1章10話解明

話そうとして俺はあることを思い出した。


 やばい、血を吸い出して毒を抜こうとしたとか言ったら怒られるんじゃないか?優しいけど専門分野に関しては厳しいからなぁ


 そう考えてしばらく黙っていた俺に父さんがふと思い出したように聞いてきた


「そういえばなんで雪は一人称を[私]にしてるんだ?いつもは[俺]だろ?」


そう、それは俺も思ってた。どんなに頑張って言おうとしても何故か私になる。体もそうだけど精神的にも何か変わったのか?


「なんか何度俺って言おうとしても私って言っちゃうんだよ。頭の中だと俺って言えるんだけど、なんでだろう?」


「分からないけど女の子になった事と関係はありそうだよね。」


そんな話をしていると病室のドアが開いて、先ほど来た先生が入ってきた


「お待たせしました、検査の結果が出ましたのでお伝えします。まず、娘さんの体は健康体そのものですので後数日で退院できると思います。ただ、ご両親が言うには数日前まで男の子だったのに女の子に体が変化していると言われたので検査したところ、間違いなくお子さんは女の子の体だと結果が出ました。」


 先生の話を聞いていろいろな考えが頭を巡った。

 毒を吸ったから?それとも母さんの言う黒ローブに何かされた?


 いくら考えても俺の頭じゃ思いつかないし、そもそも性別が変わるなんてことあり得るのか?

 確かにたまに性転換する生物はいるけど人間ってそんなことしないはずだろ?


「他に異常は無いのでしょうか?」


 母さんが不安げに聞いていた。すると、先生は「あるにはあるのですが・・・」と困ったように告げた。


 え、まだ何かあるの?もう女になったことでいっぱいいっぱいなんだが。


 だけど先生は俺にとって朗報とも言える驚くべきことを告げた。


「これまたご両親が仰っていた事にはなるのですがお子さんには能力がないと言う事でしたよね?」


「ええ、体に魔力がないため能力がないと生まれた病院で告げられました。私も信じられなくて自分でも調べましたがありませんでした。」


 急に能力が無い話をされて意味がわからない、それと何が関係すると言うのか。

そんな空気を俺たち家族は作っていた。


 そんなことを聞いたところでなんの意味があるっていうんだ。俺は能力の無い無能力者。それだけだろ?


「検査をしていましたところお子さんには魔力があることが分かりました。魔力は生まれ持ってくるものとされているため後天的に得ることは事例がありません。」


「は?じゃあ何、私今能力あるのか?」


「そうなります」


 まさかの肯定に思わず敬語すら無くして興奮が隠せなかった。だって、俺に能力があるって言ったんだ。これくらい仕方ないよな。


「でもどうして、たしかに私は無能力者で」


 あ、でもまさかアレでこんな体になったんじゃ無いよな!?

 俺の脳裏に母さんの血を飲み込んだことがフラッシュバックする。


「あのッ!血を飲み込んだら能力を受け継げるとか無いですよね!?」


 軽くパニックになりながら俺は先生に聞いた。そうすると先生は興味深そうに俺を見る。


「少し詳しくお聞かせください」


 俺はあの時のことを正確に思い出しながら先生に伝える。心臓が早鐘を鳴らす。呼吸が早い。


「母さんのかけた霧が晴れて目の前に母さんが倒れてて、毒を食らってもう数分しか持たないって言って意識を失ったんです。それで毒蛇に噛まれた時は血と一緒に毒を吸い出せば良いって聞いたことがあって試したんです。」


「確かにその対処は正しい。しかし、飲み込んだりするリスクもあるので正しい方法を熟知している方でないと危険です。」


 先生の言うとおり吸い出した後に爆発があって飲み込んだんだよな、そしたら何ともなかったから毒に耐性でもあるのかと思って何度か吸い出したんだ。


 俺はそこまで言って母さんからの雷が落ちることを警戒する。母さんが怒る時は本当に怖い。


 やばい、勢いで言ってしまったけど母さんの顔見れねぇ!!!


 しかし、母さんは静かだった。


「その後、頭というか全身が痛くなってでも助けなきゃと思って何回か吸ったあと意識を失ったんです。」


俺の話を聞いて先生が考え込む。


「なるほど、今の話を聞いても魔力が体にある理由にはならないですね。しかし、能力に原因がある場合なら話は別です。お母様は血液操作の能力でしたね。ならばお子さんも似た能力の可能性はあります。過去に魔力ドレイン系の能力者は魔力が補足しずらいという論文があったはずです。」


 確かにその理屈ならあり得そうな気がする、でも女になったことは関係はないのか?


「あの、私が女になったことは関係あるのでしょうか?」


「それなのですが、憶測で構わないのであれば飲み込んだ毒と血に関係があると考えられます。

 お母様、毒の効果をお教えくださいませんか?何せ、運び込まれた時には腕の傷以外異常が見当たらなかったので。」


「【魔毒】という毒で魔力に反応して毒の周りを早くする効果と解毒しようとすると効果が強くなる効果があったはずです。」


「やはり、その【魔毒】という毒が原因だと思います。

まず前提として血を吸い出した時まではお子さんは魔力を持たず能力もない状態だったとします。

 なのでお子さんが持つ魔力に反応せずお母様の血に含まれる魔力に反応したと思われます。

 その後、毒が回って危機に陥った体が毒の魔力とお母様の魔力のぶつかり合いで高まった魔力に共鳴して眠っていた能力を覚醒させたのではないでしょうか?」

 

 ここまでの話を聞いても女になる理由には思えない。何かまだあるのだろうか


 俺は先生の話を一言一句聞き逃さないように聞き入った。千載一遇の機会、もし期限付きだったら。そんなことを考えてた。


「変異型の能力者は発現後にその能力に耐えられる体に徐々変化していきます。

 しかし、急に叩き起こされた能力に体がついていくために毒の魔力に反応する効果と解毒に反応して強まる効果も相まって急激に変化したと考えられます。」


 えぇ、それなら男でも良いだろ。俺が女になる理由ある?

 ここまで聞いて先生の話に疑問が出てくる。


「それなら男の姿でも良かったんじゃ・・・」


「お母様の魔力で共鳴した影響かと。後は、能力を使う姿で一番深層心理に焼き付けられていたのがお母様の姿だったとかでしょうか。」


確かにそれなら納得?出来るかもしれない、というかなら!俺もあそこに行けるのでは!?


「先生、私はこの後も能力者のままなのでしょうか?母の魔力が無くなったらまた無能力者になったりしませんか?」


「その心配はありません、確かにきっかけはお母様の魔力でしょうがあなた自身の魔力も確かにありますから。」


 やった!なら司たちのいるあそこにだって行けるのでは!?


 俺は興奮冷めあらぬ様子で先生に質問する。


「じゃあ魔防学校には入れますか!?」


「実はその点を私どもの方からもお願いしたかったのです。このようなケースが世界的に見ても初なので学校に通う傍らこちらに検査に来てほしいのです。

そして、魔防学校なら存分に能力を試せます。あなたの能力がどのようなものか観察させて下さい。」


 するとここまで黙っていた母さんが喋り出した


「それは息子の情報を世界に論文として発表するということでしょうか?もしそういうことなら協力はできません。」


「そういう訳ではなく、後天的に能力を得た例として匿名で発表したいと考えています。もちろん、雪さんだけでなくご両親にも内容を全て確認した上で、です。」


 父さんも先生に話しかける。


「俺は魔防隊に所属している。もし、俺たちに不利益なことを勝手にしたらどんな事をしてでも止めるだけの覚悟と力は持っている。だから

裏切らないでくださいね?」


 いつもとは違う雰囲気を纏いながらにこやかに笑っていた。












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