第67話 魔力の塊と化したバケモン
「なんや、ほんまもんのバケモンになりよったな」
「ゴロズ」
既に肉体すら切り捨ててしまったゼラ。精神生命体でもなく、魔力の塊。
人間のような見た目へのこだわりすら消えた。
黒い色の何かに赤い瞳⋯⋯形だけは人をとっていたが、人間らしき欠片はなかった。
肉体を魔力で構成したゼラは【憤怒】に呑み込まれていた。
ゼラが揺れる。
刹那、デッドロードの顔面がゼラに殴られていた。
激しく揺らめく意識と共に強く吹き飛ぶ体。
地面に衝突してようやく停止する。
(なんや。何が起こった)
デッドロードすら認識出来なかったスピード。
立ち上がると頬骨がポロリと崩れ落ちる。
「お前、なんやねん」
「ゴロズ」
再び一瞬でゼラが肉薄してパンチでの攻撃を行う。
純粋な攻撃で技術は無い。しかし、それすら補うスピードとパワーがあった。
それでもデッドロードはギリギリゼラのパンチを体を逸らして躱した。
「ッ!」
「純粋過ぎるもあかんな。揺らめいた瞬間に避ければええんや、で!」
魔力の塊であるゼラに向かって魔法を放つ。
「スパイラルダスト!」
激しい光がゼラの腹に襲い掛かる。
魔力の塊だからか、魔法への耐性が著しく低下していた。
しかし、それでも有り余る魔力で傷ついた箇所を高速で再生させる。
その速度はデッドロードがダメージを与えられてないと認識してしまう程だ。
「グゥウ」
(有象無象のゾンビじゃ意味がない。寧ろ支配権が奪われるだけや)
それは眠っている子供達が証明していた。
後は一部の元兵士であるゾンビも眠らされていた。他は消滅だ。
(と言うか、なんであそこまで抵抗しようとしない? それに一撃一撃までの時間がある。なんでや)
ゼラの一撃の破壊力は確かに高い。しかし、一撃を放つ為にタメの時間が存在している。
元々はなかったそのタメの時間にデッドロードは疑問を浮かべる。
(動く為のエネルギーと攻撃するためのエネルギー、それとも他の理由⋯⋯)
そこで一つの仮説に辿り着いた。
それは、まだこの肉体に慣れてない、である。
慣れてない体で戦うのは危険な行為である。
「やったら、力に慣れる前に攻撃するだけや! ブラックカーテン!」
黒いオーロラのような魔法がゼラの後ろに寝ている子供のゾンビに向かって突き進んだ。
支配権が略奪されたゾンビは配下ではなく敵。その攻撃に躊躇いは無い。
「ぐがああああ!」
「予想通りや」
突然、そんな攻撃はゼラが許さなかった。
怒りに呑まれて肉体を完全に捨てたゼラだとしても、子供達を傷付ける事を許せなかった。
体が黒いオーロラに包み込まれてその肉体を消失されて行く。その度に再生していく。
「攻めきれんか」
「グルル」
ゼラの瞳が揺れる。
どれだけ攻撃されても怒りと一緒に上昇する魔力によって意味はない。
弱い魔法ではゼラを突破出来ない。
「なら、これはどうや! 来い、ケルベロス!」
頭が三つある狼が六体召喚された。
それらはゼラ達を囲み、一気に攻める。
「ブラッドレイニー!」
赤い色の雨を降らす魔法。それに触れると肉体が腐食して死ぬ。
ゼラには意味無いが子供達には意味がある。ゾンビだろうとも殺す魔法だ。
死者すら確実に葬る魔法を扱う、それが死を司るデッドロードの真骨頂。
「イギアアアアアアアア!」
「なんや」
ゼラの影から六体の悪魔が出現する。
「ゴロゼエエエエエ!」
その純粋な命令と共に大量の魔力によって強化された悪魔がケルベロスに突き進む。
ケルベロスは神話級の魔物。悪魔と同等の戦いを繰り広げる。
雨はゼラがその身を使って守っていた。
「どこまで耐えれるかな! コキュートス!」
大地が氷結の川に包み込まれる。
悪魔が再びゼラの影に隠れてケルベロスは氷の像となる。
「アアアアアア!」
ゼラは体の魔力を炎に変換して子供達を守る。
ずっとデッドロードの攻撃。
「そんなん守って何になる! さっさと見捨てて来いよ! 今のお前ならこの俺を倒せるかもしれんやろ! そんなゾンビになんの価値があるんや!」
叫ぶデッドロードに対してのゼラの答えは単純明快「ゴロズ」だ。
「アアア!」
その分身体を炎の化身に変える。
体が魔力で作られているので、その魔力を全て魔法の炎に変えているのだ。
「そんなんズルやん」
ゼラが揺れるのと同時にデッドロードに肉薄。当然パンチが繰り出されている。
ギリギリで避けるのは当たり前と言った様子で平然と躱す。
反撃の雷撃魔法の準備が終わる。
「死雷」
「アアアアアア!」
黒い稲妻に包まれて苦しむゼラ。
それを無理矢理耐えながらデッドロードを殺しに足を踏み込む。
「お前はようやったわ! もう逝けや!」
即死の瘴気を纏わせ、魔力を込めた拳を高速で突き出す。
魔力を纏わせているので当然ゼラに攻撃が当たる。
ケリや魔法も同時並行で与える。
「もう十分やろ! もうええやろ! 休めや!」
「ウウウ!」
攻撃されても尚抗おうとする。
その姿にデッドロードは感心し、そして喜ぶ。
その高揚感と共に纏うオーラが肥大化する。
純粋魔力の塊と瘴気の塊。
(クソ。本当に殴ってるのか怪しくなってくるなんけ)
攻撃されてもすぐに再生してしまう。
ただ、上昇する魔力が間に合わず少しづつ減っているのは認識出来ている。
このまま行けば倒せる⋯⋯このまま行けば。
「アアアアアア!」
「危ないやん!」
溜めて放ったブレスを跳躍して躱し、召喚用の魔法陣を展開する。
「行け、グリフォン!」
グリフォンがゼラに向かって二体飛来する。
そいつらに向かって跳躍し、触れる。
瘴気に苛まれてその命が消え、落下する。
「それは俺の【即死攻撃】やな!」
大きな魔法陣をデッドロードが展開する。
「アトミック・バルス!」
極太のレーザーがゼラを包み込んだ。
「⋯⋯どうや」
魔法が終わると目下にはゼラの姿がなかった。
分身体のゼラもおらず、気配も感じない。
「ようやく、終わっ⋯⋯」
「ゴロズ!」
だが、ゼラはデッドロードの背後にいた。
宙返りの踵落としがデッドロードの頭に落ちる。
落雷に当たったかのような衝撃と共に地面に衝突する。
ゼラは地面にいるデッドロードに向かって同じ魔法を準備する。
「それはあかんやろ!」
しかし、同じように同じ高さに肉薄して回転蹴りを放つ。
宮殿跡地に向かって吹き飛ばした。
頭の骨がボロりと崩れて宙を舞う。
(危なかった。防御魔法が間に合わなかったら今ので死んでたわ)
再生しながら跡地の方に目を向ける。
膨大な魔力量が眩しく見える。
そして、周囲の瓦礫が重力に逆らうようにゆっくりと上昇している。
「なんや。そこまで影響及ぼすんか」
「ゴロ⋯⋯ズ」
「バケモンが」
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