第4話魔法を強請って剣を学ぶ
「さっきのナニ?」
俺は素直に質問する事にした。
例え答えてくれなくても、『答えられない』と言う情報を入手する事はできる。
「さっきの……あぁ魔法ですかぁ?」
俺の予想に反して、シャルティーナは先ほどの土杭が魔法であることを、あっさりと認めた。少し拍子抜けしたが、公爵家の長子ともなれば暗殺や誘拐のリスクを考えて、子守の中にも警護の人間を入れているのだろう……
やはりアレは魔法だったんだ!
「まほう? すごい! ビューン やりたい!」
取り合えず子供らしく駄々を捏ねてみる。
「えっと……」
シャルティーナは「どうしたらいいモノか……」と困惑の表情を浮かべている。
この様子では魔法の本でも読んで、自力で覚えるしかなさそうだ。
ここは意思を強く示してみる事にしよう。
「やりたい!」
「はぁ……分かりましたぁ。ユーサー様のお父様とお母様に聞いてみます。いいですかぁ~それまでは今まで通りお散歩と絵本ですからねぇ」
シャルティーナは、普段聞き分けのいい俺の根気に負けたのか、両親に掛け合ってくれると約束してくれた。
いつになるかは分からないが、今はそれでいい。
まだ生まれてから一歳半程度で猶予は長い。身体を作り始めるのを3歳程度から始めたとしても、まだまだ時間はある。
今は読み書きの練習と基礎体力作り……小さな事からコツコツとだ。
「わかった!」
俺は元気よく返事を返した。
「それでアレ……どうしますか?」
若い騎士が恐る恐る声を上げる。
アレとは恐らくは巨大なイノシシの事であろう。アレだけの巨体解体するにも時間はかかるが、肉を捨てるのも惜しいと思ったのだろう。
隊長と思わる中年は唸り声を上げる。
団員や兵士の事を考えれば、持って帰り「肉を食わせてやりたい」と言ったところだが、護衛対象である俺の事を考えると言い出し辛いとの事だろう。
「どういたしましょう……」
隊長もお手上げのようで、事実上決定権を持つシャルティーナにお伺いを立てている。
本来は、立場が上で命令系統の違う騎士が中級使用人である。シャルティーナにお伺いを立てる必要はない。だが自我も定まっていないような子供に伺いを立てる訳にもいかない。
(ここで助け船を出せば、俺の株も上がるかな?)
乳幼児ではない転生者は、少々ゲスな事を考えていた。
しかし、シャルティーナは非常に寛容な態度を示した。
「グレイトボアは大変美味しいと聞きますので、持ち帰れば公子様もお喜びになられると思います。ユーサー様の警護を第一とする事。貴殿らがグレイトボアの臓物を煮込もうが、解体しようが近隣の村からリアカーを借りてこようとも構いません。そろそろおやつの時間ですからね」
「「「「「ありがとうございます!!」」」」」
騎士達はシャルティーナに礼の言葉を述べる。
「全てはユーサー様が、普段から聞き分けの良い良い子だから出来る事です。但し私にも新鮮なモツを食べさせてくださいね~」
レバーや心臓は栄養価が高くてうまいらしい。
現在のように肉屋に並ぶようになったのは、保存技術が発達してからだと聞いたことがある。それまでは獲物を仕留めた
まぁそう言う俺は内臓系がダメで、コリコリとした食感の
この世界の住人にとっては、内臓系は普段食べられない肉の中でも特に貴重な部位なのだろう……
暫くシャルティーナとじゃれていると、肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。
「騎士の誰かユーサー様を見ていてください」
シャルティーナが声をだす。
周囲の騎士が一人の肩をポンと叩いた。
椀の中に入った内臓を匙でかきこみ嚥下すると、大きな声で「はい!」と返事を返した。
若い騎士が重そうな鎧姿のまま走って来る。
「ではよろしくお願いします」
シャルティーナが騎士に声をかける。
「了解しました」
騎士が敬礼すると満足そうに、シャルティーナは火の方へ向かっていく。
「ユーサー様何をしましょうか?」
若い騎士が立膝の状態で視線を合わせてくれる。
年の離れた兄弟や子供がいるのかな?
何というか子供の扱いに成れている。
「けん!」
俺は腰に差してある長剣を指さした。
「剣ですか? 危ないので渡せません。この枝で素振りでも教えましょうか? 素振りと言うのは剣を扱うための練習の事です」
そう言って子供の小さな手では、握れないような太さの枝を見せてくる。
流石に見せてはくれないか……まぁ当然だな……
「やる!」
俺が元気よく返事したのを聞いて、若い騎士はホッと一安心したようだ。
前世では選択授業等と言うモノはなく、問答無用で中学・高校共に柔道だったので竹刀を握った経験はない。別に剣道部だったわけでもないしな……
だからと言って俺に知識がない訳ではない。
年頃の男は皆剣を振った経験があるだろう? 俺の場合は漫画やアニメの影響で、実在の剣術の流派などを調べて見た事がある。
それに俺には高校時代。剣道部の友人が居た。
たしか小指、薬指、中指の三本で握るイメージで……右手を鍔の方、左手を柄のお尻の方を持っつこの時の力加減は3対7ぐらいだったかな。
脚は右足を前に出し左足を少し後方に下げたようなそんな姿勢だったハズ……
俺はうろ覚えのまま中段の構えを取る。
「中々堂に入った構えですね。剣の経験がある訳ない……天性の感覚か? 片手剣よりも両手剣の才能があるのかも……」
若い騎士は何やらぶつぶつと呟いている。
「失礼。そのまま姿勢を崩さないように、剣を上から下へ振ってみてください」
言われた通りに振る。
一回、二回、三回……合計10回程度剣を振るだけでも、普段使わない筋肉が痛み始めている。
子供のカラダって貧弱すぎ……コレは基礎トレーニング確定だな。
まぁしかし、今は泣き言を言っていても仕方がない。工夫で乗り切れる範囲だろう……幕末の動乱期に京都を守護した
手の握りの力加減を変えてみよう……
そう思ってギュっ、ギュっと握り加減や握り方を変えていると、若い騎士が心配そうに質問してくる。
「体に痛みはありますか?」
「うでがつかれたのと、てがいたい。あとあしも……」
「ははは、そうですか。それは強くなっている証拠です」
カラカラと楽しそうに笑っている。
何が面白いんだ?
俺は訝し気な視線を若い騎士に向ける。
そんなこんなで初めての外出で俺は攻撃魔法の存在と、剣術を覚えたのだった。
魔法を学ぶのだ。きっと家庭教師を雇うのだろう……髭もじゃの老人よりは、例え年齢が
こうして俺は3歳になるまでの間。
騎士とシャルティーナに強請って、体力作りのために基礎トレーニングと光の珠……精霊を食って増えるかもわからない。
魔力増強トレーニングに励みつつ、体内にある時から感じていた違和感を操作する訓練を続けるのであった。
早く魔法の先生来ないかな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます