第31話 多角経営と事業拡大





 ポイントカードがパクられた。




 帝都北門駅前店の向かいにあるライバル店だった。

 ウチのポイント制度を見て同じような取り組みを始めたのだ。


 そろそろ真似する店が出始めると思っていた。

 想像より遅いくらいだ。


 そろそろ計画を始める頃合いだろう。


 その日、二つの発表があった。


 まず、ヘンゼル・ベーカリーが発行するポイントカードにブランド名を付けた。

 ベイカである。


 そしてもう一つ。

 同じ地区にある精肉店と青果店、計2店舗でもポイントカード、ベイカが使えるようになったのだ。

 ベイカのロゴマークを設定し、店頭や会計のところにそのマークが貼ってある店を目印にした。


 ヘンゼル・ベーカリーは前々からサンドイッチなどの総菜や軽食になるパンを製造していた。

 その材料の調達をそれらの店に一本化することを条件に導入を承諾してもらった。


 ちなみにこれら2店舗の食料品店は、ヘンゼル・ベーカリー3店舗が成す三角地帯の中に所在する店である。


 確かにライバルのパン屋もポイントカードを導入したが、それらの多くは系列店を持たない。

 彼らが発行するポイントカードは、その1店舗でのみ使える。


 だが、パン屋だけでなく肉や野菜の購入の際にもポイントが貯まるのなら、そのカードの方がポイントが貯めやすい。

 似た位置にパン屋があり、どちらもポイントカードを出しているのなら、より広範囲で使えるポイントカードに対応している店を使った方がお得だ。


 つまり、帝都北門駅の表通りあたりに居住する人々がポイントカードを作るならベイカ、一択である。

 今のところここまで先進的なポイントシステムを構築できている例は少ない。


 さらに現在、同じ三角地帯にある雑貨屋1店舗にも交渉中である。



 ポイントカードを導入したあたりで察していたが、駅前の店のカード導入は苦肉の策だったらしく、ライバル店はその後1か月で閉店した。

 その後も僕の目論見通り地区内のライバル店がいくつか閉店した。


 また、ヘンゼル・ベーカリーでは移動販売も始めている。

 目的は市場調査である。

 毎日、その地区の決まった位置でワゴンカーを停めて、ウチの流通班を使って焼きたてのパンを並べる。

 それを数週間続ければそのあたりの需要が予測できるのだ。


 需要があると判断されればフランチャイズの手法によりその地域に早期に出店する。

 資金的な負担が少なく、経営にも危険性が少ない策略である。


 こうして気が付けばヘンゼル・ベーカリーは帝都北門駅を中心に系列店が5店舗になっていた。

 ちなみに、2号店は今月から名前がハインツ店に変わっている。

 ハインツさんは名前を少しでも取り戻したと喜んでいる。


 また、ベイカの加盟店の交渉も複数の店舗で広げる計画である。





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