第6章〜わたし以外との恋愛喜劇はゆるさないんだからね!〜①
4月9日(土)
超恋愛学のカリスマ講師を自認する白草四葉による講義と
午前の講義はここまでとなり、三人はランチタイムのため、《編集スタジオ》の隣にならぶ一室へと移動する。
三人でリビングに上がり、竜司が食事の準備をするためにキッチンに立つと、そのタイミングを待っていたように、四葉は壮馬に話し掛けた。
「ねぇ、黄瀬クン! 黒田クンと黄瀬クンが所属してる広報部って、どんな活動をしているの?」
「あ〜、確かに『広報部』なんて名前の部活は、他の学校じゃ存在しないだろうし、どんな活動をしてるか謎だよね……」
壮馬は、苦笑いしながら返事をすると、
「ボクたちの部は、放送部・新聞部・映像研究会の活動を統合したものなんだ。活字や映像を使って、学校の広報活動をしたり、文化祭の企画運営をしたりしてる。来月のオープン・スクールでも、竜司を中心に、ちょっとした
と、自分たちの所属しているクラブの活動に関する説明を続けた。
「へぇ〜、なかなか面白そうね! 興味が湧いてきた!!」
四葉がそう言うと、
「部員が少ない分、部長さんの人使いは荒いケドね……ボクたちの活動を詳しく知りたかったら、来週の金曜日に、講堂で新入生向けのクラブ紹介にボクたちの部も参加するから、ユリちゃん先生に言って、白草さんも見学させてもらったら?」
「そうね! そうさせてもらおうかな?」
四葉は、新たなクラスメートの発案に、即答するようにうなずく。
二人が話している間に、パスタの準備が進んでいるのだろうか、キッチンからは、オリーブオイルとニンニクの香ばしい薫りが漂ってきた。
そして、コンロからの音が大きくなるのと同時に、彼女は、壮馬に耳打ちする。
「黄瀬クン、そのクラブ紹介のことなんだけど……」
キッチンに立つ竜司からは、四葉と壮馬が距離をつめて、何やら話し込んでいる姿が見えたものの、フライパンから立ち上がる音とパスタを茹でる鍋の音で、その話し声までは聞こえない。
二人の姿を視界のスミに置きながら、茹で上がったパスタをフライパンに移し、具材とオイルソースを混ぜ合わせ、程よくソースが馴染んだところで、三枚の平皿に盛っていく。
冷蔵庫からは、サラダとマリネの二品を取り出して、小皿に取り分けた。
四葉と壮馬が訪問してくる前に、行列ができる近所のベーカリー・ショップで買ってきたバゲットをカットして、冷製の惣菜の脇に添える。
最後に、平皿のパスタにパセリを散らして、この日、提供するランチが完成した。
リビングからは、
「なるほど……それは、興味をひくかもね〜。部長さんに相談してみようか?」
という壮馬の声が聞こえてきた。竜司が、会話の内容を気にしつつ、
「お待たせ〜。できたぞ〜!!」
と、二人に声を掛けると、
「あっ!? これは、ベーコンとナスの薫りだね? リクエストに応えてくれたんだ!」
壮馬の弾むような声が返ってきた。
「買い置きの高級ベーコンが残ってたからな……壮馬、皿を運ぶのを手伝ってくれ!」
竜司が返答すると、壮馬も「オッケ〜!」と言って、足取り軽くキッチンに向かう。
中央に置かれたテーブルに二人が手分けして運んだ皿とドリンク用のガラス製コップが配膳されると、リビングは食欲をそそる薫りに包まれた。
テーブルには、ベーコンとナスのオイルパスタ、海老とクスクスのサラダ、鯵とタマネギのマリネが並んでいる。
予想以上に華のあるランチメニューが食卓を飾ったため、白草四葉は、目を丸くしつつ、料理の提供者にたずねる。
「こんなに、豪華なランチが出てくるとは思わなかった! ねぇ、《ミンスタ》に写真をアップしてもイイ?」
「別に構わないが、パスタは冷めないうちに食べたほうが美味いゾ」
竜司が応じると、壮馬がニヤニヤしながら、語りかける。
「白草さんが来てくれるから、張り切ったんだよね、竜司」
「うるせぇ、おまえのリクエストにも応えてやったんだから、サッサと食え!」
二人の掛け合いを眺めるのが楽しいのだろうか、四葉はクスリと笑いながら、スマートフォンでテーブルの上の料理を撮影し、早速、自身のアカウントのSNSを更新する。
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clover_field 今日のお昼は、《竜馬ちゃんねる》ホーネッツ1号サンお手製のパスタと前菜!
見た目と違って、ホーネッツ1号サンは、良いお婿さんになれるかも。
#新企画近日発表
#打ち合わせ休憩中
#ランチはパスタ
#お婿さん検定合格
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自身のスマホに《ミンスタ》の更新通知がされたことを確認した竜司は、右手に持ったフォークで前菜を口に運びながら、左手でスマホを操作し、四葉の投稿を確認した。
「おい! なんだ、この『見た目と違って、良いお婿さんになれるかも』って書き込みや『お婿さん検定合格』って、意味のわからないハッシュタグは……」
四葉の投稿を目にした竜司は、抗議の声をあげる。
「えっ!? 思ったことを書き込んだだけなんだけど……? フォロワーさんのコメントだって、好評だし」
しかし、彼女の一言で、そのフォロワーの女子たちのものと思われるアカウントのコメント群を目にし、まんざらでもないと感じたのか、
「いや、まぁ、そう言うことなら……」
と、抗弁のトーンをダウンさせる。
(ま〜た、白草さんの手のひらの上で転がされてるよ……)
目の前で言葉を交わす男女の会話を聞き流しながら、壮馬は無言でパスタをすすった。
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