第22話 【閑話】貧乳聖女の伝説②



14歳になり、成人の儀式の日を迎えたわ。


この世界では14歳になると成人の儀式をします、そこでジョブを授かります。


そのジョブにそった職業に就くのが一般的なの。


中にはジョブに逆らった職業に就く人も居ない訳じゃないけど、大抵が苦労する事になります。


何しろ何年も苦労して剣を振るっていた少年が、『剣士』のジョブを貰った少年が1週間鍛えただけでもう勝てない。


世の中は凄く不条理なのよ。


私はこれでも貴族の娘。


間違いなく良いジョブが貰えるわね。


最もお姉さまは『令嬢』なんて貴族の娘に生まれたなら最高のジョブだから、それには敵わないわ。


だけど、もし、一人で生きるのに適したジョブだったら…もう家を出た方が良いわね。


あの家の中じゃ…胸が小さいだけで嫌な思いをするのだから。


外に出れば、きっと違う人生が歩ける筈だわ。


「まるで平原の様な胸」とか「お嬢様はまるで青年のようですな」なんて嫌味を聞かないですむもの。


そんな事大した事じゃない?


アホ臭いと言われるかも知れないけど…結構切実なのよ。


私にとってはね。


恐れ多くも貴族の令嬢に生まれたのに、あの家では胸が小さいだけでメイドからも馬鹿にされるのよ!


『本当にあり得ないわ』


このまま、あそこに居ると、きっと私は駄目になるわ。


だって、余りに馬鹿にされるから、乳が大きい人間が皆、敵に見えるのよ。


実際にアンリというメイドを首にしたわ。


彼女がした事は、紅茶をこぼした事。


多分、彼女が貧乳だったら…


『怪我をしなかった?やけどして無いわよね…此処は良いから先生に見て貰ってきたらいいわ』


と優しい対応が取れたと思うの。


だけど、その子の胸が大きかったから…


『貴族の令嬢が火傷したらどう責任をとるつもりかしら? あんたみたいなクズは要らないわ、荷物を纏めてすぐに出て行きなさい!』


首にしてしまったわ。


泣きながら私に土下座をする姿を見て…


私は…


『いい気味だ』


そう思ったのよ!


別に私が行った事は、貴族にとって普通の事だわ。


貴族の令嬢に火傷を負わせたのだから、クビでも問題は全く無いし…別に普通の事だわ。


だけど、私にとって問題なのは『貧乳』だったらクビにしなかった。


という事なのよ?


平民を無碍に扱う貴族は多いわ。


熱い紅茶を掛けてクビなら良い方よ。


ただ、其処にえこひいきを入れてしまった自分が、情けないだけよ!


「さぁ、レイス様の番ですよ…どうぞお入り下さい」


普通の子は5人位ずつ呼ばれて祈るのよ…だけど貴族の子は別。


家に有利なジョブの場合があるから、1人だけで受けるの。


実際には子供1人じゃなく家族も一緒なのよ…


だけど、私は嫌われているから、1人なの。


まぁ気兼ねしない分気持ちは楽ね。


司祭様から紙を貰い両手で包み込む様に持ったわ。


このまま跪いて祈れば、紙に職業が浮かび上がるのよ。


私は跪いて祈ったわ。


『少しでも良いジョブが授かれますように』


その時可笑しな事が起きたのよ。


普段なら紙に文字が浮かぶだけの筈が…なんと天使が私の前に現れほほ笑んだのよ。


これは4大ジョブ(勇者 聖女 剣聖 賢者)の時に起こる奇跡なのよ。


「レイス様…用紙にはなんと書かれていますか!」


司祭も興奮しているわね。


だって目の前の私が恐らく4職のうちのどれかなのですからね。


「え~と『聖女』って書いてあるわ」


「せせせせせ…聖女様ですか! まさかこの世界を救う4人の希望の1人、聖女、その誕生の瞬間に立ち会えるなんて…生涯の誉でございます」


嘘、私が聖女…聖女と言えば女性のジョブで2人と居ない最高のジョブだ。


きっと、これからは幸せになれるわね。


そう思っていました。


だって聖女ですもん。


この時の私はまだ、大きな希望を持っていたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る