第30話 神父は見た





「あら、神父さん。おはようございます」


「えぇ、おはようございます」



 私は帝都の郊外にある、とある教会で神父を務めております。

 元は貴族でしたが家を継げない身分でしたので、神に仕える身分となりました。

 今では教会に併設された孤児院で小さな信徒たちのお世話もしております。


 さて、私は今日は教会から歩いてすぐのパン屋さんを訪れております。


「おぉ、神父さんじゃねぇか?」


「おはようございます。店長さん。子どもたちの様子はどうですか?」


 そうなのです。

 このヘンゼル・ベーカリーではウチの子供たちが既に10人以上働かせていただいているのです。


 教会も苦しいですからね。

 子どもたちにたくさんお小遣いはあげられません。

 将来は自立してもらわなくてはなりませんし。

 働かせていただけるのは良いことです。


 店長さんは答えました。


「あぁ、子どもたちかい? ホント、働き者だよ。とても助かってる」


「そうでしたか。それは、それは…………、」


「店長っ! 2号店のクロワッサンあと何分くらいで焼けますか⁉ …………って、神父さん⁉ いらしてたんですか?」


「えぇ。エルヴィン君も元気にやっているようですね?」


「そうですね。店長の腕がいいので、お店も繁盛してます」


「おやおやそうですか。ほどほどに頑張りなさいね?」


 あのエルヴィン君は本当に不思議な子です。

 昔から手がかからず優秀な子でした。


 私の目の届かないところで子供たちの喧嘩を仲裁してくれたり……。

 人見知りするラウラ君の相手をしてくれたり…………。


 でも、最近の君はラウラくんと一緒に神の教えに背く不徳もありそうですが?


 まぁ、彼は人の煩悩に聡いのでしょう。きっと、そうでしょう。


「55マルクのお買い上げですので、スタンプは、えぇ~っと、2個になります」


 なるほど、いちいち計算しなくてもいい様に、200マルクまでのポイントは表にしているのですね?


 このポイントカードというのは良いですね……。

 でも、まぁ、なんだか私の買い物がこのカードに左右されてるような感覚もしますが、気にしないことにしましょう。


「よく考えれば、孤児院のパンをここで買っても、ポイントが付くのなら、今、仕入れてる所より安価になるかもしれませんね?」


 おおっ?

 エルヴィン君、こちらを見ています。


「そうなんですか? 神父さん?」


「詳しく計算してみないといけませんが……」


「店長」


「何だ?」


「是非、孤児院にも卸しませんか? 朝、昼、晩、3食あれば、1日に100個以上の売り上げですよ? 食パンであれば、何斤になるでしょう?」


「確かに……」


「それに、安定した納入先になりますから、特別に割引を行ってもいいのでは? 5%~10%くらいで見込めますよ?」


「ほう。そうだな。神父さん、是非ウチも考えてくれ?」


「でも、神父さん。もしかしたら、今まで取引があったパン屋と付き合いがあるのなら、無理はしなくて構いませんよ?」


 あぁ、エルヴィン君はその年で、そう言うところまで気が付くのですね?


「いえ。気にしなくて構いませんよ。たまたま教会から毎日買いに行ける範囲で一番安いところを選んでいただけですから」







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