第44話 手紙と裏口





「貴族学園ですか?」


「えぇ、ご存じ?」


「はい」


 貴族学園……、正式には、ライテンベルク帝国貴族学園。

 ここ、王都の郊外にある全寮制の学校である。

 元は帝国貴族の子弟たちに対し軍事教育を施し、士官候補を育てる目的で今から250年前に設立された歴史ある名門校だ。

 だが、今では士官教育以外にも政治や魔術など様々な学部が設置され、幅広い教育を行う皇室所有の研究機関となっている。

 名前の通り、昔は貴族籍の者しか入学を許されなかったが、実力主義を掲げる皇帝の意向により10年前から平民にもその門戸を開放し、優秀な人材を募っている。

 未だに平民枠での入試は倍率が高いが、少しずつ平民の学生も増え始めていた。


「入試の年齢制限は13歳以上だから、二人とも来年には受験資格が得られるわ。神父様から聴きました。エルヴィンさんは大変優秀な方だとか……、それに、ご商売もなさっていると。貴族学園卒業の経歴が有れば、社交界でも一目置かれます。平民枠であればなおさら。もちろん、無理には言いませんわ。これは私のおせっかいです。だけれども、もし、エルヴィン様が入学なさるとおっしゃるのなら、伯爵家が色々と支援させていただきます」


「それは……、学費なら僕……、失敬……、私くしのポケットマネーからでも出せますので……」


「いえいえ、学費だけではありませんよ。貴族学園は表向き実力主義ですが、平民の学生さんが快適な学園生活を送られるのであれば、背後がいた方がよろしいですわ……。五年前に学園を卒業した息子が申しておりました」


 貴族学園こえ~。


「しかし、貴族学園は全寮制だったと思います」


「えぇ。私が通っていた頃からそうですわ」


「貴族学園卒業の肩書も魅力的ですが、私は出来ればラウラと一緒に暮らしたいのです。いまは商売も一段落ついていますし……」


 そうなのだ。

 大変、申し訳ないが、ラウラはお勉強はあんまりできない。


 だが、前夫人は自身気に頷いた。


「御心配には及びません。ラウラさんはヴェルナール伯爵家の縁者だと言えば貴族枠で入試を受けられます」


 なるほど……。


「それに、私が一筆書けば、不合格にするバカはいないでしょう?」


 それ……、裏口入学っていうんじゃぁ…………。


「ホントですか⁉ 私、エルヴィンと一緒になれますか?」


 ラウラが食いついた。





「分かりました。僕も今からしっかり受験勉強を始めましょう」




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