第6章〜わたし以外との恋愛喜劇はゆるさないんだからね!〜③
友人の煽りに、「クッ……」と屈辱の表情を滲ませる竜司。
一方、四葉は、ウンウンとうなずき、
「確かに、黄瀬クンの言うとおり、情報収集は大事なことね。昨日、まとめてくれたテキストにも、『彼を知り己を知れば〜』ってフレーズを入れてくれてたし……」
壮馬の発言を肯定する。
彼女の一言に、さらに自信を深めた友人が、
(ほら、言ったとおりだろ?)
と、ドヤ顔でアピールするのを横目で眺めつつ「ケッ……」と、悪態をつく生徒に、カリスマ講師は微笑みながら、優しくフォローを入れた。
「そんなに拗ねないで……今回、嫉妬する役目は、黒田クンじゃないんだから……」
その一言に、「どういうことだ……?」と、怪訝な表情をする竜司を見ながら、四葉は語る。
「ある程度、仲が深まって来ていると実感できたら、紅野サンに嫉妬してもらえるように、策を練るの」
「紅野に嫉妬してもらえるように……?」
なぜ、そんなことをする必要があるのか――――――?
いぶかしげな顔色を崩さない竜司のようすを確認し、彼女は、言葉を続けた。
「納得していない、って表情ね。ちょっと、説明が必要かな? 昨日も、少しだけ触れたんだけど……黄瀬クン、そのタブレットPCで《恋愛におけるグッピー理論》って言葉を検索してくれない?」
不意に講師から掛けられた言葉にも、外部聴講生は「オッケ〜」と軽く応じる。
ブラウザで新しいタブを開いた壮馬は、キーボードで検索ワードを入力して、検索結果を表示させ、四葉の方にディスプレイを向けた。
グーグルの検索結果を確認した彼女は、「コレね!」と、上から二つ目に表示されたサイトのリンク部分をタップする。
表示されたサイトに記載されていたテキストを壮馬が要約し、まとめた内容は以下のようなものだった。
《ブサイクなオスのグッピーがイケメンに勝つ秘密》
前提:グッピーのメスが配偶者となるオスを選ぶ際には、体色やヒレの形状などによって選好性がある。体色やヒレが派手で美しいオスはメスにモテるイケメンで、地味なオスはモテないブサイクなオスということ。
通常の場合:イケメンのオス、ブサイクのオス、メスの三匹を一つの水槽に一緒に入れると、メスはどのような行動をとるか?当然、メスは体色やヒレが派手なイケメンのオスを選び、交尾をする。
実験の展開①:水槽に透明の仕切り板をニ枚入れて、三つのスペースを作ります。真ん中のスペースにメスを入れて、左にイケメンのオス、右にブサイクのオスを配置する。
実験の展開②:①の状態のまま、ブサイクのオスがいるスペースに沢山のメスを入れる。そのスペースにはブサイクなオス一匹しかいないので、ハーレム状態となる。ブサイクなオスは多くのメスと交尾をたくさんする。なお、仕切りは透明なので、真ん中のスペースにいるメスはブサイクなオスが多くのメスと交尾している様子を完全に認識している。
実験の展開③:しばらく②の状態にした後に、ブサイクのオスのいるスペースから全てのメスを取り除き、仕切りを取り外す(①の状態以前に戻す)。すると、今度はメスは派手なイケメンのオスではなく、ブサイクなオスの方に近寄って交尾するようになる。
結果の考察:この実験から言えることは、「メスは好みでない(本来選ぶことのない)オスでも、『他のメスにモテているオス』であれば選んでしまう」という習性がある。この習性はグッピーだけでなく、他の種類の魚や鳥類など他の生物でも観察されている。
サイトの内容をまとめながら、壮馬は、
「なるほど……興味深い実験だね〜」
と、独り言のようにつぶやく。
その言葉を受けて、四葉は、苦笑しながら解説を加えた。
「この実験からもわかるように、女性には、男性に自分だけを愛してほしいという願望がある一方で、他の女性に言い寄られている男性を本能的に選んでしまうという矛盾を抱えているの……」
竜司は、彼女の説明に納得したようにうなずく。
「そうか……女ゴコロや女子の恋愛心理が複雑で分かりにくい理由が、良くわかった」
伝えたい内容が教え子に理解されたようすに満足した講師は、続けて語る。
「今回は、この《恋愛におけるグッピー理論》を応用してみようと思うの。と、言っても、黒田クンが短期間で多くの女子にモテるようになるのは不可能に近いから……」
「おい! 不可能に近いってナンだよ!?」
「あぁ、ゴメンね!訂正する……黒田クンが短期間でモテるようになる可能性は、測定限界値以下だから……」
「言い直しても、意味は変わってねぇ!?」
竜司の鋭いツッコミに、四葉は笑みを浮かべながら答えた。
「――――――ともかく、そんなムダな努力をするよりも、手っ取り早く効果的な方法があるんだけど……」
「…………なんだよ、その手っ取り早く効果的な方法って?」
次々と繰り出される毒舌の応酬に、反論する気力を失ってしまった竜司は、四葉に続きをうながした。
すると、彼女は、したり顔で語る。
「多くの女子にモテなくても……これまで以上に親しくなってきた黒田クンに対して、
四葉のアイデアに、竜司は、反応を示す。
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