5章159話 雪月華

「ごめん、遅くなった!」


 緋真姉と別れた俺は急いでクラスに戻った。すると既に最終日の用意を始めていた。


「あ、おはよう雪ちゃん。びっくりしたんだからね?起きたら雪ちゃんいないし。書き置きするくらいなら起こしてよね。」

「ごめん、起こすのも悪いかと思って。手伝うよ。」


 綾の持っていた販売品の入った段ボールを代わりに持って設置する。今日は裁縫部のコンテストがある為、早めに代わってもらうことになっているからせめて準備だけでも貢献しないと。


「そういえば緋真姉とどんな話をしたの?」


 綾が段ボールから売り場に商品を出しながら聞いてくる。


 うーん、正直双子だったとか話してもどうしようもないしなぁ。綾には悪いけどはぐらかそう。


「ちょっと緋翠の事でお願いしに行っただけだから。戸籍ないからどうにかならないかなって。そうしたら既に父さんがなんとかしてくれるらしいよ。」

「そっか、良かったね緋翠ちゃん。」

「うん!」


 そういえば緋翠はどこだと思ったら綾の隣で準備を手伝っていた。緋真姉の話す生まれてくるはずだった双子の妹、それと同じ名前を持つ我が娘を何となく見ていた。


「ん?お母さんどうしたの?」


 俺の視線を感じ取ったのか緋翠がこちらを向いて話しかけてくる。しまった、緋翠の事見過ぎてた。


「え、あ、いや緋翠は頑張り屋さんで偉いなぁって思ったからつい。偉いねぇ、緋翠。」

「皆私に仲良くしてくれるから私も一緒に手伝いたいんだ!」

「あぁ、私の娘世界一可愛い。」


 その後も出し物の準備をして開始前に完了した。体を動かす事で余計な思考をしなくて良くなって助かった。

そして、実質的な最終日がもうすぐはじまろうとしていた。


「みんな聞いてくれ、明日は後夜祭などがありほぼ、今日が最終日だ。裁縫部のお陰で女子は勿論のこと男の方も来店客から人気だ。おそらく初日以来の激戦となると思うが頑張ってほしい!全員可愛い死にさせてやるぞ!」

『うん!』


女子たちの気合も十分だ。男子は乗り気なやつと執事服の違和感に難色を示しつつ、それはそれと気合が入っている奴がいた。


「私も着替えてこないと。綾たちはもう着替え終わってるし。」


 俺は更衣室に向かいメイド服に着替え始める。すると、おそらく同学年の女子であろう人が中に入ってきた。入学したての時は女子と同じ場所で着替えるのに罪悪感を感じてたけど今はもう何も感じない。慣れって怖いな。


「!?」


 入ってきた女の子は俺を見ると若干驚いたのかビクッとした。解せぬ。何となく見たことあるような気がするが思い出せない。どこで見たんだっけなぁ?っとと、早く着替えてクラスに戻らないと。


 雪は急いで着替えて外に飛び出して行った。残された女子はと言うと……


「あ、危なかった……!あと少し見られてたら私がバレるところだった。」


 誰あろう、鬼灯であった。度々寮の食堂やら寮前の道などで雪と出会う鬼灯だったが流石にここでバレるのは不味かった。


「……なんで隠れてるんだろ。別にバレたって良いじゃないか。」


 最近大きくなってきた気がする胸をサラシで押し潰してお化け屋敷の衣装に着替える鬼灯であった。




「ただいまー間に合ったよね。」

「ギリギリな。そんじゃ俺は厨房に行くから頑張れよ、ん?ちょっと待て雪。よし、取れた。」


 クラスに帰ってきた俺は司に話かけたのだがどうやら頭に糸屑が付いていたようだ。とはいえ別に優しいだのカッコいいだのは思わない。だから澪、糸屑を頭に乗せるのをやめなさい。俺と張り合っても意味ないだろうが。


「それじゃあ、開店開戦といこうか!」


 4日目開始のアナウンスと共に一般の方やリピーターが押し寄せてくる。はーい、ゆっくり並んでねー?



「疲れたー!」

「お疲れ様、綾。本当にすごい数だよね。そろそろ私たちは交代しないとだからあとは司に任せよう。」


 既に執事服に着替えた男子と交代してバックヤードで俺たちは休んでいた。


「お疲れ様雪、綾。後は任せとけ。」

「ん、凄く頼りになりそうだね。なら任せようか執事さん?」

「お任せくださいお嬢様?」


 ふざけて遊ぶ俺たちだったがそれそろ移動しないといけなくなった。


「そんじゃ私たちは行ってくる。頼んだよー!」

「おう、ミスコンは見に行くから楽しみにしとく!」

「どうせ笑いものにしたいだけだろうけどね!」


 裁縫部の中に入ると俺たち以外にも数人モデルらしき人がいた。


「化紺先輩、おはようございます。」

「おはよう、今日が本番や。既に銀嶺姉妹は着付けに入っとる、二人も綺麗にされてき?」


 化紺先輩に案内され、裁縫部のメイクアップ担当の元に行った俺たちはドレスだけでなく化粧も施され自分で言うのもなんだが可愛いと思う。


「うんうん、元から綺麗やったけどさらに綺麗になったなぁ。似合っとるで二人とも!」


 化紺先輩の言葉がお世辞でも嬉しく感じるのは俺の中にいるアイツの影響だったりするのかな。別に二重人格のようになっているわけではないがこの光景を共に見ているならこれからも見せてやるよ。


「雪さんたちも着替え終わったんですね!綺麗ですよ!」


 そう言いながら千奈ちゃんとマナス、それから怜が歩いてくる。その後ろから恥ずかしそうに澪がついてきていた。


「みんなも似合ってるよ。」


 うーん、ボキャブラリー不足で上手く表現出来ないのが悲しいところ。


「それじゃ、会場入りしようか?うちについて来てな。」


 化紺先輩に連れられ俺たちは第一訓練場にやってきた。ミスコンはここを貸し切って行うらしい。まだ関係者以外は入れないようになっているがセットは既に設置されており後は観客が入るだけだった。


「ミスコンは学年ごと、それから全学年の計4人選出される。基本、セットから出て歩いてもらって戻ってくるだけや。投票制で観客が一番投票した奴がグランプリって訳や。」

「つまり、私たちの中で決めるってことですか?」

「いや、一応公募やから他にも数人居るでそれにウチ以外がスカウトした奴もいるしな。じゃ、そろそろ始まるからセット裏に移動してな?」


 そしてセットの裏に行くと俺たち以外にも人がいた。そうして、出番を待っていると次第に観客が入ってきて会場に声がこだまして来た。


『さぁ、今年もやってきたミスコンテスト!果たして選ばれるのは誰なのか!?まずは一年部門から開始だー!!今回も粒揃い、まるで雪月華!さぁ、入場してくれ!』


 裁縫部の案内で俺たちはセットから外に出て行った。


あとがき


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