第116話 才能の兆し

 クオン第二魔導兵装研究所にて――。



 根本親子と実弾兵器を用いた襲撃者。

 思わぬ邂逅かいこうの果てに命の危機に瀕していたわけだが、最後の爆炎を防いで以降は、とんとん拍子に話が進んでいた。

 というのも、最後の自爆に関しては完全な玉砕行為でしかなく、リーダーが諦めたことで既に連中の心は折れていた。革命闘士が情けない話だが、連中を捕らえるのはあまりにも容易だった。


 更に騒ぎを聞いて駆けつけた警察に連中の身柄を引き渡して事態は解決。

 神宮寺側からもアプローチ出来るように手はずを取り付けた後、俺たちは最早お馴染みともなりつつある零華さんの城へとやって来ていた。

 根本親子は面倒な対応を免除された俺たちを遠巻き見て何やら喚いていたが、あの後どうなったのやら。


 ともかく女子四人は、訓練場で模擬戦の最中。

 俺は全体挨拶がてら、代表者としてモニタールームに来ているわけだが――。


「いやー、大変な目に合ったわねぇ!」

「全くだ……というか、距離が近い。火薬が服についてるかも……」

「やー」

「聞いてないし……」


 当の零華さんは腕を絡め、思いっきり体重をかけながらしな垂れかかって来る。

 色々押し潰れて大変なことになっているが、当の本人はお構いなしだ。

 こっちは、さっきまで爆炎の中を駆けていたってのに――。


「それにしても過激な人たちねぇ。主義者なのは間違いないと思うけど……頭がお花畑の若者たちなのか、過激派団体の構成員か……」

「その辺りは神宮寺が探ってくれるはずだが……」


 まあ連中に関しては、今は動きようがない。

 それよりも今は、本題の一つであるシュトローム教諭へと視線を向ける。


「……あの先生、しばらく家に住まわせることになったから、もし顔を合わせても通報とかしないでくれよ」

「あら? 学園の先生をお持ち帰りしちゃったの!? 避妊はちゃんとしなさいよ」

「そういうのじゃないんですが……?」

「ブロンド美女新人教師とFクラス生徒の禁断の恋! 幼馴染でお隣さんの爆乳美少女とも修羅場になって、あら大変! まあまあ、烈火も大人になって……」

「感動した風な良い顔をして最低なことを言ってるぞ……!」

「なーんだぁ、面白くないわねぇ! 二人まとめて押し倒しちゃいなさいよ! それとも、私も混ざりましょうか?」

「倫理観を見直せ、後見人!?」


 零華さんに対して事後報告になってしまったことを怒られるならまだしも、当人の受け答えはそれ以上にぶっ飛んでいる。

 詳しく聞いて来ない辺り、信頼してくれているのは分かるが、それを差し引いても冗談じゃ済まないぞ。


「……それはそれとして、テストの成績が悪かったら強制転校なんて、学園も思い切ったことをしたものね」

「対抗戦で散々醜態を晒したからな」

「ふぅん……まあ私としては、烈火と雪那ちゃん、サラちゃんが楽しく学園生活を送れさえすれば、有象無象がどうなろうと知ったことではないのだけれど……」


 まあこの人がぶっ飛んでいるのは、いつも通りだが――。


「なら、どうして施設を貸してくれたんだ?」

「それは烈火がお友達を連れて来たからに決まってるじゃない! そもそも烈火と雪那ちゃんの訓練時間を使えば、こっちの業務にも大して影響ないしね。しかもパツキンボインちゃんは嬉しい誤算だし、一石何鳥かしらね! ウチのテスターよりも腕良いじゃない!」


 とはいえ、華麗に宙を舞うシュトローム教諭を見てしまえば、零華さんのハイテンションに関しては納得しかない。

 普段はドジっ娘。戦えば、トップエース級。

 俺や雪那とも違う、良質なデータを垂れ流してくれているのだから――。


 これで零華さんにダル絡みされるのは確定したようなものだし、シュトローム教諭には後で謝らないとだな。

 まあ一宿一飯の恩義で納得してもらいたいところだが。


「それにしても……雪那ちゃんは言うに及ばず、パツキンボインちゃんも超一流。その割には、相手の子たちがちょっと弱っちくない?」

「学生試験の特訓なんだから、この組み合わせでいいんだ。それと本人たちの前では絶対言うなよ」

「ふーん。そういえば、あのルーチェの子……見覚えが……」

「ちょっと前まで、ここに通っていた奴だ。全く、魔導関係は一発なのに、相変わらず人間の名前は覚えが悪いことで……」

「ふふ、私の灰色の脳細胞は、要らないことには働かないのだよ」

「感心してないし、身体を擦りつけて来るな!」


 とはいえ、実力差が大きすぎて、目前の二戦が戦いの体を成していないことは事実。

 零華さんとしては、雪那とシュトローム教諭辺りを戦わせてデータを取りたいのだろう。

 さっきから新しい玩具おもちゃに興味津々な様子だ。


「んー、まあ学園の一年って考えると筋のいい方なのかしらねぇ? でも、ちょっと戦い辛そうよね」

「何の話だ?」

「何でもないわ。それにしても、もう一人の子は全然ダメねぇ。反撃もしてないし、動きも遅いし……雪那ちゃんは、威力や速度を最低まで落としてまでランサーを撃ってるだけなのに……」

「まあFクラスだからな。それに攻撃をしない・・・……じゃなくて、出来ない・・・・ってのが正しい表現だな」

「どういうこと?」

「多分、すぐ分かる。もう少しで避け切れなくなるだろうから……」


 私服姿の雪那が散漫に撃ち放つ“フリーズランサー”。


 それに対して“陽炎”を纏った朔乃は、本調子とは程遠い氷結槍を必死な様子で躱している。

 だが躱すだけで手一杯なのだから、限界は近い。


『……ぁ、っ!?』


 そんな最中、足を引っ掛けて転んだ朔乃に対し、無慈悲にも氷の槍が降り注ぐ。

 いくら刃が潰してあるとはいえ、まともに受ければ打撲では済まないが――。


『これ、は……?』


 パキンッ――という音が響き、モニターが一瞬の閃光に包まれる。

 零華さんは僅かに目を見開き、その口元を吊り上げた。


「なるほどね。むしろこっちの方が見所ありそうじゃない」


 俺たちが見つめるモニターに映し出されていたのは、異常に分厚い“魔力障壁プロテクション”。

 正しく巨大手榴弾ハンドグレネードを防いだ分厚い盾に他ならない。


 そして凄まじい密度で構成されている障壁を展開したのは雪那じゃない。

 学園のゴミと称されるFクラス――逃げ惑う以外に成す術がなかったはずの朔乃だった。

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