第30話 新たなお友達と成長する機会
「仲良さそうに眠ってるな」
二人で同じベットに入り向かい合うように寝ている。俺がオタクなら「尊い」とでも言って卒倒していたかもしれない。偏見か。
違う種族だと言うのに、全く壁を感じさせない二人の姿に少しだけ和む。
前にいた国や獣王もこのような光景が普通になる事を夢見ているのかもしれない。俺も、この光景が普通になって欲しい。そう思う。
二人を起こさないように部屋を見渡すと、机の上に物が置いてあった。
置き手紙もあったので、それを読む。
『良ければどうぞ』
袋を開けて中を見ると、のりせんべいだった。しかも、お茶っ葉もある。
本当に日本に戻って来たのかと錯覚してしまう。
懐かしい感じに浸りながら、荷物からコップを取り出す。
そこに右手から【放水】してお湯を出して、ティーバッグをちょんちょんする。匂いが、本当に懐かしい。
鏡を見る。
今はちょっとだけ。
俺は子供の姿になる。リーシアの姿だ。瞳を皆を混ぜたモノにする。
コップを鏡の方に持っ行き、押し付ける。軽く、押し付ける。
そして、飲む。
「懐かしいな」
椅子に座って、せんべいと一緒に楽しむ。虫歯にならないので気にしないで食べる。
食事なんて必要ないけど、ヒスイが親切で用意してくれた物だ。ありがたく、美味しく頂く。
バリバリボリボリとした歯ごたえと音が心地よく感じる。
二人は熟睡しているので、起きる様子も音にうなされる様子もない。
窓は開けれないので、外の景色は⋯⋯見れるかもしれない。
「【千里眼】」
壁を突き抜けて外の景色が見える。上を見れば満天の星空と大きな月が見える。
一人で⋯⋯子供達と一緒に俺はこの時間を楽しんだ。
俺はきっと、この体を捨てる事は出来ないと、改めてそう思った。
翌朝、二人が同時に起きた。
リオさんの方が髪の毛がボサボサになっている。良く動いていたので、仕方がない。
ヒスイの方は静かに寝ているので、特に乱れた様子は無い。
「おはようございますゼラさん」
「おはよう」
「⋯⋯」
「おはようございますリオ様」
「お、おはようございますです」
ヒスイにしがみつきながらも挨拶を返してくれた。
この子を見ていると、なんと言うか保護欲が湧いて来る気がした。
すぐに失った悲しみが無意識に働いているのかもしれない。
ま、とりあえずは髪の毛を綺麗にしよう。
「な、何をする!」
「まぁまぁ」
手を手ぐしなどに変えて駆使してサラサラの髪へと戻して行く。
髪を正していると分かったリオさんは大人しかった。
少しばかり頬がピンクに染まっている。恥ずかしいのかもしれない。
だけど、文句は言わずに俺のされるがままになっている。
「ヒスイと仲良くしてくれてありがとう」
「つ、使い魔さんなのに、呼び捨てとか、するんですね」
「そう言う仲だからな。羨ましいか?」
「⋯⋯少し」
「そっか。ヒスイの事を呼び捨てでまだ呼べないなら、まずはこっちからはどうだ? ゼラと呼んでくれ。こっちは使い魔だ。敬意などは不要だ」
「はい」
「ゼラさんせんべい食べたんですか?」
「あぁ。美味かったよ。お茶も良かったよ」
「苦くなかったんですか?」
「全然。寧ろ美味しかった。ヒスイが選んでないってすぐに分かったぞ」
「そうですけど失礼ですね!」
この世界では水が基本的な飲み物だ。お茶もあったが、紅茶などの気品かあるモノだったり、他にはジュースだったりする。
そう考えると、緑茶とかは本当に珍しい。毎日飲みたいとも思わないが、たまには飲みたいと思ってしまう。
買っておくのもありかもしれない。そこはヒスイと要相談だ。
「ぜ、ゼラ、は。お茶大丈夫なの?」
「はい。凄く懐かしい味がしました」
「ここのお茶や餅は特産。あまり他国とも取引はしていなかった。ゼラは龍人? 龍人の住まう里の場所不明。よって取引不可。故にこの国の味を知っているのはおかしいと断言出来る」
だいぶ打ち解けてくれたのか、イタイ所を突いて来る。
⋯⋯それにしても、子供ながらに立派だな。
リーシアを思い出す。
「ゼラさんは時々意味不明な言動をするので気にしたら負けですよ」
「うん。分かった」
「分からないで欲しかった。⋯⋯こらヒスイ、さっきの腹いせか?」
「はい。私は味覚音痴ではありません。苦いのが苦手なだけです!」
嘘偽りのない笑顔を向けてきやがった。
「ありがとう」
「ううん。勝手に触ってごめんなさい」
「あ、いや。ううん! 良かった! 凄く! お母様にやられている感じで、なんか、良かった!」
「そっか。気にいってくれたら明日もやるよ?」
「願いたい!」
そして、今日も俺とヒスイ達は別れた。
人目に付かないように王城へと侵入し、リオさんの部屋に侵入する。
そして姿をリオさんに変える。⋯⋯時間的にはそろそろだ。
「失礼します」
ノックをして入って来たのは豹の獣人でリオさんの側仕え。
世話役だ。足取りなどから見て戦闘の素人では無い。
「おはよう。レコ」
布団に入っている風を装い挨拶をする。
俺と入れ替わっている事は血縁、つまりは兄と両親しか知らない。
だから、側仕えのレコさんにも知られては無い。
ただ、油断したらすぐに気づかれると思う。
リオさん曰く、信用に値する人だから問題ないらしいけどね。
念には念をだ。
「朝食の準備が出来ております」
「はい。受け入れました。着替えて参りますので、その事をお父様方にお伝えください」
「畏まりました」
離れて行った事を確認して、見た目を変えて服装を変える⋯⋯事はしない。
洗濯の事もあるので、きちんと許可を貰った上でリオさんの服をお借りする。
「裸の状態で中身を見たらどうなんだろ?」
そんな事を自分の肌を見て考えた。今はリオさんの体なので、ジロジロ見るのは良くないだろう。
着物を着込んで食卓へと足を運んだ。
既に家族が勢揃いしている。母親の横に正座して、味噌汁、白米、焼きジャケ、漬物を頂く。
地味に豪華な食事を楽しんでいる俺。しかもどれも懐かしい味がするのだ。
秒で兄と父は朝食を食べて、ジョギングに向かう。
本当に王なのかと不思議に思う自由な振る舞いだ。
ジロジロ見ても怪しまれるので、それが普通だと思って朝食に舌鼓を打つ。
味噌汁の出汁が昨日と少し変わっている。
学校の方は長期休みである。
そして、午前中は座学、昼食を挟んで4時まで座学。
そこから晩御飯まで母親とマンツーマンで交渉や王族としての振る舞い方を学ぶ。
その後は筋トレ、剣術などの練習だ。
勿論、間に間に休みがある。
座学はレコさんが教えてくれる。
世界史を教えてくれるのはありがたい。この世界に詳しくない俺にとっては本当にありがたいのだ。
この気に色々と勉強しようと思う。学んだ事はノートにまとめてリオさんに渡す。
これがまだ数日続くと考えると、笑いが止まらない。
剣術などの指導は騎士団の団長が行ってくれる。脳筋には無理らしい。
技術向上、交渉術、歴史など、成長を大幅に得られるこの機会に俺は感謝している。
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