第四話 面接(後編)

 剣術道場からやってきた二人は姿勢がよく、さすが有段者という雰囲気に包まれていた。早速面接がスタートする。


「お二人は姉妹とのことですね」

「私が姉のリディア、こちらが妹のジュリアです」

「傭兵試験も難なくクリアされたそうで」


「あの程度の試験がクリア出来ないようでは、鉱山ロード様のお宅の警護など務まらないと思います」


「あははは。俺は単なる一般人ですよ。それに主な警護対象はこちらにいるソフィアです」

「承知しております」


「ところでどうしてお二人は応募して下さったのですか?」


「もちろん、剣士として鉱山ロード様のお宅を警護出来る名誉のためです」

「ジュリアさんもですか?」

「はい。私も姉と同じです」


「お二人なら提示した給金は安すぎませんか?」

「私たちは生活には困っておりませんので問題ありません」

「金よりも名誉と?」


「端的に申し上げればその通りです」


「なるほど。ちなみに必要であれば人を斬れますか?」

「相手が不埒者なら斬る覚悟はあります!」


 覚悟があっても、経験がなければ実際に人を斬れるとは限らない。おそらくこの二人は有段者なのだから、道場ではそれなりに強いのだろう。しかし実戦となれば結果がどうなるか分からない。


「ちなみにお二人は帯剣の許可はお持ちですか?」

「今はありませんが、採用頂ければすぐに取得致します」


「これまで真剣を扱ったことは?」

「稽古で木偶でく相手には何度も」


「ふむ。ソフィアはなにか聞きたいことはある?」

「あの、採用になったら一緒にお茶して下さいますか?」

「「はい?」」


 二人とも意味が分からないという視線を優弥に向ける。


「勤務中の大半を彼女と過ごすことになるので、息抜きにお茶に付き合ってもらえるかが気になるみたいなんですよ」


「なるほど、そういうことでしたか。申し訳ありません。警護中は息を抜く暇などあり得ませんので、お茶は辞退させて頂きます」

「そうですか……」


「お二人からこちらに聞きたいことはありますか?」


「鉱山ロード様、よろしければ一度我が道場にもお運び頂きたいのですが」

「俺がですか? どうして?」


「いえ、父がぜひお会いしたいと申しておりましたので」

「そうですか。採用が決まれば考えることに致しましょう」

「「ありがとうございます!」」


「今お礼を言われても……結果は明日お知らせしますので、改めて紹介所に来て下さい」


「え? あ、そうですね。一応確認しには参ります」

「一応?」

「失礼致しました。必要な手順ですから明日また参ります」


 彼は苦笑いを浮かべたが、目の前の二人は採用を疑っていないようにしか見えなかった。面接の終わりを告げると、部屋を出た二人から帯剣許可を取りに行くような内容の話し声が聞こえたからだ。


「ソフィアはどう思った?」

「なんか違うと思いました」

「あははは……」


「ユウヤさんにしか興味がないように見えましたし」

「うん、同感だ」


「私は採用するなら最初のシンディーさんとニコラさんがいいです」

「ソフィアがそこまでハッキリ自分の意見を言うのは珍しいね」


「そうでしょうか……そうかも知れませんね」


「ま、それじゃポーラにシンディーとニコラの採用を伝えてから帰ろうか。と、その前に、ロレール亭に寄りたいから付き合ってくれる?」


「いいですよ。シモンさんにご用ですか?」

「うん。詰め所のことでね」


 ポーラに採用の件を伝えてから職業紹介所を出た二人は、その足でロレール亭へと向かう。


「おや、兄さんにソフィアちゃんじゃないか。二人してどうしたんだい?」


「実は敷地内に建てる詰め所のことなんだけど、予定より少し大きくなりそうなんだ。それで改めて許可をもらいに来た」

「大きくってどれくらいなのさ? まさか大豪邸にするとかじゃないだろうね?」


「そんなわきゃねえだろ。予定の倍くらいかな」

「そのくらいなら構わないよ」


「ついでに簡易キッチンとトイレも付けたいから、上下水道も通していいか?」

「ユウヤさん?」

「金は出さないよ」

「ああ、自分で出すからご心配なく」


「そうかい。なら好きにしていいけど、誰かを住ませる気なのかい?」

「住ませるというか……そうだな、雇った警備員が住み込みで使うってところかな」


「ユウヤさん……」

「警備員を雇ったのかい」


 彼はロレール亭で仕事する時以外は、一人で留守番することになるソフィアの警護のためだと伝えた。これには女将も納得したようだ。


「それなら家賃は取れないね」

「おいおい、あそこは敷地ごと俺たちが借りてるはずだぞ」


「なに言ってんだい。住人として契約してるのは兄さんとソフィアちゃん、ポーラちゃんの三人だけだよ」

「なるほど、そういうことだったか」


「シンディーさんとニコラさんがちゃんと住めるようにしてあげるんですね!」

「お茶するなら簡単なキッチンもあった方がいいだろ?」

「ユウヤさん、優しいです!」


「後は職人の手配か。女将、仕事が早くて腕のいい職人に知り合いはいるかな?」


「もちろんだとも。そのくらいの大きさなら少々高くつくけど、雨さえ降らなきゃ資材の手配と配管も含めて五日で仕上げる職人たちさね。どうする?」


「手は空いてるのか?」

「閑散期だから大丈夫だよ」

「五日か。どうせ手数料取るんだよな?」

「兄さんからは取らないよ」


「価格に上乗せされるだろ。同じことだよ。それは構わないから、宿の一室を工事が終わるまでの五日間サービスしてくれないか?」


 警備員として雇うシンディーとニコラが使うと伝えると、食事は別料金だが五日なら構わないとの答えが返ってきた。


「恩に着る。すぐに手配してくれ。部屋は明日から五日間で頼む」

「雨が降って工期が延びたらその分はもらうからね」

「ああ、それでいい」


 その後すぐに職人たちの手配が済み、契約書にサインして優弥はソフィアと共にロレール亭を後にするのだった。

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