第13話
結局教室に戻れたのは、昼休みを終えてだいぶ後のことだった。
授業は既に始まっていて、事情を聞いているらしい先生と軽いやりとりをして自分の机に。周囲からの視線が集まっているのかそうでないのかわからないが、ふと気になってチラリと見てしまう。
彼女は目を覚ますと、授業が始まる時間だとわかったからかそのままなにもせずに保健室を出て行ってしまった。それを境に人狼から戻ったのはいいとしても、いまだに人狼化してしまった理由は不明のまま。
今までのことを振り返っても、人狼化してしまう条件には一つも当てはまらない。ただはっきりしているのは柊が原因だということ。それ以外に考えられない。
あのとき、彼女の涙を見てしまったけど、それがなにか関係あるのか?
ふとあのときの柊を思い出してしまっていたら、携帯がバイブした。なんだろう、なにかの通知かな?
授業中に携帯を弄る度胸はないので、無視をしてまた思考を巡らせる。けど、携帯のバイブは止まらない。しかも連続で届き続ける。
流石に無視していることができなくなって、そぉ~~~っと先生の隙を窺って携帯画面を開く。
『なんで無視するの』
なんと相手は柊からだった。チラッと見るとさりげない横目でこちらを睨んでいる。
『先生にバレたらどうするんだ』
『私達の位置なら大丈夫でしょう』
『優等生なのに授業中携帯使ってていいのかよ』
『別にそんなことよりも大切なことがあるのだからどうでもいいわよ』
(大切なこと? 一体なんだ?)
『体のほうは大丈夫?』
「!」
忙しない視線で彼女をチラ見するけど、俺のほうは見ていない。
『ああ。問題ない』
『そう。もしあなたの身になにかあったら私が困るもの』
(ああ、そういうことか・・・・・・・・・・・・)
俺になにかあったら、モフることができないということを心配しているってことで。なんだ、とちょっとがっかりした。
いや、なんでがっかりしてるんだ俺。こいつは最初からそういう奴だって知ってるだろ。
『柊こそ大変だったな。昼食食べれてないだろ』
『平気よ。それに空腹は最大のスパイスというし』
気を取り直して、携帯でのやりとりを再開する。
『どうして私が昼食食べてないってこと知ってるの?』
あ、まずい。
柊が保健室を去るとき、俺はまだ気を失っていたことになっている。なのに昼休み来ていることを把握してるのは不自然だ。
『保健室の先生から聞いた。柊が来てくれたって』
『なんだ、そういうこと。ええ。そうよ。あなたのおかげできちんとした食事ができなかったわ。成長期である女子高生が一回食事を抜いてしまったら今後栄養が足りなくなってこれからの人生にどれだけ悪影響を及ぼすか』
(いや、言いすぎだろそれ)
『もしそうなったら、あなたの責任は重大よ。責任をとってもらうしかないわね』
『責任ってなんだよ』
『それは――――――』
ぐぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「なんだ?」「誰かの腹が鳴ったよな今?」
途端に教室がざわつき出す。
「昼休み終わりだっていうのに、腹空かしたやつでもいるのか~~~?」
そんな気があったのか。先生もそんな軽口を挟んだことでドッ! と笑いの空気が弾けた。
なんとなく、誰の仕業か見当がついている俺はおそるおそる視線をチラッと。
やっぱり。当人であると充分に示してしまっている柊が真っ赤に染めてこちらを泣きそうな顔で睨んでいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺のせいじゃないよね、これ?
でも、今日は放課後なにもしないで解散にしたほうがいいな。柊もそれどころじゃないだろうし。いろんな意味で。
柊はよほど嫌だったのか、それから午後の授業が終わるまで携帯でやりとりすることはなかった。
「ねぇ大上くん。ちょっといいかな」
「!?」
予定通り帰ろうとしていたら、クラスメイトの一人が声をかけてきた。
「な、なに!?」
「あははは! そんなにおどおどしないでよ~~~! 別にとって食おうってわけじゃないし」
たしか、名前は山峰さんだったか。
「ただ柊さんのことで気になってさ」
「柊? それが?」
「大上くんと柊さんってどんな関係?」
「!?」
「昼休みまで、大上くん保健室にいたでしょ。柊さんも保健室行ってたのあたし見たんだよね~~」
「そ、それはクラス委員長だからじゃないかな」
「でも、今まで柊さん誰かが保健室行ったとき様子見しにきたことないんだよ。特に男子のなんて。だからあれ? おかしいな~~~って」
(ま、まずい)
俺じゃあ上手い言い訳がおもいつかない。まだ山峰さんは少し気になっているってレベルだろうけど、答えられなかったら余計怪しまれる。
「保健室が好きとか?」
「そんな人いる?」
「なにかのついでとかじゃないかな」
「わざわざご飯を犠牲にして?」
「え~~っと・・・・・・」
ダメだ、俺にはもうなにも思いつかん!
ただでさえ知らない女子と話しているということで緊張しているっていうのに。
「と、とゆうかなんでそこまで気になるんだ?」
「柊さんって女子とは普通に話してるけど、男子とはあんまりなんだよね〜。だから余計気になっちゃって。もしかして二人は付き合ってるんじゃないかって友達も言ってたし」
「いや、それはない」
キッパリとそれだけは断じられた。
「ええ~~? でもでも~~」
「いや、ガチでない。絶対ない。ありえない」
正直、あんな頭おかしい人、モフモフに対して異常な愛情と痴態を晒す人と恋人同士になるだなんて想像すらしたくない。
「うん、だよね~~~。柊さんと大上くんがまさか――――あ。悪い意味じゃなくてさ。意外すぎるから」
「あ、あははは」
俺の意図とはまったく正反対な反応。これが他人から見た素直な感想なんだろう。それは仕方ない。
けど、限界だ。もうこれ以上喋ることはできない。ら助けてくれ、と哀願を込めて柊の方へ。
「・・・・・・」
睨まれてる。
めちゃくちゃ睨まれてる。
さっきの比じゃない。憮然としたムスッとした具合に不満と苛立ちが存分にあるって見て取れる。
(なに? さっきの授業中のことまだ根に持ってる?)
「それで、実際のとこどうなの? 私にだけ教えてっ」
うう、山峰さんは興味津々とばかりに少し体を寄せて近づいてきた。女子特有の恋バナ好きな気配を漂わせている。
あ、また柊が睨んできた。さっきよりもこわい目つきで。
完全に助けてくれる様子じゃない。くそ、どうしよう?!
「あ、ごめん。ちょっと携帯が」
地獄に仏。携帯に入った通知を慌てて確認する。
「!」
「大上くん?」
「ひ、柊にに直接聞いてみたらいいんじゃないかな?! じゃあ俺はこれで!」
「あ、」
「用事ができたんだ!」
山峰さんの呼び止めるのもきかず、そのまま走って教室を後にする。
正直逃げた形になるが、嘘じゃない。そうせざるを得ない理由ができた。
『助けて』
恵里奈姉ちゃんからそんな連絡がきたのだ。
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