第55話 運命的巡り合わせ
「なんで悪魔はこの中に入れるんだ?」
「この程度の結界、ワタクシにはハエも同然ですよ」
「なら俺はなんで普通に入れると思う?」
「ゼラ様は魂が不安定です。特にどちらかに属している訳では無いので、問題ないと思います。それにゼラ様の力があればこんなのは効きません」
「過剰評価をどうもありがとう」
「⋯⋯? それでは」
再び影に戻って行く。
どちらにも属してない、ね。
もう少し具体的に言ってくれないだろうか?
魔物の様な魔性でも人間達のような無性でも無いって事か。
どちらにも属してないとは、どちらにも属している事にもなる。
それは俺が『ドッペルゲンガー』のままだからだろう。
本来は姿形を変えて変身元を殺し、自分はその存在になる。
だが、俺にはそれがない。
何かに体を固定させる事無く変身を駆使している。
だからこそ、俺は魔性な生物にも成れるし人間のような無性な生物にも成れる。
「混沌⋯⋯ヒスイ、何か気になる事あるか?」
「そうですね。教皇達があそこまで冷静なのが少し気になる感じです」
「なるほど。少し見てくるよ。悪魔、ヒスイを頼んだぞ」
ヒスイの影が少しだけ揺れた気がした。
彼女自身は「私そこまで弱くないです!」とプンプン怒っていた。
ちょっと子供っぽい感じで柔らかな感情が芽生えた。
小動物へと変身、教皇達が入っていた通路を移動する。
教皇達が入って行った部屋に侵入する。
中では教皇と聖騎士が⋯⋯ワインと肉を机に並べて会話していた。
「また数が増えましたね」
「そうですね。まぁ生贄は多い方が良いでしょう」
「ですね」
生贄?
「にしてもタイミングが変だな。あの余所者は『その日』まで監視しておけ。普通、国がアンデッドだらけだったら教会ではなく外に行く筈だからな」
警戒されていた。
「にしても、アイツらもバカですよね。教会内には大量の保存食があると知らずにあんな細々と」
「ふふふ。今まで平和な人生を過ごしていたんだから至極当然よ。だからこそ、誰かが助けてくれる事を期待して待っているからの。来る訳も無いのに!」
そして二人が笑い出す。
なんだろう。本当になんだろう。
めちゃくちゃイライラする。
確かに他者に手を差し伸べろとは言わない。
そもそも安全圏を提供しているだけでも良い部類だろう。
何よりもムカつくのは、それを嘲笑っている事だ。
こうなったのは俺達のせいではない。
だから言おう、こんな状況で神にも縋りたい事態に陥っているのに、こいつらはそんな奴らを笑っているのだ。
腹が立つ。
《ザザザザ────ザザ───》
必死になって生きて、自分ではどうしようもないから神に救いを求める。
誰かが助けてくれると信じる事しか出来ないから。
自分では戦えない。自分は何も出来ない現実。
だからこそ、逃避する様に誰かに縋るのだ。
俺はそれを良しとはしない。
だけど、そんな人達に手を差し伸べておいて『笑う』と言う行為が許せなかった。
とても、腹が立った。
《じょザ───た─────ザザ》
「エルダーリッチに生贄を捧げて我々だけは生き延びる」
「ええ。我は神の代行者。死ぬ訳にはいきません。きっと彼らも喜んでその命を捧げるでしょう」
⋯⋯成程、こいつらはこの事態を起こした奴と交渉していたのか。
だからとても余裕⋯⋯なのか。
はは。なんだよこいつら。
本当に聖職者か? 善意の欠片もないじゃないか。
それにバカだな。
こんな事が出来る奴がそんな交渉を承諾する訳がない。
もしかしたら何かの準備をしている可能性もあるけど。
まぁ良いや。
俺は部屋を後にして保存庫を探す事にした。
適当なシスターに変身したら堂々と探す事が出来る。
⋯⋯それから数分後、教会内を探索していたら聖騎士が守っている部屋を発見した。
漏れる魔力。ここだな。
「誰だ。ここに近寄って良いのは⋯⋯」
なんか暗殺者っぽい奴が短剣を俺の首に立てて背後に立った。
なのでさっさと溝に肘をぶち込んで気絶させた。
その衝撃で聖騎士の奴らにも警戒されたので、さっさと動く事にした。
「て、敵⋯⋯」
「うわああああ!」
睡眠薬をぶち込んで二人を眠らせた。
魔法なくても俺の体なら簡単に行える芸当だ。
ただかなりの効果だったので、死なないか心配だ。
⋯⋯ま、別に興味無いけど。
ドアを蹴破る。
中には魔法陣の上に乗った食料が沢山あった。
冷凍保存のような魔法かもしれない。
そこからある程度の食料を手に持つ。
「⋯⋯来い悪魔」
【眷属召喚】でこの場に悪魔を呼び出す。
「はい。なんでしょうかゼラ様」
「ヒスイに⋯⋯」
伝言を言い渡して悪魔はこの場所に去った。
俺はシスターの姿のままで食料を持って移動する。
成る可く他者と会わないようにして。
そして、皆がたむろしている中央ホールに出る。
そして、食料を上に向かって投げた。
当然反応する人達。
俺は軽くこう言った。
「早い者勝ちですよ」
人達は飢えていた。子供にもっと食べさせたかった。
だからこそ、人々は食料に群がり始めた。
そしてもう一つの爆弾を用意した。
「あっちの奥の方にもっといっぱいありますよ」
そして俺はどんどん元の人間の姿に戻り、外に出る。
外には既にエルフ姿のヒスイが立っていた。
「どうしますか?」
「既に悪魔達が周囲の情報を得ている。⋯⋯そして悪魔達が侵入出来ない場所⋯⋯あの宮殿に向かおう」
「分かりました」
悪魔達の集めた情報は憤怒の悪魔を伝って俺に流れて来ている。
ある程度の情報は集まった。
結果的に分かったのは、この国の民は教会にいる人達を除いて全員アンデッドになっていた。
下級のアンデッドだ。
他に得られる情報はないと思い、宮殿へと向こう。
当然屋根の上を伝ってだ。
わざわざ危険を犯すつもりはなかった。
そして宮殿の門が見える位置に移動した。
そこには鎧を纏い槍を構えたスケルトンが二体立っていた。
あれは流石に知性が高そうだ。
「もっと上から侵入するか?」
「それだと魔力で反応されませんか?」
「ありえるな。倒すとバレそうだし⋯⋯」
そんな事を考えていると、俺達の背後に強烈な魔力を持った存在が現れた。
ヒスイと同時に振り返る。
そこに居たのは黒幕⋯⋯ではなかった。
「はは。確かにそんな予感はしてたんだよ。でもさ、実際に目にしてみると、なんと言うか、堪えるな」
片目は消えて、肉は緑色に変色している。
歯は数本折れている。皮膚の所々には生前受けた焼け跡が残っていた。
髪型は少しだけ長いストレートの茶髪。
ベトベトして全然風呂に入っている様子がなかった。
爪は剥がれてただれていた。
痛々しいその見た目なのに、所々骨も露出している。
だと言うのに、彼女は平然と立って笑っている。
懐かしの人物に会えたかのように。
「ゼラお姉さんだよね?」
「ああ、ああ! そうだよ。リーシア」
俺が手を伸ばすと、彼女も手を伸ばしてくれた。
冷たく、生きている感じが全くしないその手を。
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