導のもと、二人は、介抱した下級生を備え付けのベッドに寝かせる。


 保健室にはモニターやディスプレイの類がないため、ステージのようすを目視で確認することはできないが、全校放送で流れている音声が、室内のスピーカーから聞こえていた。


「すいません、遠山先生。スピーカーのボリュームを下げてもらえますか?」


 アザミが養護教諭にお願いすると、遠山教諭は、「わかったわ」と、すぐに席を立って、壁際に設置された室内スピーカーの音量調整機能で、ボリュームを絞る。


 生徒の要望に応じた彼女は、そのあと、


「で、体調が優れないアナタの名前と学年は?」


と、アザミと葵の付き添いで保健室に訪れた女子生徒にたずねた。


「はい、一年の佐倉桃華さくらももかです」


 マスクはしたままで、目深に被っていた帽子を脱ぎながら、女子生徒は自身の名前を語る。

 まず、印象に残ったのは、まるでナレーターか声優になるために生まれてきたかのような、澄んだ美しい声だった。

 さらに、彼女が帽子を取ると、ショートボブに切り揃えられた栗色の美しい髪があらわになる。

 季節外れの暑さを記録している校舎外から、空調の効いた保健室に移動してきたためか、あるいは、深く被っていた帽子を取ったためか、その顔色は、中庭に居た時よりも格段に良くなって、色白の顔にも赤みが戻りつつあり、彼女の整った容姿を際立たせていた。

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