第79話 死ヲ告ゲル白騎士【side:AE】
◆ ◇ ◆
エーデルシュタイン・アカデミー、PCルームにて――。
「なーにやってるの?」
「ちょっと対抗戦の参考資料を見ていたのさ。中々に興味深い内容だったのでね」
ウサ耳カチューシャを付けた少女――リラ・レプスに声をかけられ、端正な顔立ちをした少年が背後を振り返る。
そうしてモニターから目をそらした少年の名は、グレイド・ヴァイパー。
当然のように
「興味深いって、確かシミュレーションでは一四勝一敗でウチの勝ちだったでしょ? あっちはセツナ・ジングウジ以外、雑魚ばっかなんだし……」
一方、コテンと首を傾げているリラも
ただ可愛らしい
「まあ彼らはお世辞にも強いとは言い切れないし、全体勝利が
「でしょー? しかも去年の最後の方なんて、向こうの子たちが泣きながら戦ってたって、先輩から聞いたぐらいだし。なんかもう、戦うだけ可愛そうになってきちゃうよね」
美男美女からボロクソに言われているが、ミツルギ側の人間がここにいても反論の余地はない。
なぜなら、全て事実であるからだ。
伝統の一戦も今は昔。
特にここ数年はミツルギ側が無抵抗と称して良いレベルの醜態を晒しており、AE側からは得るものがないという話が出たほどだ。
というわけで、AE側からすれば、勝って当然の戦いであるわけだが――。
「これを見てくれ」
「んぅー?」
リラは身体を
映し出されたのは、戦場の空。
白き疾風が“メイレムワイバーン”と“メガロマンティス”の大群の中を駆け抜け、巨大竜種を圧倒する。
そして
果ては、白騎士か。
それとも死を告げる天使か――。
「な、に……これ……っ!?」
「ミス・フィオナから渡された向こうの特記戦力のデータだ。よくもまあ、実戦の映像など手に入れて来たものだね。とはいえ、この異常性を目の当たりにしてしまえば、そんなことを気にしている場合ではないが……」
二人が見つめるのは、“シオン駐屯地”における天月烈火の戦闘映像。
それはAE校の若きエース二人をして、絶句しながら見入らざるを得ないものだった。
「全く、こんなのを見せつけられると、こちらも参ってしまうね」
「う、うん……振り向き様の方向転換や急制動からの急加速。武器の入れ替えの速さや魔導の威力……何より、切り返しの勢いも凄い!」
「ああ、しかもこれだけパワーのある“
「というか、人間の動きじゃないよ。こんなの……」
天月烈火の戦闘スタイル一言で表すなら、超高速機動型の魔導騎士。
だが高速機動型の泣き所である火力や防御力の無さという弱点は全く見られない。
まず烈火は通常オプションとして、長剣、双剣、可変拳銃――という武装を、状況に応じて使い分けていることに加え、足癖が悪いというか通常の肉弾戦も織り交ぜて戦っている。
よって、近・中・遠――全ての距離に対応しているばかりか、一刀一銃など構えの切り替えで変幻自在の戦闘も得意としているわけだ。
更に特殊武装――“フォートレス・フリューゲル”がただでさえ高い機動力底上げしながらも、全方位から烈火を守る堅牢な盾と化す。
しかもフリューゲルから撃ち出される剣群で範囲攻撃までカバーしている上に、煌翼自体も強力な切断武器となり得る。
結果、巨大な武装の弱点になりがちな懐に飛び込んだとしても、烈火にとってはむしろ
つまり天月烈火は、攻・防・速――どれも高い次元でまとまった実力者と考えるべき――というのが、二人が導き出した見解だった。
「もしかしたら、ミス・雪那よりも厄介な相手かもしれないな」
その上、それは決して、“アイオーン”に依存した強さなどではない。
確かに“アイオーン”の機体出力が異常なのは、映像越しでもはっきりと分かる。現にスローにしても、烈火の機動を追いきれていないほどだ。
だが逆に言えば、その高速機動こそが並の魔導騎士なら全身の骨が砕け、
加えて、流れるように多くの武装を切り替え、高度な空中戦闘を繰り広げる様は、正しく烈火自身の腕前を証明する何よりの証拠となることだろう。
実際のところ、武装や形態が多ければ、優秀な“
例えば、剣を展開しようとしたのに、一瞬の判断違いで銃を出してしまう。
牽制や陽動の場面で高出力形態を使って、魔力を無駄に使ってしまう。
相手と戦いながら武器を使い分けるのだから、アレをして、これをして、時にはいくつもの動作を並列で――と豊富な武装が、逆にパニックを引き起こす要因になってしまうこともあるわけだ。
故に“陽炎”や“テンペスタ・ルーチェ”などの量産機は、誰でも扱えるように武装や
ましてや普通の魔導騎士が空中戦だけで精一杯にもかかわらず、それと並行して状況に合わせたリアルタイム操作が必要な
だが飛び抜けて優秀な魔導騎士が、その力に見合う“
言ってしまえば、天月烈火の戦闘能力は、天才――という領域を遥かに超えているということだ。
「で、でも……確かに凄いけど、この子と雪那を含めても、強いのは二人でしょ? だったら二つを捨て試合にして、残る三つで確実に勝てば……」
とはいえ、リラも伊達に副大将に推薦されたわけではない。
これは対抗戦なのだから――と、至極真っ当な意見を述べるが――。
「いやそれは向こうも承知のはず。であれば、どう動いて来る?」
「そっか……! 向こうも残る一つを勝てばいいってことになるから、全精力を向けて向かって来る。誰か一人でも猛特訓して、一勝をもぎ取られたら……!?」
「ああ、こちらの敗北となってしまう可能性が高い。逆にミス・雪那や彼相手に僕や君が出れば、他の皆よりも勝率は上がるが……」
「逆に他が手薄になる?」
雪那だけが特記戦力なのであれば、一試合を捨てて残る四戦の内で三勝すれば総合勝利となる。
両校の平均レベルを思えば、かなりAE校に有利な勝負だ。
だが天月烈火という特記戦力が出現した結果、状況は一変した。
単純に言えば、勝敗の重みが別次元に変わってしまう。安易な捨て試合は、敗北を招くだけであるということだ。
当然、戦略の組み立て方も難しくなる。
雪那や烈火戦でも勝ち星を狙いに行くのか。
それとも二人相手を完全に捨て試合と想定して、他三勝に全精力を割くのか。
対してミツルギ側は、どう動いて来るのか。
これはもうどちらかが勝利確実――というような、戦いではなくなっていたのだ。
「さて、こちらも最終仕上げと戦力の洗い出し、選出順の再選定……やることが増えてしまったな」
「もうあっちの学園に移動しないといけないのに、急に頭が痛くなって来ちゃったね」
「だがようやく張り合いが出て来たというものだ。さて、この怪物君をどうしたものかな」
グレイドもリラも真剣な眼差しでモニターを見つめる。
だが勝率がぐっと下がってしまったにもかかわらず、二人に悲観の表情はない。
そう、このヒリつく様な緊張感を楽しんでいるのだ。
白騎士の台頭が自分たちにとって、破滅をもたらすかもしれない可能性すらも――。
学園対抗戦まで、残り一週間。
それぞれの想いを乗せ、時間は目まぐるしく流れていく。
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