第96話 全面戦争【side: Warriors】

「彩城鋼士郎――参るッ!!」

「ほう……我ら三人を含め、全ての戦力を相手取るつもりか?」


 剣戟裂閃。

 鋼士郎は漆黒の大刀――“斬暁ざんきょう”を手に敵軍に向けて突貫する。


 経験に裏打ちされた巧みな身のこなし、荒々しさを発揮する激烈な剣戟を以て、第一陣の“異次元獣ディメンズビースト”を次々とほふっていく。

 更に己と敵の動きで進路を塞ぐように立ち回っているため、三人の“竜騎兵ドラグーン”の分断を阻害している。


 個の戦闘能力と戦場全てをる予測能力。

 一見地味ではあるが、そのどちらが欠けても成し得ない戦い方だと称せるだろう。


「やはり素晴らしい戦闘能力だ。こんな局面ステージでなければ……とは思うが、こちらも無駄に戦力を消耗するわけにはいかんのでな」


 クルスは心底残念そうに嘆息をつくと、早々に決着を付けるべく指示を飛ばして、味方の戦闘陣形を変化させる。


 結果、中型までの異次元獣ディメンズビーストが左右に分かれ、大型竜種――“ペインドラゴン”の大口にエネルギーが収束していく。


「これではこちらも動けんか……!」


 正面からの大規模攻撃。回避は容易だ。

 しかし鋼士郎の背後には、今も逃げ惑う多くの者たちがいる。


 万が一、竜の息吹ドラゴン・ブレスが客席に炸裂しようものなら、どれだけの犠牲が出るのか――。

 鋼士郎の背に冷たいものが走る。


「さあ、終わりにしようか……」


 瞬間、竜の火砲が放たれると共に、クルスと二人の“竜騎兵ドラグーン”が空を駆ける。

 回避ルートはどこにもない。完全に詰んでいる。


 だとしても――。


「斬り捨て……御免ッ!!」


 直後、漆黒纏いし剣戟が横に薙がれ、竜の灼熱が斬り伏せられる。

 シオン駐屯地を強襲した一撃と同出力を、瞬間的に発動した魔導で捻じ伏せる――というのだから、普通の魔導騎士ではまず不可能な荒業だろう。

 だが当のクルスは、マントの下から多関節刃槍――“スコビウムテイル”を覗かせながら、凶悪な笑みを浮かべている。


「狙い撃つ……」

「この私がこんなこすい真似を……」


 ネレアの周囲に出現する大量の魔力弾。

 ジルの腕には手首から立ち上がった爪の様なパーツが纏わり付き、魔力の螺旋槍と化している。


「あの一撃を歯牙しがにもかけないのは、流石だが……どれほど優秀だろうと騎士ナイトの駒一つでは、死合ゲームには勝てんさ」


 なぜなら竜の息吹は陽動、本命は三方向からの挟撃であるから。

 現にもう三人は攻撃態勢に入っており、迎撃にリソースを割いた分、やはり鋼士郎の方が後手へ後手へと回ってしまっているのだ。


「――っ!」


 当然、百戦錬磨の鋼士郎が、敵の狙いを読んでいないはずがない。

 一方、自身単体ならまだやり様もあったが、背後の民衆を守るためにはそうも言っていられない。故に一瞬とはいえ、足が止まってしまうことを承知で迎撃する以外の選択肢がなかったのだ。


 だからこそ――。


「これで……!」

「させんッ!」


 鋼士郎は“斬暁”を構えて迎撃態勢に入る。

 無傷で切り抜けることが不可能であると即断し、ベストではなくベターな選択をせざるを得なかったが――。


「これ、は!?」

「ほう……」


 両勢力がぶつかり合う寸前、それをさえぎる様に色とりどりの魔力弾が飛来する。

 四人の戦士は、警戒をにじませながら弾かれるように距離を取った。


「彩城少将! 僕も援護します!」

「な、君たちは……!?」


 興味深そうな“竜騎兵ドラグーン”と驚愕する鋼士郎。

 そんな面々の前に現れたのは、下方から上昇してきた両学園の学生――土守陸夜、神宮寺雪那、グレイド・ヴァイパーの三名。

 しかし援軍が来たにも拘らず、鋼士郎の顔つきは険しいままであった。


「何をやっている!? 他の生徒と共に逃げるんだ!!」

「で、ですが、僕たちの学園を守るのに、彩城少将だけに戦わせるわけにはいきません!」


 相手は“竜騎兵ドラグーン”。

 下手な味方が来るぐらいなら、いない方がマシ。

 だから逃げろ――と、剣幕に圧された陸夜であったが、鼻息を荒くして前のめりな姿勢を崩さない。指示を聞こうとする様子など皆無だった。


「大変遺憾いかんながら、今回ばかりは私も同意見です。下の皆も頑張ってくれていますし、私たちにも自分に出来る最良の事をさせて下さい。お叱りは後で……」


 一方の雪那も、“白銀の槍斧シルフィス”を手に眼前の“竜騎兵ドラグーン”に鋭い視線を向けている。

 水と油と称せる陸夜とも肩を並べている辺り、現状がどれほど逼迫ひっぱくしているのかは明白だろう。


 というのも、現状では両学園の二・三年生の主だった実力者は、対抗戦で魔力を大幅に消費してしまっている。

 教員は生徒と来賓の避難に追われているために動けない。


 しかも学園警備員セキュリティーも小型相手に奮戦しているが、大型種や“竜騎兵ドラグーン”を相手にしては勝ち目がない。

 故に現在動ける最高戦力は、一年の代表生である雪那たち――ということになってしまうのだ。


「他国の出来事と言えど、“竜騎兵ドラグーン”は世界の敵です。この戦いはウチの生徒や来賓を守ることにも繋がりますし、何より御高名ごこうめいな彩城殿の力を間近で体感出来る、またとない機会ですから……!」


 グレイドも大剣を構え、交戦的な笑みを浮かべている。

 腰が引けている陸夜とは対照的に、戦意は十分といったところだろう。


「ほぉ……どうやらそちらにも動かせる駒が残っていたようだ。中々に勇ましい兵士ポーンたちじゃないか」

「ぬかせ……!」


 鋼士郎は柄を握る力を強め、吐き捨てるように呟く。

 生徒が援軍になり得る・・・・のなら嬉しい事この上ないが、本来戦うべきではない彼らを危険に巻き込んでしまうとあって、素直に喜べないのだろう。

 今の彼らは、戦える力を持っているだけの一般市民でしかないのだから――。


「無茶は承知です。ですが、あの戦力で攻め込まれたら学園は全滅――それどころか皇国すら落されかねない。黙って見ていることなど出来ません」


 とはいえ、雪那たちの言い分にも筋が通っている。

 それに学園にいる時点で危険は同じだし、こうして直接標的ターゲットにされた以上、もう三人に逃げ場などない。

 なし崩し的ではあるが、今は援軍の騎士団を信じて彼らと共に戦うことしか出来ないのだ。


「中々に見どころの有りそうな若者じゃないか。ネレア、ジル、この三人と少し遊んでやれ。他は下を蹂躙せよ!」

「――ッ!」


 魔導騎士と竜騎兵ドラグーンの全面戦争。

 ここに開戦。

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