第59話 路面電車
もともと、帝都の市街地では馬車鉄道が通っていた。
運行距離自体は10kmにも満たないごく短距離のものだ。
主な建設目的は市内交通、要はチョイ乗り用の市民の足だ。
帝都の大通りの石畳に鉄のレールを敷き、馬に引かれた客車が行き交う。
とは言え、ただの馬車よりも鉄道の方が走行時の摩擦抵抗が小さいことから少ない馬の頭数で多くな客車が牽引でき、たくさんの人を運べた。
馬車鉄道は五分から十分間隔で運行されており、運賃も安いことから多くの市民に利用されている。
今では路線図が網の目の様になっており、今年もまた線路が伸びたらしい。
ちなみにこの馬車鉄道は皇帝が所有する形になっている。
その為、今回の電力事業のついでに提案を行ったのだ。
「市内鉄道の電化をしませんか?」
ここで大きな問題となったのが直流と交流の問題だった。
電気で動く鉄道車両自体は海外で既に実例があった。
だがそれは全て直流の電気で動いていた。
だからこそ未だに実験段階のままで電車が実用化にこぎつけていなかったのだ。
しかし、この世界に半導体はおろか、真空管もない。
水銀整流器……、イグナイトロンなんかも考えたが結局諦め、「回転変流器」を導入することにした。
これは結構変態な装置である。
だが、耐圧の都合から、出力は直流600Vである。
電車側には抵抗器を車載して速度制御することにした。
これらの電力装置を13歳のガキが思いついたとなれば異常だが、あまりにも異常すぎたため、逆にスルーされた。
伯爵もどれくらい難しい発明なのか理解しきれていない様子である。
まぁ、表向きは僕の発明ではないことになっているしね?
件のダミーで雇った科学者だが、様々な勢力が彼を囲い込もうと接触してきている。
だが何とまぁ、彼は相当女好きだったようで、かつ、伯爵が見繕った少女を大変気に入ったようである。
一応、名目上は特許を彼の名義で取得している以上、かの科学者に裏切られるわけにはいかないのだが、こんな手を使うしかないあたり、世の中ままならぬものだ。
こんな苦労の末に誕生した電車だが、他の多くの馬車に混ざりつつ、一両が帝都の馬車鉄道の一系統で走り始めた。
電車を走らせるためには給電設備……、架線を張ったり、地上側も絶縁対策の工事をしなければならない為、今のところ導入路線は一系統のみである。
今後、馬車よりもコスト面で有利であると判断されればさらに導入を進めてゆく予定である。
とは言え、馬にも引かれず一人でに動くその姿は多くの帝都民の度肝を抜き、その珍しさは話題となっている。
ラウラも床下から聞こえるモーターの轟音にも負けず劣らず路面電車の車内で大はしゃぎしていた。
全く可愛らしい。
あと、おっ〇い揺れすぎ…………。
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