第11話 強くなりたいと言う『欲』
俺は右の拳を突き出し、相手は大きくバックステップを踏んで避けた。
一回のバックステップで十メートルくらい離れられた。
何かしらの特別な跳び方かもしれない。
「なぜ、動ける」
「何故って⋯⋯それは対人間用の技だろ?」
「は?」
「俺の勝手なイメージだけどさ、神経とか脳とかに作用するんだろ? 無意識領域に影響ある的な?」
俺には脳があるのかそもそも不明なのだ。
神経は確実にない。
この服の内側はスカスカの空。中身の無い俺に対人用の猫騙しは通用しない。
いや、一瞬確かに硬直した。それは多分、無意識に元人間として、そうなったのだ。
つまり、無意識を意識に持ってこれば良い。俺はドッペルゲンガーだ。
そう考えたら、なんか動けた。
「ごめん訂正。いまいちなんで動けた分からない」
知識なくてすまんな。
「まぁ良い。ならば、これでどうだ!」
地を揺らがす程の蹴りで一気に加速する。
その動きを良く観察する。呼吸の仕方、足や手の動き、それら全ての動きを観察し、真似をする。
相手の突き出しを研ぎ澄ました動体視力で皮一枚で避けて反撃で突き出す。
金属質の鱗を持つ拳は硬く、魔物しての身体能力で速く強い。
それは相手の骨を簡単に砕く。
「ぬっ」
「これが何か分かるか?」
しかし、その手を裏拳で受け流され、そのまま腹に拳が飛んで来た。
内部で何か破裂した様な感覚に成り、吹き飛んだ。
なんじゃこりゃ。明確なダメージを受けた感覚がする。
空っぽの中身で空気が激しく弾けた気がした。
これはあれか? こいつのスキルにも存在していた、【発勁】か?
「これは発勁。基本武術だ。しかも、チャクラで強化した技だ。動けまい」
「いや、動けるぞ?」
「なんでだよ!」
「衝撃には慣れてるんだ」
「意味が分からん!」
バイグでの走行、銃撃での反動、俺は様々な衝撃をこの身で味わっている。
今ならバイクの気持ちが少しだけ分かると思う。
「それよりも、チャクラについて教えてくれ」
「断る!」
残念だ。【
今の理解度はたったの十二パーセント。扱える程では無かった。
相手の直角かと思える程に鋭い蹴り上げが顎を襲った。
⋯⋯あれ? なんで蹴られんだ?
「とと」
後ろに数歩下がり、相手を見ると再びすぐに肉薄していた。
こいつの歩行術もスキルに存在していた。
【流星歩行】である。
あいつの足だけに集中している訳にもいかない。
「お前との戦闘は本当に勉強になる」
鋭い踵落としを横にゴロリと避ける。地面が砕かれ、その衝撃が地面から登って来る。
地面の破片と共に俺も上昇し、その場所に破片を足場として跳躍して来た相手。
その拳には蒼色のチャクラを纏っている。
「
「ビームがダサい」
掌を前に向けてそのレーザーを防いで行く。
右腕がへし折れちぎれて地面に落下した。
俺の口には自分の右腕が収められている。ギリギリでキャッチした。
「痛がらない事は褒めてやろう!」
「それは嬉しいよ。技術的に上の相手に褒められる事は嬉しいよ」
チャクラを纏った拳を高速連撃で放って来る。
「
「⋯⋯これは、単純で良いな」
単純なスキル程理解度は当然上がりやすい。純粋な連撃に見えて、流れ星の様に流れるような連撃。
逆に言えば、それ以外に特徴は無い。
あるとしても、その一撃一撃に【発勁】が使われている可能性と【気功】が纏われているくらいだ。
俺にはそこら辺は備わってない。
だから、魔物としての特徴でカバーする。リザードンの鱗などだ。
「流星連撃!」
「なに?! 俺のオリジナル技を一瞬で!」
拳と拳を合わせて鈍い衝撃を走らせる。右腕は既にくっ付けている。
硬い拳に当てられた素手は少しだけ皮膚が削れ、俺は内部から弾けるダメージを感じる。
土煙を周囲に色濃く広がり、少し離れた場所に相手は着地している。
「な、なかなかやるな」
「お前も凄いよ。人間なのに、俺に明確にダメージを受けさせたと認識させているんだから。地面に転がってる奴らとは一線ぐらい違う」
「こんな有象無象と一緒にするな。俺は天才なんだ」
「そうか」
「⋯⋯お前、感情がないのか? 一切表情が変わらないが」
「あるぞ? 少しワクワクしてる。俺は戦えば戦う程に確実に成長してる。スキル、技術、その全てにおいて。その成長が俺にとっては楽しく⋯⋯楽しい⋯⋯のだろうか」
これは魔物としての本能なのか。強くなる事に凄い欲が出る。
「まぁいい。破っ!」
空気が揺らぎ、体全身に衝撃が掛かる。【発勁】の応用かもしれない。
同じ体勢となり、正拳突きを放つ。
その拳には微力ながら【発勁】が備わっていた。
反発する衝撃同士は周囲に霧散すると思われるが、威力の低い俺の衝撃は呑まれて意味が無かった。
「おぉ」
そのまま地面から足が浮いて、後ろに飛ばされて転がる。
受け身も何も無い後転により景色が目まぐるしく変わる。
止まった時には空を見上げており、そこに人影が出来る。
蹴りだ。見事なヒーローキック⋯⋯ドロップキックが飛んで来た。
「そりゃ」
「頑丈なヤツめ」
その足に合わせて俺も足を伸ばした。
相手の全体重が乗っかり、押されて行く。無理矢理体を上げて弾いた。
倒れた状態から体勢を直して相手を見る。
「だいたい掴めたよ。チャクラ⋯⋯こうか?」
黒色の気功が俺の拳に纏わり着く。
魔力とは違うエネルギーを扱うと言う感覚が気持ち悪い。
「こ、こんな一瞬で成長、するのか」
「あぁ。それが俺の特徴なんだ。俺は明確に【スキル】を認識出来、そしてそれによって元々高い動体視力と観察眼により動きを細かく把握、そしてそれを自分の体に馴染ませる事が出来るんだ」
「な、なんだと?」
「言ったろ? 俺は戦う程に強くなれる。成長するんだ」
「女の癖に男みたいに」
「あ」
ヒスイと約束したのに、俺は女の体⋯⋯と言うかヒスイの体で一人称が『俺』に成ってた。
馬車を見る。うっすりと見てくる騎士が居る。背後を見る。木々が揺れている。
俺の言葉、聞こえてないよね?
ヒスイの印象に関わりそうだ。
「まぁ関係ない。破っ!」
肉薄し、振るわれる拳。しかし、既にその動きは見切っている。
突き出す前の動作、歩き出す時の癖、その全てがさっきと同じだ。
同じ攻撃は、圧倒的な格上以外なら、俺には通用しない。
反撃しやすい体勢で避け、反撃の拳を高速で突き出した。
それを再び裏拳で受け流されそうに成るが、曲げられたベクトルを再び曲げて殴った。
「ぐっ」
「分かるか? これが俺の必殺技、力押しだ」
「い、意味が分からないが。今ので鎖骨が数本折れたよ」
「さぁ来な」
「言われなくても」
もう、意識外に逃げた歩行も通用しない。
あいつは俺の無意識領域に侵入する歩行法を使う。
意識出来る時には既に攻撃されると言うタイミングだ。
危険信号が脳に伝達した時に相手を認識するのだ。
だから、攻撃が来る前に攻撃出来る。ついでに見せてやろう。
相手の攻撃を理解した、してしまった俺の恐ろしさを。
「なんっ」
「相手の不意を突き、衝撃と音で相手の動きを麻痺させる。猫騙し」
俺は猫騙しで相手を硬直させた。
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