第118話 学園闘争Ⅱ
――ミツルギ学園メインアリーナ。
かつて学園対抗戦が行われた広大なバトルフィールドには、多くの若者たちが集っている。
それも半分近くが、見覚えのない制服を着こんだ連中ばかり。
エスカレーター式のミツルギとしては、中々に異様な光景だろう。
しかも八割近くの生徒が緊張で顔を強張らせていることも相まって、不気味とすら称せるはず。
だが今から行われるのは、在校生の振るい落としという異常な行事だ。今日この時だけは、こんな異常が当然の光景になってしまう。
第二研究所に
いよいよ来てしまった年度末試験の当日なのだから――。
よって、今日の結果で自分の人生すら一変しかねない。
良い方向にも、悪い方向にも――。
「……皇国中から集まってくれた未来ある皆さん。私は当校の理事長と校長を兼任している、御剣幸子と申します。さて、こんなお婆ちゃんが壇上に立ったのですから、さぞ長く有り難い話を聞けるのかも……なんて、思ってしまったかもしれませんが、そんな野暮なことは致しません。少しは安心しましたか? 話が長い老人は嫌われます。前置き無しでササっと進めちゃいましょうね」
話の長い校長。
そんなステレオタイプを弄って笑いを取るのは、我らが狸婆。
期待と不安が入り混じっている生徒たちは幾分か落ち着いたようだが、裏側を知っている俺としては冷めた視線を送るのみ。
何も知らずに目の前の出来事にはしゃげる連中を羨むべきか、家畜扱いに気づかないことを悲しむべきか。
まあ何にせよ、今は目の前の試験を乗り切るだけだ。
ちなみに既に座学試験での振るい落としは終わっており、ここにいるのは血気盛んな者たちばかり。
つまり今日行われるのは――。
「というわけで、ここにいる皆さんには、生き残りを懸けた実技試験を行ってもらいます。形式は多人数参加のバトルロイヤル。その勝敗と内容を精査し、数日の内に合否をお渡しする形となります。え、一対一じゃないの……とか、残ったら決まりじゃないのか……と思ったかもしれませんが、これはあくまで試験。最強決定戦ではないので、その辺りは……ね」
まさかのバトルロイヤル。しかも合否はすぐに分からない。
勝敗以外の要素が絡むということで、またも生徒から不安が噴出したようだ。
しかし、分かりやすく負ければ終わりにすればいいのに――という指摘は、この場合適当ではないのだろう。
なぜならこれは、生徒のためではなく学園再生のために行われる試験であるから。
つまり俺と雪那が潰し合った結果、片方しか学園に残れないという様な状況を未然に防止するためだ。
片や第二研究所とコネがある。
片や神宮寺家の一人娘。
挙句、二人とも
一生懸命頑張っている一般生徒には悪いが、学園的にどちらを残したいのか――と考えれば、答えは一つしかない。
そもそも平均より能力が下回っている奴を追い出すための試験だし、勝敗より能力の方が大切だということだ。
これからは良くも悪くも実力主義で行くのは、狸婆からわざわざ事前連絡までされたわけだしな。
「まあ皆さんは、小難しいことを考えなくても大丈夫です。目の前のことさえ頑張って下されば、自然と
フィオナ・ローグを思い出して嫌になる言い回しだが、今は奴の言う通りだ。
そして更に説明されていく中、詳しいルールも明示された。
一年と二年の試験を分けて行うこと。
人数が多すぎるため、同学年でもいくつかのグループで別れること。
生き残り人数に規定を設けず、グループごとに試験終了のタイミングが毎回違うこと。
まず一つ目と二つ目は、当然のルールだろう。
人の波で満足で動けない中での戦闘なんて何の意味もないし、負傷者どころか死人すら出かねない。
そして三つ目に関しては、友達同士での共闘を防ぐことに加え、アリーナ内を逃げ回って生き残ろうとさせないためだろう。
仲良し同士で手を組んで固まったり、消極的に立ち回って運良く生き残るような奴は、問答無用で落していく――と、暗に明示しているわけだ。
とはいえ、学校の持久走ですら一緒に走ろうとしても裏切り合う。
自分の将来が一変しかねないこの状況なら、必然的に裏切りのオンパレードになる気もするがな。
「さて、生徒の皆さん! 自分の未来は、己の手で切り拓くのです! 今ここに、年度末試験の開催を宣言いたします!」
狸婆は年甲斐もなく両手を広げ、試験の開始を宣言する。
悪の親玉の演説にしか見えないが、生徒たちは不安を掻き消すように声を上げ始めた。
随分と趣味が悪い試験だが、参加する以上は精々楽しませてもらうしかない。
皇国内に埋もれていたまだ見ぬ才能とやらが、どの程度なのかを――。
おあつらえ向きに、初っ端から出番が来るみたいだしな。
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