第二章 銀髪碧眼の看板娘
第06話 散歩と菓子パンとお駄賃
『ヘンゼル・ベーカリー』
ここ、ライテンベルク帝国の帝都の一角にある、ちっぽけなパン屋だ。
店名のヘンゼルは勿論、オーナーの名前である。
二階建てのこじんまりとした建物で、1階はパン屋、2階は店長夫妻の居室になっている。
そして、この店は僕たちの孤児院から徒歩圏内にあった。
「お散歩がしたい」
僕はラウラの望みに応じて、その日も外出のお供をしていた。
ちょくちょく出かける、ラウラと二人きりのお散歩。
「ふ、ふん、ふ、ふん、ふ~ん♪」
手をつないだラウラもご機嫌だ。
よく分からない鼻歌まで歌っている。
そして件のパン屋の前にやって来た。
孤児院のある教会までもうすぐ。
「ちょっと、おやつを買って帰ろう」
僕は神父の手伝いを積極的にやって貯めた駄賃をポケットから出した。
「20マルクまでにしてね」
「は~い!」
ラウラはじっくりと菓子パンを選ぶ。
小さな女の子が甘そうなパンを選ぶ姿は本当に可愛らしい。
はっきりいって、このパン屋は小さい。
商品も少ない。
客もまばらだ。
だが、教会に最も近いパン屋である。
そして、意外にここのパンは美味しい。
「これにする!」
「はいよ、嬢ちゃん。ときどき来てくれてるね?」
「うん」
老齢の男性店員が紙袋に包んだベーグルを渡す。
「ありがとさん」
「うん、ありがとう」
「ありがとうございました」
そうして、店を出ようとしたところだった。
僕は出口のドアの張り紙の前で足を止めた。
「うん? 従業員募集?」
「……?」
手をつないだラウラも訝しむ。
「どうした、坊主?」
「店長さん、コレ、人手が足りないんですか?」
老齢の店員は少し考えるそぶりを見せた後話し始めた。
「あぁ。ウチはワシとカミさんの二人で切り盛りしてきたんだが、ワシもカミさんも、もう、歳でな。だんだん、身体がきつくなってきたんだ。しばらく張り出してるんだが、誰も声を上げてくれなくてな」
「店長さん、僕はどうですか?」
「坊主がか? 正直、ウチじゃあ、小遣い程度しか出せないぞ?」
「えぇ。是非お願いします」
「よし。じゃあ、また来なさい」
孤児院に戻った後、僕は神父に話した。
許可はすんなり出た。
もともとこの国では児童労働なんて概念はない。
子どもでも家を手伝うのが当たり前だ。
孤児院でも先輩たちには新聞配達だの、ドブさらいだのと働いている者はたくさんいる。
神父の手伝いでもお駄賃は出るが、小遣いは基本的に自分で稼ぐものであり、神父もそれを勧めていた。
よく考えると、この神父はかなり善良である。
前世の現代日本ですら児童養護施設で事件が起こっている中、子どもにも手を出さず、売り払ったりもしない。
子どもの就労についても、将来社会に出る際の勉強になるとでも考えているのだろう。
ただし、ラウラについては近く僕が働きに出るのが不安なようであった。
そして、仕方なく僕はラウラも毎日店に連れて行くようにした。
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