第55話 部活
部活選び。
前世に於いて、それは学校生活を大きく左右する選択の一つであった。
貴族学園に於いて僕が選んだのは、「科学部」だった。
貴族にとって魔法の能力が重要視される風潮の中で、自然科学というのは軽視されがちであり、道楽者のすることとされている。
過去に趣味で科学部を立ち上げた学生がいたようだが、この学園では後進が育たず、人気は出なかった。
そもそも科学部の存在を認知している生徒自体少ない。
多くの生徒が魔術部や魔法球技部等に憧れを抱き、それらの部活が大所帯になる一方だった。
では、何故僕がこの科学部を選んだのか……。
もともと目を付けていたのもあるが、この部活を選んだ理由は、現在活動員数0の実質廃部だったからだ。
つまり、僕専用の実験室が学園内に手に入ったに等しい。
近年の活動実績が皆無で有った為、部活動予算が殆ど下りなかったが、研究は自費でやろうと思う。
僕が科学部に入部すると、ラウラも当然の様についてきた。
貴族学園はやたら面積が広く、校舎も大きい。
部屋数も無駄に余っている。
学生会館の二階の角部屋。
ホコリが貯まっていた実験室は一週間かけて二人で掃除し、新品のソファーやティーセットまで持ち込んだ。
こうして僕たち二人の放課後のたまり場が出来たのである。
「ラウラさんや……、それはフラスコじゃぞ?」
「えっ? これ、ティーポットじゃないの?」
アルコールランプで加熱したフラスコで抽出した紅茶をビーカーで飲む。
実に文明的(?)である。
さて、新しい学園生活の勝手も分かり始めた頃、僕は新しい商売を考え始めていた。
電力事業である。
これには、複雑ないきさつがあった。
先日、伯爵邸を訪問した時の事、ヴェルナール伯爵、シュテファンから相談があったのだ。
「エルヴィン君。今、帝都で売電事業が始まっているのは知っているかな?」
「はい。リンツ電灯ですね?」
「あぁ、そうだ。だがね、それで問題が出てきたんだ」
リンツ電灯株式会社。
昨年からライテンベルク帝国の帝都で電力販売事業を始めた民間事業者だ。
ライテンベルク帝国も遅ればせながら産業化を迎えている。
隣国の首都でも二年前から電力販売が開始され、電灯が普及し始めている中、我が帝国も列強国の一角として急いで追随する形となった。
だが、この電力会社には問題があった。
出資者の大半が貴族派の者たちなのである。
経営者にも多数の貴族派の者たちが名を連ねていた。
そして、このリンツ電灯の事業地域が皇帝のいる帝都の市街地なのである。
このままでは貴族派に帝都の電力事業を握られる。
皇帝派の貴族たちの間では強い危機感と忌避感があった。
ならば、皇帝の領地内での事業認可を取り消せばよかろうとも思うだろう。
だが、そうもいかない事情があった。
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