第24話 偽ドラゴンVSドラゴン決着

「ガアアアアアア!」


 鱗の硬度により浅かったが、ダメージを明確に受けた。

 いや、今はそれよりも重要な事がある。速過ぎる!

 目視では追えない程のスピードを一瞬で出しやがった。

 しかも爪も鋭く太く成っている事により、火力も上がっている。


 純粋な身体能力だろう。しかし、名前的にも火や炎の火力も上がっていると想定される。

 少し離れて再生能力を全て使う。傷の部分に火が灯る。


『ガアアアアアア!』


 もうちょっと見せて欲しいのだが、相手の目が赤く輝く。

 鱗の色が赤に黒が混ざり、目の付近に模様が浮かんで来る。

 体は肥大化してないが、見るからにやばいってのは分かる。


『ガアアアアアア!』


「ガアアア?!」


 再び背後に迫って攻撃して来ると思ったが、今度は直線的に迫って来た。

 腕を前に持って来て打撃を防いだが、鈍い音と鱗の破片を散らして突き飛ばされる。

 翼を強く広げてなんとか停止する。

 強い。なんの工夫もない純粋で単純なパンチ。

 しかし、それ故に強く重い一撃。

【炎龍化】だけならまだ戦闘に対する思考が巡っていたのだろう。

 しかし、【狂乱化】を使った瞬間にそれすら無くなった。

 目の前の敵という俺を殺す為に暴走するドラゴン。

 例えすら浮かばない暴力的な存在。

 前世に居れば世界を簡単に掌握出来ただろう。核爆弾すら当てられるか不明だ。

 それだけのスピード、そして破壊力を持っている。


【狂乱化】の使用は成る可く避けたいが⋯⋯それで勝てるか分からない。

 どんな副作用があるか分からない。

 しかし、目の前から迫って来る化け物相手に、全力を出さないで勝てる⋯⋯そんな甘い考えは出来ない。

 全力を出して、それでようやく相手に刃が届くのだ。


「ウガアアアアアアア!」


 高い高い雄叫びを上げ、俺の体が炎に包み込まれる。

 ダイアモンドのように薄い水色のような鱗が真っ赤に輝く。目は黄金に光り、体は相手と同じくらいに肥大化する。

 模様が身体中に浮かび上がる。

【炎龍化】【狂乱化】を使用した完全強化状態。

 さらに、魔力消費を一切考えず、【加速】を利用する。


 これでようやく相手と同速となった。

 同時に突き出される爪がこれまた互いの体を抉る。

 相手からは血が出るが、俺は空虚な中身が露出するだけ。

 振り返ると同時に尻尾の薙ぎ払いが衝突し、互いに飛ばされる。

 雲すら揺るがす攻防を空中で繰り広げる同等のドラゴン達。

 それがきっと、今ヒスイが見ている光景だろう。


『ウガアアアアア!』


「ギガアアアアア!」


 相手は【バーニングブレス】の溜めへと入る。

 俺は【バーニングブレス】と今の変身状態で手に入れた新規スキル【クリスタルブレス】を合わせた【バーニングクリスタルブレス】の溜めへと入る。

 威力は【バーニングブレス】だけで言うと相手の方が上。

 理解度が半分のブレススキルと掛け合わせたブレスで、ようやく同程度。


 空間を揺るがすブレスが衝突し空間をモノクロへと変貌させる。

 しかし、ブレスが止んだらすぐさま肉弾戦。

 相手の体を鉱石をも砕く強靭な顎で砕き、大地をあっさり抉る爪で攻撃をし、衝撃波で建物を破壊する尻尾で攻撃をする。

 相手の噛みつきに合わせてこちらも噛みつき、口と口が直通になる。

 そして、互いにブレスを放った。


 口の中で爆破し、互いに大きなダメージを受ける。

 しかし、そんなのは今のドーピング状態なら問題ない。

 痛みすら何も感じない。ただ、目の前の『敵』を殺すだけのロボットだ。

 俺の中に入っているプログラムは一つだけ、我武者羅に殺せ!


『ウガアアア!』


「ギガアアアア!」


 金剛の爪と火炎の爪が交差し火花で花火を生み出す。

 それは明るい太陽の下でも目立ち、ヒスイの目を虜にしていた。

 互いに敵を殺すと言う意識の元戦い、肉を削り、魔力を消費する。

 生存? 命? 環境? そんなのは関係ない。ただ、今は目の前の敵を殺すだけだ。


 再生すら間に合わない。させない。出来ない。

 そんなハイスピードの戦いが繰り広げられる。


「⋯⋯天より降り注げ、ジャッチメントストーム!」


 嵐が俺達よりも上空から落ちて来て、目の前のドラゴンを覆う。

 そのまま地面に叩き落とされるかと思いきや、魔力を周囲に濃縮して放つ事により風を霧散させた。

 かなりの魔力を使う技だ。しかし、それだけの魔力を操れる技術は評価に値する。

 そんな事をぼんやりと考えながら、互いに空気を揺らして突き進む。


 炎の爪を伸ばし、俺へと上り迫って来る。

 対して俺はなんのスキルも使わずにドラゴンへと迫っていた。

 グジャリ、俺の体が炎の爪に貫かれる。意識が途切れてしまいそうな感覚。

 だが、歯を食いしばってそれを耐える。


「ギガアアアアアアアアアアア!!」


 渾身の叫びと共に相手の翼の付け根を狙って牙を下ろす。

 顎に力を入れて、必死に引いて行く。

 相手のドラゴンも痛みは感じてないだろうが、本能的に危険と判断したのか、急いで離れようとする。

 しかし、相手の体を捕まえてそれを俺が許さない。


「うぐううううう!」


 そのまま噛みちぎり、二枚の翼はもがれて地面に落ちる。

 完全に制空権を失ったドラゴン。それでも俺を殺そうと必死に足掻く。

 貫通させた爪や腕が仇となり、なかなか逃げ出せない。

 そのまま捕まえて、俺はさらに飛び立つ。宇宙に向かって。


『ウガアアアアアアアアア!!』


「ギガアアアアアアアアア!!」


 ブレスを受けながらも、反対の爪で顔を攻撃されながらも、俺達はカーマン・ラインを突破した。

 つまり、この場は大気圏。宇宙と定義される場所だろう。

 空気が薄くても俺は問題ない。しかし、ドラゴンはそうでは無い。

 火も上手く扱えない。

 ここまで来て、俺はゆっくりと頭を下へと向けた。そして⋯⋯翼を閉じて飛行と言う事を止めた。

【狂乱化】した中でも僅かに残っていた俺の理性が勝つ為の最善策を打ったのだ。


 当然、俺達は地上に向かって真っ逆さまに落ちる。

 急激に加速して行き、熱を帯びて行く。

 危険だと、本能で察したドラゴンは必死に藻掻く。

 だが、それすらも意味が無いと分かっているだろう。

 それでも生きる為に藻掻く。


 ⋯⋯そう、奴は遂に『殺す』ではなく『生きる』と言う事を選択した。

 命を大切に思った時点で、奴の負けだ。

 これが俺達魔物の弱肉強食の世界での常識。命を大切だと思った時点で敗北なのだ。


「ギガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


『ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 地面まで後僅か、その時に俺は奴を投げた。

 投げた⋯⋯そう言っても投げる事は出来なかった。手を離しただけだ。

 一緒に落下するだろう。しかし、俺は【狂乱化】などのスキルも解除した。

 戻った思考。そして襲い来る痛み。

 ⋯⋯俺は一度スライムの体を介して人間の体に戻った。

 勢いは落ち隕石のような落下から解放された。しかし、解放されなかったドラゴンはそのまま地面に激突した。

 巨大なクレーターが出現する。衝撃波が俺を吹き飛ばす。

 すでに俺も満身創痍である。


「ゼラさん!」


 離れていたヒスイが必死の形相で迫って来て、衝撃波に吹き飛ばされていた俺をキャッチする。

 顔は半壊、胴体には大きな風穴を開けた俺。人間では死んでいるであろうダメージ。

 しかし、俺は生きている。俺には心臓も血液もない。

 だから、ギリギリ生きているのだろうか。分からない。


「⋯⋯」


 しそのまま意識を落とした。笑顔で。

 奴は最後の最後で自我を取り戻した。本気で『死』を自覚し、『生きる』と言う事が不可能だと分かった瞬間。

 何かから解き放たれた様な清々しい顔と声で『感謝する』と来たからだ。

 どんな理由で殺して欲しいと願ったのか分からない。

 だけど、きっと奴も俺に殺されるなら問題ない、良いと思った筈だ。

 何故そう思うか。簡単だ。

 見た目や種族は違えど、元の形は奴だった。

 だから、アイツの考えや感情が手に取った様に分かったのだ。

 だからこそ、俺も罪悪感無く、今もこうしてヒスイの中で寝れているのだ。


「お疲れ様です。ゼラさん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る