第27話 飛翔する戦女神【side:戦闘領域】

 ◆ ◇ ◆



「……ったく、どうなってんだ!?」

「あのガキは、ホントに学生なのか!? 固有ワンオフ機を持ってるのはまだしも、あんな戦い……俺たちにだってッ!?」


 烈火の戦闘を目の当たりにした団員たちは、驚愕に目を見開く。

 戦いの最中でありながら、上空で繰り広げられる応酬への驚愕が勝ってしまっているのだ。


 だがそれも当然の反応だろう。

 なぜなら、“グロリアスドラゴン”のような巨大竜種は、腕利きの魔導騎士で部隊を編成して、初めて戦いになるというレベルの相手だ。


 故に学生がそんな相手を圧倒しているなど、常識外れどころの話ではない。


 無論、騎士団員ですらこの様である以上、あくまでも烈火がFクラスだと認識している学生陣にとっては――。


「す、凄い……って言えばいいのかな? 一体どうなっちゃってるの?」


 上空での戦いを目の当たりにしたアリアが茫然ぼうぜんと呟く。


 “スレイブメガロ”や“レギオンマンティス”の大群の中を駆け抜けるだけでも、到底自分たちでは出来ることではない。

 更には巨大竜種との戦い。


 そんな非日常のオンパレードを見せつけられ、アリアたちは完全に思考停止フリーズしてしまっていた。


ほうけた顔で空を見ている場合ではない。とにかく今はみんなを連れて避難しなければ……」

「あ……ご、ごめん! えっと、みんな大きな怪我はなし。土守君は気絶中だけど……って、どうしたの?」


 雪那に声をかけられ、アリアは浮ついていた思考を呼び戻される。


 ともかく、今は遥か上空で大立ち回りをしている烈火を含め、学園の面々は全員無事。

 ひとまずではあるものの、胸をで下ろしていたアリアだったが――。


「風破、悪いが私は此処ここに残る」

「え……っ? さっき避難しろって……!?」

「今は烈火が竜種ヤツを抑えているが、更なる増援が来たら戦線は総崩れになる。故に、ここで戦力を分散させるのは得策ではない。なに、私も足手纏あしでまといにはならんさ」

「でも……! だったら、私たちは……!?」


 雪那はアリアを安心させるように柔らかい笑みを浮かべる。


「私たちのことは気にしなくていい。一刻も早く学園へ向かえ」

「そんなのっ!? それにこのまま駐屯地に逃げ込めば……!?」

「恐らく奴らの狙いは、騎士団の拠点を壊滅させること。それを感づいた烈火が未然に阻止したとはいえ、既にこの辺りに逃げ場はない。他の拠点もどうなっているか分からないし、私たちの逃げる場所は一つしかないだろう?」

「でも……それが分かってるのに、二人だけ残してなんて!」


 アリアは泣きそうな声で叫ぶ。


 確かに、雪那の指示は恐ろしく的確だ。


 実際、自分たちが残っていても足手纏あしでまといになるだけ。

 学年二位がシミュレーターの偽物相手にあの様だったのだから、この混戦で戦力になるはずがないと分かり切っている。

 だがその最善策は、自分たちの保身のために烈火や雪那を見捨てて逃げ帰るということ。ここでただの学生でしかないアリアに、即断即決出来るわけもない。


「私も烈火も大丈夫だ。共に学園に戻るさ」


 一方の雪那は、制服越しに白銀のペンダントに手をやった。

 制服越しに白い指が触れているのは、彼女の“固有魔導兵装ワンオフアルミュール”。


 そう、此処ここにいるのは、ただの女子生徒ではない。

 現状、一年最強と称される魔導騎士なのだから――。


「……分かった! 絶対にだよ!?」

「ああ、心得こころえた」


 烈火も雪那も、みんなを守るために危険に飛び込んで戦う。

 だからこそ、自分たちが犠牲になれば、そんな二人の想いが無駄になってしまう。


 時には、共に戦わないこともチームワーク。

 信じることも強さ。


 故にアリアは、この場を離れる決意を確かなものとした。


くぞ……“ニュクス”!」


 雪那はアリアが立ち直ったことを見送ると、“魔導兵装アルミュール”――“ニュクス”を起動。

 白銀の戦闘装束ドレスを《まと》い、主兵装である槍斧ハルバードを手にして空へと舞い上がっていく。


「■■■■■■■――!!!!!!」


 一方、巨大竜種を相手取りながらも、多数の“異次元獣ディメンズビースト”を撃破している烈火は、既に前線の要と化していた。

 そして戦域に散って、必死に応戦する騎士団。


 ようやく混乱が落ち着いてきたかと思われた直後――。

 奮戦する彼らを嘲笑あざわらうかのように、遥か天空で新たな特異点が開く。


 正しく、雪那の嫌な予感が的中することになってしまったということ。

 それも最悪の形で――。


「アレは……まさか、そんなっ!?」

「う、そ……だろ……!?」


 特異点から出現したのは、人間と変わらない大きさをした者。

 遠目から見るまでもなく、多くの“異次元獣ディメンズビースト”よりも随分と小ぶりだ。


 しかしその威圧感は、巨大竜種すらも上回りかねないものであり――。


「全く、群竜の力をもってしても、このような苦戦を強いられるとは……。偽りの民への認識を改めなければならないようだ」


 特異点から姿を現した存在は、肩をすくめながら言葉を紡ぐ・・・・・・

 まるで人間と同じように――。


「“竜騎兵ドラグーン”……だとォ!?」


 直後、戦場の空に騎士団員の悲鳴が木霊こだまする。

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