第2話精霊の加護を賜る
六ヶ月の月日が流れた。
シャツを巻くって大きくて、柔らかい乳房をさらけ出し俺に母乳をくれているのは母親であり、年齢は30代前半と言ったところだろうか? 赤子は弱視であるため近づかないとハッキリとは見えないが、ぼんやりと見える限りは相当美人のようで、髪は金の長髪で色白と言う。前世で流行った言葉で言えば親ガチャSSRの母親だ。
俺は遠慮なく乳首にしゃぶり付く。
甘い母乳をたらふく飲んで糞をして、泣いておしめを取り換えてもらい。起きて腹が減ったら母を泣いて呼んで母乳を貰う……まるでニートのような生活だが、今の俺にはハイハイと口をもごもご動かし、言葉話す練習ぐらいしか出来ない。
一早く立って一早く体を鍛えるぐらいしか、俺の出来る物事はないのだ。
移動できるというのは素晴らしい事だ。
家……と言うか屋敷の中を徘徊して学んだことがある。
この屋敷は多くのメイドがいる豪邸と言っていいものであり、俺はそこのお坊ちゃんという事になる。
両親やメイド達の会話を聞いていると、言語もそれなりに理解出来るようになっていた。
英語の成績は良くなかったが、現国や古典が得意だったのと乳幼児の脳みそのお陰だろうか? はたまたスピード〇ニーング方式の周囲を外国語に塗れさせる方式のお陰だろうか? まぁ物覚えの良い今のうちに言語をマスターしておくのは悪くない。
父は次期ノーフォーク公爵家当主パウル・フォン・ハワード。
昔は冒険者としてブイブイ言わせていたらしく、寝物語に過去の武勇伝を語ってくれた。
俺の母のシルヴィア・フォン・ハワードとはその時に出会ったらしく、元冒険者の貴公子と妻の子供と言うには一風変わった出生と言える。
因みに今世の名前はユーサー・フォン・ハワード。
どこぞの円卓の騎士王の父親の名前だ。
会話から薄々気が付いていたが、どうやらここは現代日本……というか地球ですらないらしい。
明かりも、良く分からない石を入れるだけで付いているし、離乳食として食べさせられた擦り下ろした果実も、食べた事のない味わいのものだったので本当に地球とは思えない。
――――とりあえず、今でも出来そうなことを考えよう。
魔法があるのなら ~今のうちから使えるように訓練をすれば~ 同年代の中でも圧倒的なリードを得る事ができるだろう。
しかし、本当に魔法があると確認までは出来ていない。
(うーん。困ったなぁ……)
そんな事を考えていると、光の珠のような物がフワフワと漂ってくる。
赤、青、緑、茶色と色彩は様々なもので、いままで気が付かなっただけだろうか? 突然現れたと表現したいモノだった。
「あんあ、あぇあ―――― (何だアレは……)」
言葉にならない言葉を思わず発してしまう。
光の珠はプカプカと浮いており、壁に弾かれて宙を漂っている。
(まさか、この世界特有の害獣や害虫じゃないだろうなアレ?)
「赤ん坊は免疫力は低い」と、大学在学中にでき婚した岡本が言っていた。
抗体が出来ていない子供にとっては、大人にとっては大したことのない病原体でも身体を壊す。赤ん坊にとって医療が恐らく発展していないこの世界では、例えば風邪程度でも死病になりかねない。
終生免疫と言われる
(侵入経路はどこだ?)
俺は大きく重たい頭を何とか左右に振る。
採光用だと思っていた。ガラス窓が解放されている。
(なるほど、窓が開いているから入って来たのか……)
「ユーサー様ぁ~どうされましたぁ~?」
鼻にかかったような、語尾上がる喋り方の
「おしめ」か「おっぱい」、もしかしたら「ぐずり」だと思っているのだろう。
足取りはゆったりとしており、手には
光の珠の正体は分からないが少し気になる……俺の心は
「ユーサー様ぁ~どうしましたかぁ~ お腹がすきましたかぁ? それともオムツですかぁ?」
そう言いながら、ガラガラと鳴る玩具を手首を使って振っている。
精神年齢はオトナと言って差し支えないものの、今の身体は子供……そのフラフラと揺れる玩具に目が釘付けになる。
「あぁ~もしかして、遊んでほかったんですかぁ~」
なんだろう……ゆったりとした雰囲気の
俺は「ぎゃいぎゃい」と泣いて、否定の意思を表明する。
「もしかしてぇ~お散歩したいんですかぁ?」
しかし、会話が出来ない以上完璧な意思疎通はできない。
(
「確認しますねぇ~」
――――そう言って彼女は、俺のおしめを触る。
「濡れてないし、臭くないですねぇ~おかしいなぁぐずってるだけかぁ、抱っこした方が良いのかぁ? 子育てって難しいですねぇ~先輩はユーサー様は楽な方よっていっていたけどぉ」
俺はフワフワと風船のように宙を漂っている光の珠を指さした。
「あ、あい! (あ、あれ!)」
「ユーサー坊ちゃん、どうしましたかぁ~」
――――刹那。
手に持っていたガラガラとなる玩具に、光の珠は綺麗にクリーンヒット。ホームランバッターよろしく見事な曲線を描いて、光の珠は大きく開いた俺の口目掛けて飛んでくる。
「あ、あえおぉぉぉぉぉおおおおッ! (や、やめろぉぉぉぉぉおおおおッ!)」
ごっくん。
(呑んでしまったぁぁあああああッ!)
「ぎゃぁぁあああああああああああああぁぁっぁっぁぁぁぁっぁああああああああああああああああああああ――――ッ!!」
俺は成人男性としての理性を捨てて叫び、泣き喚く。
「ゆ、ユーサー坊ちゃん。どうしましたかっ!」
シャン、シャン、シャン。
中に入っているビーズのようなものが鳴っているのだろう正直に言って煩い。
「何もいませんよぉ? もしかして精霊様でも見えましたかぁ」
――――などと言ってニコニコと微笑んでいる。
(光の珠に気づいてない? そもそもメイドには見えていないのか……精霊様? そう言えばどこかで聞いたことがある気がする……)
どう考えてもあんなに光っている不思議な物体が部屋の中を漂って居たら普通は気が付く。
だがメイドは気が付いている様子はない。
もしかしたら
しかし、飲み込んでしまったものは仕方がない。
先ずは一日様子をみるしかないか……
………
……
…
案の定その晩。俺は体調を崩し発熱をした。
カエルのようなツラの医者が駆け付け、手をかざされると手から緑色の光が光った。
「(魔法ッ!?)」
「驚かせてすまないね、体力を回復させただけだよ」
医者はそんな言葉を投げかける。医者が診断を下すのを、寝たふりをしながら聞き耳を立てていると――――
「おめでとうございます、御子息は無事加護を賜った様です。
まだ詳しい性質は分かりませんが……そのうち分かるでしょう……栄養価のあるものを食べさせて、毛布などで暖かく過ごさせれば悪化はしないでしょう。」
と医師が診断を下す。
「もう加護を賜ったのですか? まだ初日ですが……」
母が驚きの声を上げる。
「子供は良く熱を出すので確定……とは言えませんが、窓を開けて直に熱を出すのは、精霊の加護とみて先ず間違いないでしょうな。
初日で……と言うのは引っ掛かりますがメイドの証言から見ても、ほぼ違いないかと……では私はパウル第一公子にお会いして来ますので、失礼します。マダム・シルヴィア」
「ありがとうございました。Dr.ルトガルディス」
母はそう言うと、濡れたタオルが乗ったおでこを避けて頭を撫でる。
ガチャリと音を立ててドアが閉まる。
江戸やローマ帝国では職に困ったら医学書を買い医者になったと言う。程度が低い医者を藪医者と言うのは、藪を突いて蛇をだすと言う諺と掛かっているらしい。
「まさか一日で、精霊様に見初められ加護を授かるなんて、思いもしなかったわ……」
精霊様……加護……なんか聞き覚えがあるなぁ……あ、思い出した。
この世界にも【国産み】の神話は存在する。
国とは言っても現在の国家と言う意味ではななく、世界がどうやって産まれたのか? と言う物語だ。
元の世界には幾つかのテンプレートがある。
宇宙卵型、潜水型、世界巨人・死体化生型、世界両親型、一神教型と種類があり、例えば宇宙卵型と呼ばれる創世神話は、「無の世界に卵がありそれから世界が生じた」という物語で個人的にはビッグバンが近いと思う。
他の例を上げれば、潜水型は一面水浸しの世界があり、神や動物が水底の泥から世界を作ると言うのもだ。
世界巨人・死体化生型は神や巨人などの死体から、世界を創造したと言うもので北欧神話や中国神話などが該当する。
世界両親型は神の両親から世界が生まれたと言うモノで日本神話が該当する。他には、創造主が世界を作った一神教であるユダヤ、キリスト、イスラム等で、神は世界であると言うギリシャ神話などがある。
長い前置きになったが、この世界の創世神話は世界は無であり水面だけがそこにあった。すると卵が現れその中から女神が生まれ、男神を産みその男神と女神が交わる事で世界や神々が生まれた。……以下省略でこの世界が生まれる。
つまり精霊とは神々の娘であり召使である存在であり、この世界の人々は精霊からの加護を願って、乳幼児の頃に窓を開けておくそうすると精霊に祝福されるらしい……。そう言う迷信かと思っていたがどうやら事実だったようだ。
精霊に祝福され加護を得た子供が、英雄になる話ばかり聞かされていたので魔法や身体能力が楽しみだ。
(明日からよりいっそう頑張らなくては……)
俺は決意を固め。二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
============
【あとがき】
【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます