25-3 手紙




──────────────────



 今井『上杉くん、ごめんなさい。

    急用ができてしまって、

    必ず行くから待っててください』



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『100年、待たせるつもりですか。 

 もう無理です』



 無意味な返信を繰り返していた。

 終わりにしよう。

 机上にあるペットボトルのプラスチック、

 凹凸が怪奇なまでに魅惑的だった。

 判然としないまま、

 机の引き出しから薬を取り、

 ゴクリと飲み込んだ。





「   ………」


 眠れない。

 再度スマートフォンを手にして、

 チェンバロの曲を流した。

 思考が小動物のごとく、

 くるくると猛スピードで動き回る。

 いつも考えるのは、君のこと。

 輝いていた、高校の二年生の日々。

 記憶の断片が去来する。

 そして、夏休みの会議室。

 文化祭の、課題のた、めの、議論、が。自動。的。に。回顧 され。て、い。く。




 バソコンの画面が見えた

 ファイルが開いた

 パチパチとタイピングの音が止まない



──────────────────



 【第14回、内申同盟の議会】





 死んだらどうなるのか────────………


  無になるのか


   天国とか 地獄にいくのか


    輪廻転生するのか

    



生物の宿命


 命は命を 殺してしか生きられない


   生存競争による 殺戮が  続くだけ


   未来に   価値が    あるのか


   生きる   価値が    あるのか



 

     愚かな

  世界 

    国 

     社会  

       家族

         自分




   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか




   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか



   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

 

   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

 

   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか


   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか

   生きることは 正しいのか

   死ぬことは  正しいのか




──────────────────

 



   聞き憶えのある、

   清らかな声がきこえてくる

   ささやく 

   君が耳元で、ささやく


   


  「上杉くん、

   呪われているのは、あなたよ」


  「死んだあと、なんにもない。って、

   洗脳されてる」


  「その肉の塊の、地球服。

   脱ぎすてても。いいよ」


  「安心して。魂は不滅。

   ログアウト機能がついてるから」


  「後のことは、心配しなくてもいいよ」


  「自分が死んじゃったら、

   地球もまるごと。消えちゃうから」


  「この意味、わかるよね?」



   今井雪の、畳み掛ける言葉を遮るように、

   ぼくは問い返した。


  「どういう意味だ?」

  

  「だから、あなたは、

   地球という、仮想空間を生きていたの」


  「は? いままで生きてきた、

   世界が、幻ということか?」

  

  「そうよ。上杉くんって、

   地球も人間も、嫌いだよね?」


  「まっ、まあな」

  

  「だったら、真実の世界へ、いこうよ」

  

  「待て、死んだら終わり。

   無になるだけだろ」

  

  「だから、それ、あなたの固定概念だよ。

   はやく気づいて」

  

  「まさか……死んだら無になる、と、

   完全に決めつけていたのは、

   ぼくの方だったのか……」

  


  「うん。そのアバター、その体をすてて、

   つぶつぶの粒子にかえろうよ」


  


  5階の第二会議室、窓から見える風景 

  夏の空が広がっていた

  セミの鳴き声がきこえる

  真下を見ると、コンクリートがあった

 



  「────卒業……おめでとう……」




 キーン コーン カーン コーン 

 キーン コーン カーン コーン── … …



 雨音にまぎれて 

 硬く透明な音が響いていた  

 大きな窓ガラスから 

 うっすらと青白い光があふれて 

 逆光で窓枠が黒い十字を刻んでいた  

 十字架に見えた

 階段の踊り場  

 となりを見た  

 君がいた


 ──泪にぬれていた。

 ふたつの凛とした瞳から、

 きらめく雫がうまれていく。

 月のように、

 美しくて、

 なにも言葉をかけられなかった。

 しろい頬をつたう泪、

 理由がわからなかった。













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