第23話 ドラゴンVS偽ドラゴン

『ガアアアアアア!』


 放たれるブレスをひらりひらりと避けながら接近し、金剛鱗の拳を突き出す。

 しかし、あまりダメージが通っているようには見えない。

 しかも、一度殴ると【炎の鎧】が発動されて焼こうとして来る。

 遠近共に戦えるドラゴンは流石にずるいと思われる。

 もうちょっとどっちかに特化してくれ。


「シィ! 【発勁】」


龍の尻尾ドラゴンテール】と【炎の鎧】を組み合わせた尻尾の払いを避け、チャクラを纏わせた拳で腹を殴る。

【発勁】も利用してダメージを加速させたが、痛覚が無いのか痛みを感じる素振りもなく爪が飛んで来る。

 後ろに瞬時に飛ぶ事で避けたが、反撃までの判断が速い。


「ちょいちょい!」


 ドラゴンは口の前に炎の球体を出現させる。

 そして、その球体がブレスとなって飛んで来る。一度、エネルギーを集中させて放つらしい。

 口から直接放つブレスよりも高度の温度を感じる。

 流石にあれは消火不可能だろう。

 低空飛行しながらそれを避けて行く。


「まじかよ」


 後ろを振り返れば、大地が焼け抉れていた。

 それだけの火力を秘めている。予想としては【フレアブレス】だ。

 俺もブレスは使えるかもしれない。だけど、確実に相手よりも威力は低いので使えない。


 相手のパッシブで火などの耐性は強化されている。他にも爪や尻尾での攻撃も。

 それに再生スキルも増えたし、本当に色々なスキルが増えた。

 後見てないのは【バーニングブレス】と【狂乱化】、そして【炎龍化】である。

 一番優秀だと思ったパッシブは【高速飛行】だろう。お陰で俺の飛行速度は上がり、しかも飛び方と言うのが上手く成った。


『ガアアアアアア!』


 繰り出される攻撃を避けながらどうやったらスキルが使われるかを思考する。

 奴のスキルはどれもが強力だ。全てが欲しい。

 特に強化系であろうスキルの【狂乱化】と【炎龍化】だ。


『ガ、ガ、ガアアアアアア!』


「成程、それが【バーニングブレス】か」


 体全体からエネルギーを一点に集中して放つブレス。

 その温度は簡単に人間の骨をも溶かすだろう。単純な鉱石でも跡形もなく消し飛ぶ。

 たが、このブレスは炎だ。やりようはある。


「試してみたかったんだ。火や炎の耐性はお前のお陰で一気に充実した」


 液体系ならスライムで一気に耐性は増えるのだが、不可能な物も多い。

 電気や火がそのいい例だろう。

 しかし、相手のお陰で火への耐性は増えた。耐性スキルなら奴と同等。


「タングステンと耐性スキルを合わせたら融点が上がるのかって! ぶっつけ本番の身を削った検証だ! お前の最高度のブレスを俺に受けさせてみろ!」


 俺は自身の体をタングステンへと変えて来たるべく炎に備える。

 そう思った刹那、俺は海をも蒸発させるのでは無いかと言う灼熱の炎に包まれた。

 熱い! 初めて感じる熱による熱さに俺は逃げ出したいと言う思いに狩られる。

 しかし、耐えてみせると言う気合いでその思いを打ち潰し、必死に相手を見る。

 どこに目があり、どのように見えているのか、そんなのは関係ない。

 今は相手の最高度のブレスを耐える事が先決だ。


 俺の表面が赤く輝き出す。徐々に体が溶けていく感覚に苛まれる。

 そうだ。俺は段々と溶け始めている。

 しかし、検証は成功だと言えるだろう。周囲の温度もドラゴンの目と真紅眼を合わせた瞳で理解していた。

 今は正確な温度は分からないが、俺がさっき見た温度よりも上がっているだろう。

 既にタングステンの限界を超えている。だから検証は成功だ。

 こんな風に俺が思考出来る時点で、耐性スキルがあれば融点が上がる、その検証は成功だ。


『ガアアア』


「耐えたぞ⋯⋯」


 人間の姿に戻る。片目が作れない。翼もボロボロ。

 腕の皮膚も少し焼けている。後遺症と言う奴だろうか? 少し違うか?

 未だに熱さを感じるし、体からは湯気が立ち上っている。

 地面を見れば大きなクレーターが出来、そこには炎のマグマが注がれていた。


「良い攻撃だ」


『ガアアアアアア!』


「ゼラさん行きます! シルフ様、お力を。テンペスト!」


『ガア!』


「これは凄すぎ⋯⋯」


 地面に大きな魔法陣が展開され、そこから嵐が立ち上る。

 体が引き裂かれる勢いの竜巻が俺とドラゴンを包み込み、天へと上げて行く。

 ぐるぐると視界が回る中、俺は風に身を乗せて体を再生させて行く。

 ドラゴンは必死に藻掻くが、逆にそれが体を傷つけ、ブレスを吐こうにも風に掻き消される。


 凄い魔法だ。これをイメージだけで行う事は出来るだろうか?

 目標が一つ増えた。


 流れに任せ、雲の上を超えた所で嵐から開放された。

 完全回復した俺に反して、傷だらけのドラゴン。

 その体を火で包み込んで回復しようとする。


「ヒスイありがとうな。後は俺だけの仕事だ。行くぜドラゴン。俺の最大級の変身を!」


 体が金剛の鱗に覆われ、牙は鋭く伸び、爪も同様に伸び、猫のような縦線が組み込まれた真紅の瞳が現れる。

 体の体積がどんどんと肥大化し、翼はドラゴンの羽への変わって行く。

 全身金剛の鱗、ドラゴンのような真紅色の瞳、爪に牙、そして太くて長い尻尾。


「ガアアアアアアアアア!」


 高い雄叫びを上げる。

 今の俺は“クリスタルドラゴン”である。

 そしてスキル【雄叫び】を込めて放った咆哮。

 まぁ、あのうさぎの【威嚇】と効果は似ている。目の前のドラゴンには意味が無い。


 そして、相手と同じくらいのサイズ。ブレスも爪や尻尾のスキルも良い感じに使える。

 本当は像の体重を使ったプレス攻撃をしたかったが、弾かれそうだったし、大きな隙を与えそうだったので見送りにした。


 さて、相手はどう出るか。


『ガアアアアアア!』


「ガアアアアアア!」


 互いに空気を蹴って加速して、爪で互いの体を攻撃する。

【龍の爪】に関しては相手の方が上。しかも火を纏わせて来る。

 だが反対に俺はチャクラやこれまでのスキルを使っている。

 更には、下位互換でも相手のスキルも使われている。

 金剛の爪と骨の爪。硬さは圧倒的に俺の方が上。

 しかし、威力は同じ。いや、相手の方が少し上だった。

 だが、防御力の関係で等々のダメージしか受けてない。


『ガアアアアアア!』


「ガアアアアアア!」


 互いに口に火を溜めて【ファイヤーブレス】を放つ。

 相殺し、空を飛びながら火の爪を放ったり、互いに尻尾を振るっての攻撃をする。

 地上近くで戦えば自然破壊は簡単に起こるだろう攻撃同士の撃ち合い。

 現状は互角。寧ろ再生能力の点で俺の方が上である。

 その為、このまま行けば相手の方が先に体力が尽きるだろう。

 しかし、相手には強化系スキルが二つ残っている。


『ウガアアアアアア!』


 体全身に一度炎が纏わり、弾ける。

 鱗がより強く赤く発光する。体も少しだけ肥大化し、所々から火を出している。


『がふぅ』


 ドラゴンが息を吐けば、火と同時に出て来る。

 体温が急上昇していると分かる。目を凝らせば、どのようなエネルギーの流れか、どのような肉体の変化か、しっかりと分かる。

 もっと観察して理解度を上げないといけない。

 それと、どれくらいの強化かも。


「ガアアアアアア!」


 咆哮を上げて相手を睨む。

 そして、同時に飛び向かい、俺の背中は浅く爪で抉られた。

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