第35話 放たれる主砲

 それは、戦車であった。


「戦車ぁ!? なの!」


 錦織が砲塔の上に立ち高いところから皆を見る。


「そうよ! 戦車よ! ゴミの残骸の中から探して引っ張ってきたの!」

「あんたはやってないでしょうが」


 仁井総がハッチから錦織をけり上げる。


「うわあ!? ちょっと落ちるわ!」

『てめえは勝手について来たんだぜぇ、ここまで乗せてもらっただけ感謝しろよ』

「うるさいわね! アタシの情報網なめんじゃないわよ! 戦車はすでに掘り当ててたことなんて知ってたわよ! それで出撃するだなんて言ったら面白そうだからついていくしかないじゃない!」

『わかったからちょっと黙って欲しいと思う所存』


 戦車の中から、スピーカーごしに声が聞こえる。


『えーなんだっけ秋津衆とか言ったっけ? の皆様。接種だか摂政だか何をするつもりだか知りませんが……そんな横暴が許されていいのでしょうか? いいやそんなわけありますまい。我ら現代ダンジョン部はその横暴に断固抗議しその意を示すため実力行使に及ばせてもらう所存なのであります』

『というわけで砲撃するから。以上車長仁井総より』

『ほいきたぜぇ! 砲手ジョン! 照準よーし!』

『こちら操縦手忍居、位置合わせよーし』

『撃て』


 そうして巨大な音と衝撃を伴い――砲弾が主砲から、放たれた。


「――!!」

「仁代ちゃん!」


 神舞が手を伸ばし、戦車から放たれた砲弾を受け止める。


「着だーん、今よ!」


 衝撃。

 巨大な爆発が神舞を襲った。


「ぐ……がああああああ!!!!」


「効いてるわね!」


『皆もぼーっとしてないで攻めるたらいいんじゃない? 案山子じゃないんだから』


 仁井総が戦車の中から呼びかける。


「はっなの! 突然の衝撃でぼーっとしてたなの」

「それではこちらも行かせてもらいましょう」

「はいにゃーなの! ギャラクティックハートー斬!」


 マリアと梁瀬が、砲撃を食らった神舞に追撃する。


「じゃあこちらも発射!!」


 合わせて錦織が戦車の上からバズーカ砲をぶっ放す。


「あああ、ああああああああああ!!!」


 叫ぶ、叫ぶ、叫び続ける。

 集中的に攻撃されたことにより、悲鳴はでかくなっていく。


「あんなの……! 是が対処しなきゃ……!」


 統月が木の枝を戦車に向かって伸ばす。


『なんか来た、迎撃するよ』

『了解する所存』

『行くぜぃ、砲撃ぃ!』


 主砲から火が放たれる。

 その砲撃は枝を切り裂きながら、幹の方に向かっていき――


「着弾! ひゅー!」


 その爆発によって、木の上方が吹き飛んだ。

 そして、辺りが燃えていく。


「――」

「へへっやるねえ――あちらは、万事休すってところか?」


 折れた先から、少しずつ枝が伸び回復していく。

 だが、爆発により着火した火がそれをさせない。


「――なんなのあれ、きいてません」

『そりゃ言ってなかったもの』

『みんなを驚かすためにいってなかったからなぁ』

『まあ、仲間に攻撃するために使いたくなかった所存だが』


 2対6で拮抗してたはずの相手に、巨大な戦力が追加される。この差はとても大きく覆せないほどであった。


 このままでは負ける。そう思った神舞は――勢いよく、走り始めた。


「ガアアアアア!!」


 痛みと暴走の後遺症でほとんど意識のない彼女のその選択は、野生の勘とでもいうべきものだったのか――


「!? まずい……!」


 マリアが即座に気づき、クリスタルを使って前をふさぐ。

 だが、それを神舞は突進で吹き飛ばした。


「ギャラクティックーハートー! ビーム!」


 梁瀬が杖からビームを放つ。


「グオオオオオオオ!!」


 その攻撃を受けながら、それでも突進していく。


「まずい、そのまま戦車を壊すつもりやで!」

「あら――それなら止めないといけませんわね!」

「くそっ! ワイじゃ力不足かもしれんが、それでも行くしかあらへん! 鍾檄拳!」


 アリスが時を止め移動し、鎌を振る。

 銀蛇が拳を突き出し、突撃する。


「――! キャア!」

「ぐわああああ!! クソっ!」


 だが、二人はは吹き飛ばされる。


「ちっ、狙撃!」

「くっ! マルチツール! ガードドライバー!」


 永居が弾丸を打ち込み、鋼が地面を、プラスドライバーを地面に突き刺し壁を作る。

 だが、勢い付いた彼女を止めることはできなかった。


「ぎゃあああ!! 近づいてくる! 仁井総ちゃんどうすんの!?」


 苦し紛れに錦織がバズーカ砲を連射する。だがその一撃は効かない。

 そのさなか――仁井総は、冷静に、冷徹に、言った。


『――前進』


 と。


「え」

『――おうよぉ!』

『マジか』


 戦車は進む。砲塔を回し、前に進み、逆に神舞に突っ込んでいく。


「ああああああああああああああ!!!」

『飛んで火にいる夏の虫――ゼロ距離射撃よ』


 砲塔の先が神舞に触れる。


『射撃、今』

『了解』


 そして、主砲が火を噴いた。


 轟音が鳴り響く。どこまでもどこまでも響いていく。


 そしてその瞬間――神舞の体から、クリスタルの花が咲いた。


「――」


 一連の流れに、統月が唖然としている。


「おっと、動くなよ」


 鋼が統月の首にナイフを突きつけた。

 彼女は、地面にへたり込んでしまう。


「素直に降参しろ、今なら命までは取らん」

「……負け、ました」

「そうだ、それでいい」


 こうして、地上の戦いは決着した。


 ***


「んで、どうするんや? ダンジョンに来たけれども」

「へへっ、都武の言う通り下に進んでいくしかねえだろ」

「花ちゃんもいくなのー」

「こちらも手伝わせてもらいましょう。武器もありますし」


 メアリーの入ったクリスタルをなお振り回し続けるマリア。


「……それいつまで使うんですの?」

「ええ、もちろん今回の戦いが終わるまでよ。メアリーちゃんも友達だから許してくれるはず」

「なんか怖いなあ……メアリーが可哀そう」

『あたしゃらも行くよー』

『戦車の強さ、見せてやるぜぃ。ロボットでもきやがれってんだ』

「ふふっ! 面白くなってきたわね!」

『笑い事じゃないと思う所存でありまして……』


 そんな中、永居が不安そうな顔をしながら歩いてくる。


「……とにかく、行きましょう。早くいかないと、何だか嫌な予感が――」



「ふふふ、ふふふ、ははは、ははは……!」



 その時、地面にへたり込んで下を向いていた統月が笑い始める。


「――統月、何がおかしい」

「ははは、是の役目はもう終えたもの。是たちのやるべきことはあなたたちの時間稼ぎ。もう儀式は始まっている――」


 地面が、揺れ始める。


「!? なんや!」


 その揺れは次第に大きさをましていく。


「これは地震じゃない――下から、何かが!?」


 その音は、次第に地面から地上へ上がっていく。


「ははは、来る、来ます、来たれり! 魔神が、ついに――」


 そうして、現れたのは――

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