第x話とあるメイドの独白
屋敷の使用人と言っても千差万別。
上級から下級まで大きなお屋敷では格があり、私は中級
上級使用人は個室や近隣に住む事が許されるが、私のような中級使用人は個室か半個室を与えられる。もちろん配偶者がいれば、同じ町に住むことは出来るが……結婚している者は殆どいない。下級や最下級にもなれば相部屋や大部屋での雑魚寝、部屋無しなど当たり前だ。
だが、この屋敷の主人達は寛容で、わざわざ使用人用の離れを造りそこに住まわせている。
自室でユーサー様の教育状況を過去の生徒と比較するため、日記を見ているとドアがノックされる。
(はて……誰だろうか?)
「リャナンシー様~少しよろしいでしょうかぁ~?」
私が趣味の日記を付けていると、
相も変わらず鼻にかかったような特徴的な語尾だ。
「どうぞ……」
そう言って私は許可を下した。
「何かありましたか?」
続けて部下が話しやすいように話題を振る。
「実はぁ……」
そう前置きを話すと、シャルティーナは用件を話し始めた。
「本日、リャナンシー様もご存じの通り、ユーサー様が初めて屋敷外に外出されました」
「えぇ、他の
それが何か?」
シャルティーナと言う娘が、未婚でこの美しさながら
下級貴族である騎士の娘として、生まれた私と比べれば幾分も産まれのいい
教育なのか警護のためか……私も40年余り生きて来た人生の中でもとびきり大きな仕事だ。要らぬ藪を突いて
「その時魔物と遭遇し、騎士主導で倒したのですがぁ……」
「外なのですから、モンスターが出るくらいは普通なのではなくて?」
リャナンシーは確かに、下級貴族である騎士爵家の生まれで、長年王都付近の裕福な家や貴族家で子守をしてきた。辺境の地と言っても過言ではない。公爵家の領地で出没するモンスターと内地にでるモンスターでは質も量も段違いだ。
例えるならRPGでは同じスライムでも、序盤のLv3程度と裏ダンジョンのLv53では、強さが段違いなようにこの世界のモンスターにも、例ほど極端ではないもののその傾向が見られる事を知らないのだ。
コレは行商人や傭兵、冒険者等が経験則で知っている事であり、普段戦わない一般市民には知る由もないからだ。
「えぇですが、生憎と警護の兵達は訓練の済んだばかりの新兵ばかりで、ボアの突進で崩れそうになっていた所を私が魔法で仕留めまして……それを見たユーサー様が自分も魔法を学びたいと……」
私はシャルティーナの言葉に
訓練された騎士や兵士を伴ったなら兎も角、新兵を共としたために次期公爵の長男を無駄な危険に晒すなど、報告を聞いている間生きた心地がしなかった。
「
素人ながらリャナンシーの言葉に、納得できるものがあり従軍経験を持つシャルティーナも思わず納得してしまう。
「はい。仰る通りです」
「ユーサー様の魔法を学びたいと言うお言葉ですが……まだ文字も読めない年齢です。例え教師を招いたとしても満足に学べるとはとても思えません。急ぎ
「ありがとうございます」
シャルティーナはそう言って、リャナンシーの私室を後にした。
私はユーサー様の要望を伝えるため、公爵公子ご夫妻が晩酌をされている私室のドアを叩いた。
「誰だ?」
旦那様の口調はいつも通り優し気で、高位貴族特有の傲慢さは薄い。
冒険者を経験したせいだろうか?
「
「ユーサーの事か、部屋に入って構わない」
主人の許可が下りたので部屋に入る。
「ユーサーが珍しくワガママでも言ったのかな?」
上級貴族の子育てとは、従者に子供を教育させる事であり、パウルのように物心も付いていない子供に、興味関心を持っている時点で随分と子煩悩と言える。
ワガママとは言うが、ユーサーのワガママのために一カ月当たり主人の許可なく使える金は、平民の平均的な収入の一カ月分程度だ。
それを超えた金額をワガママで済ませられるのは、流石王国貴族の頂点である公爵と言ったところだ。
「ワガママと言えばワガママなのですが……本日初めて外へお散歩に出かけたようで、その際モンスターが現れ撃退するため
「あら、ユーサーは剣より魔法が好きみたいねアナタ」
パウルの隣で
「だが貴族の男ともなれば、武芸の腕も求められる魔法ばかりでは周囲の貴族に侮られる」
馬術、剣術、槍術、弓術は貴族男性にとっては必須技能である。
日本の鎌倉時代の武士は、弓道、馬術、槍術、剣術の順番で稽古の比重を置いていたと聞く。
事実の武士=弓と言う構図は、
この国の戦士階級である。貴族も狐などを狩る時には弓を使う。剣は騎士や貴族の象徴であるため重要度が高いのだ。
「急いで評判のいい
そうなれば我々の仕事は、
「ユーサーは賢いですから、
パウルがそう言うと、空かさずシルヴィアが反応する。
「俺よりユーサーと過ごしている君が言うんだ、間違いないんだろう……だったらなおの事早く、俺も剣と槍と弓の
早いうちから声をかけて置いて損はない。
ユーサーが学べない間は寄り子(庇護下にいる貴族の事)や親戚に教師を貸し出してもいいからね」
上位貴族は子女の教育に余念がなく、学校に通う時には教育は既に終わっていると言う話は有名だ。
「でしたら私は今のうちから、スヴェータに声をかけておきます。
あの子は年齢の割に頼りない所はあるけど、魔法の腕はピカイチだから、居場所が分かっている間に冒険者ギルド経由で手紙を出してみるわ」
こうして俺の何気ない一言のせいで、魔法の教師だけでなく、武芸の教師が探される事になったのだ。
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【あとがき】
まずは読んでくださり誠にありがとうございます!
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作者の旧作もお勧めです。
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