第十四話 皇帝帰る
「昨夜はお世話になりました」
「よく休めたか?」
「はい。温泉も気持ちよかったです」
昨夜の夕食後、皇帝から悩みの一つだったリベラ商会から、理不尽な利権を取り上げられたことを
この若き皇帝は、為政者としてまだまだ経験不足のようだが、側近にも恵まれているとは言い難いようだ。もっとも優弥にとっては他国の事情だし、自分に余計なちょっかいを出してこないのであれば何も言うことはない。
ただ、その恵まれていない方の側近がやらかさないことを願うばかりだった。
なお、今後の付き合いについてはアルタミールで間もなく起ち上がる合同商会と、レイブンクロー商会の取り引きについて話し合われた。
トバイアスとティベリアとで協議を重ねた結果、やはり特別な通行手形を発行して商会関係者の通行税を優遇することに決定したそうだ。
もっともリベラ商会はすでになくなっているので、恩恵を受ける個人の商会はほとんどないだろう。優弥も安全面の観点から、領に受け入れるのは当分は国営のレイブンクロー商会のみとするつもりだった。
商人以外の旅行者などは、各々の国で発行された身分証を提示することで通行料などは不要となる。身分証がなくても門で小金貨一枚と銀貨一枚を支払えば出入国可能で、戻れば小金貨を返してもらえるが銀貨は手数料なので戻ってはこない。
日本円に換算すると一万一千円を払って、戻れば手数料の千円を引かれて一万円が返ってくるというわけだ。
主に狩猟目的でアルタミール領外に出る場合などが考えられるだろう。この世界では遠方への旅行者はあまりいない。
「ハセミ様」
「どうした、アス?」
「ティベリア殿にお願いして、ここと僕の城にゲートを開いてもらってもよろしいですか?」
「よろしくない、と言いたいところだが、来るのがアスだけならいいぞ」
「陛下、それはさすがに……」
「そうだね、ネイト。僕も立場的に単独行動は難しいので、ネイトだけ同行の許可を頂けませんか?」
「ま、それくらいならいいだろう。ティベリアに話がついたら知らせてくれ」
「ありがとうございます!」
むろん近衛騎士からの抗議もあったが、自分の決定に異を唱えるのかという意味の不敬だよ、との一言に黙らされていた。
トバイアスなら、魔王のように暇潰しだと言って頻繁に遊びに来ることもないだろう。そもそも皇帝がそんなに暇だとは考えられないし、来ても温泉くらいしか楽しめるものはない。
加えて基本的に優弥たちは週末はこちらで過ごすが、今のところ生活拠点はあくまでモノトリス王国の借家である。あちらで何かあれば来られないこともあるのだ。時間が合うのも少ないと思われる。
もっともポーラだけは、仕事を辞めてこちらで自堕落に生活したいという願望があるようだが。
「そうだ、これをやろう」
そう言って彼は
「まさかドラゴンの……よ、よろしいのですか!?」
「ああ。十枚しかないうちの一枚だから大切にしてくれると嬉しい」
「そのように貴重な物を……ありがとうございます! もちろん国宝とさせて頂きます!」
「い、いや、そこまでは……」
「では僕からも」
皇帝が代わりに差し出したのは、白銀に皇家の紋章が刻まれたプレートだった。これもまたどんな勲章よりも貴重な物で、トバイアスも贈るのは生まれて初めてのことだそうだ。
「おお、ありがとうな!」
「本当はお別れの時にお渡ししようと思っていたのですが、先に出されてしまいましたので」
「あはは、悪い悪い」
「いえ。それでは僕たちはこれで失礼します」
「気をつけて帰れよ」
領境まで送ると言ったのだが、申し訳ないからと断られた。ついでに近衛騎士がいるので護衛も不要だそうだ。
それと本当の最後に礼として渡されたのは帝国金貨一万枚、日本円にしておよそ十億円だった。彼は金には困ってないからはいらないと受け取りを断ったのだが、リベラ商会の件はこれ以上に帝国に益があったとのこと。また、他に何を贈ればいいか考えつかなかったので、金貨になったそうだ。
国宝などの帝国で貴重とされる物でも優弥にとって有益かどうかは不明だし、それをどうだと胸を張りながら渡して傲慢と思われたくなかったと言う。
(皇帝とは思えない腰の低さだな)
こうして皇帝一行は邸を後にする。
六人の近衛騎士たちは、見送りに出てきたシンディーとニコラに見えなくなるまで手を振っていた。
――あとがき――
いつもより更新少し遅れてすみません🥺
アラーム切れてたもんで💦
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