第32話 租税と業務効率化





「税金ですか…………」


 店長に呼び出されたと思えば、開口一番、


「税金、どうすればいいんだ?」


 であった。


 別に脱税しようという話ではない。

 系列店だの何だのと業務形態が複雑になり、店長には理解不能になったのだ。


「とりあえず税理士を入れましょう」


 僕もこの世界の税制までは理解しきれていない。

 やはり専門家を入れるのが一番だろう。



 こうして呼ばれたのが税理士のパウラ氏であった。

 本店から一番近かった税理士事務所に行き、紹介を頼めば出てきたというだけの人物だ。


 別に僕が選んだ訳ではない。

 訳ではないのだが…………。



「エルヴィン?」


「はい。なんでしょうか、ラウラさん?」


「誰よ、この女はぁああああーーーーー!!!!」



 そう……、

 紹介されたのは、グラマスなお姉さまだったのだ。


 長く艶やかな黒髪に、くびれた腰。

 そして爆●!


「ハァ~イ! 君が依頼主のエルヴィンちゃんね? お姉さんをご指名なんて、うれしいわ」


 胸元が大きく開いたインナーにカジュアルなスーツを併せ、ミニスカートから伸びる脚を組む。


 出迎えた店長は鼻の下を伸ばしたところを女将さんに見つかって奥へと連行され、プロポーションに自身のありそうなユリアさんまで顔を引きつらせていた。


 そして、僕はと言うと、税理士さんと会うと言った僕に案の定付いてきたラウラによって、前を見えなくされていた。

 より具体的には、ラウラは僕の頭部を前から抱きしめ、視界を遮っている。

 美少女の胸元に飛びこめるのはありがたいが、このままでは話が進まない。



 まぁ、結局のところ、彼女は有能だった。

 各店舗の帳簿を出して、パウラ氏に見ていただければすぐに手続きをしてもらえた。

 コンサル料はそれなりに取られたが…………。





 そして、今日、僕は新たな事業計画を店長へ話しに来ていた。


「本社新設?」


「はい。正確には、本社工場新設でしょうか……。業務が煩雑化する中で、このままでは各店舗や事業部門を効率的に成長させられません」


「よく分からんが?」


「まぁ…………、ぶっちゃけ、今の本店、狭くなってきてませんか?」


「確かになぁ…………。3店舗目のあたりで厨房のスペースが足りないと思い始めてたんだ」


「僕も見ていて思いました。そこでですね、新しく大きな厨房を作って製造拠点をそこに移そうと思うんです。一挙に5店舗分の商品を製造する設備を導入して、出荷までの導線も効率化します」


「なるほど…………。でも、なんだかなぁ……。やっぱり、パンってヤツは、客の顔を見ながら出来立てを食べさすモンだと思うんだ。焼きたての焦げたチーズの香り、溶けたチョコの色……。そう言ったものはあの小さな店じゃなきゃぁ…………。」


「まぁ……、職人肌の店長なら難色を示しそうな案だとは思っていました」


「いや、別に反対という訳ではない」


「いえ、これは強制ではないので…………。あくまで店長にご提案しただけです。ヘンゼル・ベーカリーの味は、店長の腕にかかていますから…………」


「………………」


「………………」


「………………」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る