5章161話 無能力

 「やぁ。」

 

 純白の空間に降り立つ人影が一つ。再び魂の空間に緋翠と話すため雪はやってきた。


「もう来たの?昨日寝た時の感覚を覚えてるから来るだろうとは思ってたけど早すぎよ。で?緋真姉に話は聞けた?」

 

緋翠は……いや分かりにくいな翠はニヤニヤしながら俺に質問する。


「聞いたさ、いろいろと。話したいことはあるけどまずは!」

「ん~?なにかな~?」

「俺の方が年上じゃないか!何姉みたいな雰囲気出してんだ!?姉(笑)じゃないか。」


 この前はよくわからない空間やらいきなり現れたこいつやらで考えることはなかったけどな!


「双子なんだから私が姉でいいでしょ!?もっと何かあるでしょ、なんで能力が3つあったのかとかなんで私がここにいるとか!」

「だってお前を姉とか呼びたくない。俺の姉のイメージは緋真姉だからな。ニヤニヤしておちょくってくるような姉なるものなんて要らん!」

「こんのバカ弟がぁ大人しく弟になりなさーい!」


 翠は俺の背後に回り込むと脇をくすぐる。だが残念、俺は脇なんて弱くない。


『なぁに楽しそうにくっついてんだ。そんなことをするために来たのかぁ?』


 組み合っている俺たちを見下ろすように影がかかる。それは見覚えのある人物で。


雪鬼せっき!お前大丈夫なのか?———邪魔だな離れろって」


 雪鬼が来たのにいまだ諦めないでくすぐり続ける翠を一本投げのように投げ飛ばす。ものすごく軽かったから投げるのは簡単だった。


「遂に弟になる決心がついたのね、さあ!翠姉と呼ぶの!」

「誰が呼ぶか!翠で十分だ。」

「もう素直じゃないんだから………………翠、えへへ。」

『素直じゃないのはどっちなんだろなぁ?で、雪。そろそろ本題に入ろうぜ。』


 そう、俺は此処に翠と遊ぶために来たわけじゃない。俺の体について、能力について、今まで気にしてこなかったことをすべて聞くために来たんだ。


 翠はなんか気持ち悪く笑ってるから雪鬼に聞くか。雪鬼にも聞きたいことはあるんだ。


「翠はあの時、俺と母さんが倒れたとき守ったのは自分だって言った。なら、俺の能力はお前だけ……なのか?」

『いや?吸血や血液操作だってもうお前の能力にはちがいねぇ。というかなぁ俺が説明することなんてねぇんだ、さっさと復活しろ!』

「ふぎゃ!」


 雪鬼は翠を足蹴にして強制的に現実に引き戻す。さっきまで姉だとか言ってたくせに急に静かになるとか情緒不安定か?


『…………人のこと言えるのか?緋翠を自分の娘と認めたときとかよ。』


 ……聞こえないなぁ。


「痛いなぁ鬼ぃちゃん、でなんだっけ?」

『こいつの能力の話だ。何回言えばやめんだその呼び方。』


 俺の割と大事な質問なんだけどなぁ。


「手っ取り早く言うと【吸血】と【血液操作】は私の、【鬼化】は雪の能力。これでいい?」

「いやいや!?全く良くないぞ!?ならなんで俺がその二つを使えてるんだよ。」


 なんとなくそれは感じていたけどあまりにも雑すぎる。もう少し詳しく説明してくれないとここに来た意味がない。


「私と雪が双子、そして私が姉。ここまでオッケー?」

「一部大丈夫じゃないけどまあ進めて。」

「緋真姉に聞いたでしょ、私は……生まれる前に死んじゃった。」

「ああ……」


 そう、翠は生まれる前に死んだ。死産だった。俺が先に、翠が後に。どっちが先かとか関係はないけどもしかしたらとは思う。


「私もね、実はそこまでわからない。ただ、気が付いたらこの空間にいた。ただ、一人じゃなかったけどね。」

『俺がいたからな。お前と翠は双子であったことが幸いし、翠は死ぬ前に雪の魂に保護された。』

 

 俺が生まれたときにはすでに俺の中にいた……?


「これが私がここにいる理由。そして、雪がしばらくの間無能力だった理由。」

『お前、初めて門を開けたとき二つあったのには気が付いてたろ?知らねぇだろうが能力が二つあろうが門は一つだ。』


 門が二つ、確かに能力が3つあるのに門が二つだったのもおかしな話だった。しかし、無能力だったのが翠のせいだっていうのはどういう……


「あそこに見える雪の魂、黒いのが雪、赤いのが私。私の魂が入り込んでしまったせいで能力を使うための門がぐちゃぐちゃになっちゃった。雪が血を飲むまでは。

 血を飲み込んだことで私の魂が活性化して雪と私の門が分離したの。……魔物から守るために能力使ったら雪の体変わっちゃったけど」

「女になったのはそういうことか!?なら、男に戻ることも……!」

 

 今まであきらめていたけど戻ることができるなら試してみたくなる。戻らなくてもとかそこまで男に執着ないとか言った気がするけどな!


『無理無理、俺の体見てみろよ。くっついてたせいで俺まで女になっちまった。能力を覚醒させた時点でもう手遅れだぜ?戻るなら能力を捨てる覚悟をしろよな。』

「くっそぉ、わかってたけどさぁ!!なんかこうどうにかなるかなって思うじゃん!」


 俺がこうなった理由も能力もわかった。翠がここにいるのも。あとは……


「翠は……外に、俺の代わりに外に出たいとか思わないのか?」


 もし逆なら外の世界を自分で歩きたくなる。十数年も外を映画を見るようにみてるのってつらいと思う。

 だけど、帰ってきた返答は。

 

「私はいいよ。雪の見ているものは私もみれるし。」

「いいのか?少しくらいなら身体を貸しても……」

「いいって、それより緋翠ちゃんを大事にしてね?私の娘なんだから!」

「はぁ!?緋翠は俺の娘だが?」

「なら、鬼の要素があるはずでしょー?」

「ぐぬぬ」


 翠と話していたが急に浮遊感を感じ始める。身体が起き始めている兆候だ。


「また、会えるんだよな?」

「もちろん、私の能力使うなら私がいないとね?私を認知してないのに開けさせないんだから。」

「……じゃあな!」


  溶けるように意識が薄れ魂の空間から俺は現実に浮上していく。


「次来るのはいつかなぁ、鬼ぃちゃんは不愛想だから早く来てよ。雪兄」

『はっ俺に話しかけるくらいなら雪を見てる奴が何言ってんだか。早くまた来いって言えばいいんだ。シスコン。」

「そんなんじゃないっての!」


あとがき


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