第03話 氷魔法と想像力
よく晴れた、とある秋の日の午後。
神父から頼まれた薪運びをしているとラウラも出てきた。
と言っても彼女に腕力は無い為、あまり力にはならない。
しかし、僕を手伝おうとしてくれているのは分かるので、素直にうれしい。
「ありがとう」
と僕が礼を述べれば、ラウラも嬉しそうにはにかんだ。
手を洗ったところでラウラに声をかけた。
「今日も時間があるから、ラウラの魔法の練習するぞ」
ラウラも神妙に頷いた。
「うん」
木陰のベンチの前に水を張った桶を置いた。
「おいで」
ベンチに座った僕が手招きすると、ラウラは僕の膝の上にちょこんと腰掛ける。
腕を前に廻してラウラを後ろから抱きかかえると、柔らかな少女の身体を僕の体中で包み込むような感触がした。
ラウラは氷魔法の適性があった。
彼女の魔力量は Cランクだ。
これはかなり多い。
平民にはまず、いない。
孤児院には神父を除いてただ一人であるし、貴族社会でも通用するレベルだ。
だが、ラウラはあまり魔法が得意でない。
やはり貴族の様に幼少期から魔法の英才教育が施されていないので物理現象の想像についての訓練が足りないのだろう。
この世界での魔法は重要な能力の一つだ。
護身術になるというのもあるが、魔法が得意であれば選べる職業も増える。
だからこそ神父も子どもたちの魔法の訓練には積極的に協力してくれている。
僕は膝の上のラウラに促した。
「ラウラ、桶の水を凍らしてごらん。冷たい氷をよく想像するんだよ」
「うん」
ラウラは集中したように目を閉じ、桶に手をかざす。
「氷…………、氷……、冷たい氷……」
ブツブツとつぶやきながら魔力を込めてゆく。
すると、桶の水面に薄い氷の膜ができ始めた。
「ふぅ……、ふぅ…………、」
「疲れたかい、ラウラ?」
僕の問いかけにラウラはコクリと頷いた。
「前よりも上手くなったじゃないか。指で突いても氷が割れないぞ?」
「えへへ……、」
頭を撫でてやると、ラウラはくすぐったそうにして笑う。
サラサラとした髪が心地よい。
形の良い、小さな頭の感触が至高である。
だが、Cランクの魔法にしては威力が弱い。
ラウラとて、冬の日にバケツにできた氷や、凍った水たまりくらい見たことがある。
だからやはり具体的な想像力が足りないのだろう。
これはもう、ラウラがコツを掴むまで根気よく練習させるしかない。
しかし、僕は一味違う。
「ラウラに秘策を授けよう」
「秘策?」
「あぁ。この魔法は、誰にも教えちゃだめだよ。僕とラウラだけの秘密の魔法だ」
ラウラは僕の目を覗き込む。
サファイアの様に青く透き通った、大きな瞳が揺れた。
「うん。わかった」
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